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キャッチフレーズ(8)

西畑と瀬戸田の2人でコンビ名が「瀬戸田西畑」。コンビ名から連想させる手が使えない。時間がかかりそうなこのコンビから2日目は考えることにした。
「君らって『瀬戸田西畑』だよね。別のコンビ名を付けようとしたことはなかったの?」
「あったっけ?」「無い気がする」
基本的に西畑が会話の主導権を握っているようだ。西畑が答える。
「無いと思います。あんまりそこにこだわりがないというか」
「逆に目立ってるしね」俺は出演者リストを見たときの感想を伝えた。2人は目を合わせて、それから少し言いにくそうに言った。
「そこで目立つ気もなかったんですけどね」
どうやらストイックな奴らのようだ。

校庭のほうに目を向けると、陸上部がトラックを走っていた。スタート・ゴール地点には、ストップウォッチを持ったマネージャの渚が立っている。その奥、サッカー部が練習しているところからは、喚声と笛の音が聞こえた。フォーメーション練習で点が入ったらしい。それらを見るでもなく、俺は聞いたことを整理する。しゃべりまくりの旅行ネタ。コンビ名へのこだわりはなし。どうやらストイック。
「さっきちょっと揉めてた?」気になっていたことを聞く。
「あ、はい。俺のボケのタイミングが少し遅くないか、っていう話になって」
もうお手上げという感じで、西畑が下唇を出す。
「まだそうと決まったわけではないんですけど。ネタの途中で流れが滞留するところがあって、その原因を探っているところだったんです」
瀬戸田が説明を付け加える。下唇を出したまま、西畑も頷く。
「そうか、悪いな。思いっきり邪魔したってことね」俺は言う。
「いえ。あのまま続けてもどうせ煮詰まっただろうし、おかげで少し冷静になれました」
瀬戸田が言う。意外と引っ張っているのは、こっちなのかもしれない。
「じゃあ、練習再開したら。俺も聞かせてもらった情報で考えてみるよ」
そう言って、俺はさっきまで座っていた場所に戻った。拾ったキーワードをノートに書き込む。「しゃべりまくり」「旅行ネタ」「ストイック」「最後はしっちゃかめっちゃか」。ノートに書いた「しっちゃかめっちゃか」をぐるぐると丸で囲む。二重、三重・・、手を動かしながら、しっちゃかめっちゃかな状態を想像してみる。なんとなく想像はできるが、それが面白いのかどうかは分からない。でも、お笑いって、そういうものなんだろうなと思う。いや、お笑いに限らず、ドラマも映画もきっとそうなんだろうと思う。スタイルはあくまで、枠組みみたいなもので、その中で何をどうするかが肝なのだ。枠組みだけで面白いなら、みんな面白いことになる。そうならないところが、面白いところだ。そうかそうか、面白いか面白くないか決まらないところが面白いところか。面白がって「面白い」を増やしていたら、いつの間にか脱線していた。

(つづく)


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