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キャッチフレーズ(7)

放課後、啓太たちのいる教室に行くと、もう練習は始まっていた。啓太を俺を見つけて駆け寄ってくる。
「悪い、潤。今日は俺も練習していい?そっちは任せていい?」
啓太の表情も、昨日より硬い。みんな本番が近づいて緊張しているようだ。俺も邪魔はしたくない。
「ああ、いいよ。なんとかなるだろ。てか、するしかないから」「じゃ、よろしく」
啓太が貴之のところに戻ろうとするところに慌てて声をかける。
「そうだ、啓太。昨日保留にした2つあったろ。『トマトスープ』と『わんらぶ』のやつ。あれは後で相談させてくれよ」「分かったわかった」
啓太の後姿を目で追いながら、なるべく練習の邪魔にならなそうなところに座った。昨日作ったのが5組分。3年のが4組と、2年のが1組。残り15組。昨日のペースだと間に合わないし、考えやすいのから手をつけているから、だんだん苦しくなってくるだろう。間に合うのか、間に合わないのか
昨日から気分が乱高下を繰り返している。資料を見ながら、考えにくそうなものから考えることにした。
「ちょっといい?」
俺は、窓辺で外のほうを見ながら練習している2年生に声をかけた。声を掛けてから、練習ではなく、言い合いをしていることに気づいた。後姿だと分からないもんだ。まあそりゃそうか、どっちも2人で話していることに変わりはない。そんなことを考えていると、奴らもやつらで、揉めてるときになんだよ、という顔を見せた。だけど、それは一瞬だけで、こっちが先輩だと気づいてすぐに表情を戻した。こっちも遠慮している余裕がないんでね、と心の中で誤りつつ、話を進める。
「俺、3年の大城なんだけど。啓太に頼まれて、各コンビのキャッチフレーズ考えてんのよ。ほら、文化祭の出囃子のときに言いたいんだって」
啓太から話を聞いていたようで、驚いた様子はない。
「どんな感じのネタなのか、教えてもらってもいいかな」
「はい。僕らはとにかくしゃべりまくる漫才で、5分の間に、なるべくたくさんのボケとツッコみを入れようという感じです」
「なるほど」俺は昨日の杏奈の要領でインタビューをすすめる。
「ネタとしては時事ネタ?」「いえ、観光バスの添乗員とお客さんです」
「役割は?」
「僕、あ、西畑ですけど、僕がボケで、こいつ、瀬戸田がツッコみというのが基本形で、だんだんテンポが上がってくると、ツッコみの言葉も何言っているか分からなくなって、それに対してこっちもツッコんで、ツッコみ返されて、最後はしっちゃかめっちゃかにしようと思ってます」
「ふーん。なんか難しそうな感じだな」

(つづく)


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