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論文執筆の方法「研究課題とは?」

国内の院生は、少なくとも自ら設定した一つ以上の「研究課題:テーマ」に関して論文を執筆する必要があります。今回は「どうやって」を研究テーマを設定するべきなのか、その進め方に関して考察したいと思います。


院試で設定した研究課題は変えざるを得ない

我々院生は入学試験の際、必ず研究計画書を提出し、その内容を面接で発表
するといった関門を突破してきました。しかし、修士課程入学前に作成する研究計画書は、基礎・専門知識がほぼない状態で執筆することが多く、その内容は実質使えない場合が普通とされています。
これは、博士も例外ではなく、入学・進学後にテーマを変更することは決して少なくないと思います。

なので、研究室にもよると思いますが、研究テーマは入学と同時に微調整あるいは抜本的見直しになるのが一般的だと考えています。



研究課題は何故見直しになるのか?

結論から申し上げますと、「進まない」からです。壁にぶち当たります。
もう少し詳しく言いますと、「論文」にならないからです。

論文とは何か

論文とは、特定の学問上の問題について、十分な論拠をもとにして、主張や証明を行なう、論理的に構成された著作である。

あなたがもし研究生活の初心者ならば、このような定義を示されてもピンと来ないかもしれない。その場合は、ネガティブに考えて、「論文とはこういうものではない」という形で性格づけをしたほうがよいだろう。

(1)論文はエッセー・随筆ではない
 エッセーや随筆は、折りに触れて感じた事柄を書きつづったものである。論文と異なる点は、エッセー・随筆には論拠に基づく論証が必要とされず、作者の感じたことが読者にも何となく感じられればよいという点である。エッセーならば、「人生は空しい」と書くだけでよい。作者がそう感じていればよいのである。しかし、論文ならば、なぜ人生は空しいのかを、客観的な根拠をあげながら論証しなくてはならない。論文には読む人を説得するだけの論拠と論理皿が必要である。

(2)論文はひとりよがりの文章ではない
 論文は不特定多数の人が読むことを目的としたものである。読んだ人が内容を理解し、あなたの主張に賛成してくれるように書かなくてはならない。自分だけにわかる記号や、仲間うちだけでしか通じない用語などを使ってはならない。論文は自分が読んでわかるようにではなく、不特定多数の人が読んで理解できるように書かなくてはならない。

(3)論文は読書感想文ではない
 外国文学研究の卒業論文などでときどき見かけることがあるが、研究対象となる作品を読んで、その感想を書いたものは断じて論文ではない。論文とは明確な問いに答えるものでなくてはならない。その問いは「〇〇は××であるか?」と明示できるものでなくてはならない。問題の設定されていない文章は論文ではない。

(4)論文は芸術作品ではない
 論文は学問上の主張を行ない、読む人を説得することを目的とする文章である。文章の書き方はわかりやすく論理的なものでなくてはならない。芸術作品のような凝った文体や、詩的な飛躍や比喩などは必要ないばかりか、論文の目的を害するものである。

(5)論文は先行研究のまとめではない
 十分に先行研究を調査しているのに、論文にはなっていないということがある。それは自分自身の主張がないからである。取り扱う学問上の問題について、自分自身の主張すべきことがなければ、それは論文にはならない。

東郷雄二『文科系必修研究生活術』夏目書房、2000年、156~159頁

リサーチが足りないから?
ー違います。

方法論が間違っているから?
―違います。

示唆を与えられないからです。論文として意味がない。

これは、院生たちが「研究課題」が正確に何を指しているか理解できていないからです。即ち、大部分は、研究課題を研究対象として認識し、研究を進めているからです。なので、修士課程卒業論文でよく見かけられている問題は、ただのレビューレポート(5.論文は先行研究のまとめではない)になりがちということです。これは文系でありがちで、理系は所謂、やってみましたレポートになると言えます。

これは、今日ご紹介する『知的創造の条件』から抜粋した一文です。そして、著者である先生の最後の授業に参加しながら授業中に教わった内容でもあります。(先生は、2023年3月に東大を退職されます。)
今回は、書籍の内容に触れつつ、私の経験なども交えて解説していきたいと思います。

研究課題はどんなものか?を理解し用いて、是非とも示唆のある論文執筆に繋がれば幸いです。



院生の自己紹介は「研究対象・方法」を用いる


当たり前のことですが、院生の授業にも「グループワーク」という物が存在します。週一の授業だとしても、結構な数を重ね重ね会うことになります。
初回では、研究科と専攻あたりをお互いに紹介し、「あ、じゃこれ詳しいんですか?」みたいな会話になっています。

数を重ねるたびに、院生なのでやはり研究の話題になります。「どんな研究をしていますか?」などと尋ねると結構な確率で「研究対象・方法」を用いて自分の研究を紹介しています。

例えば、物理が好きで「メモリー」の研究をしています。あるいは、「ビッグデータ分析」をしています。等が一般的な流です。

このように、院生は普段から「研究対象・その方法」を用いて自分の研究を説明しているのが一種の習慣化されているのではないかと思えます。
こういった一種の習慣は良し悪しの対象ではなく、論文に合わせて研究を考える思考の機会がそもそも少ないのではないか?といった疑問につながりました。

論文執筆に合わせ、リサーチを進め、構造化の訓練機会を設ければより効率よく研究を進められるのでは?といった考えに至ったわけです。



論文執筆における一種のフレイムワークがある

ここで、上記で紹介した『知的創造の条件』を参照してみます。研究を成り立たせる要素として以下の8つを挙げています。

  1. 問い「研究課題」

  2. 研究対象

  3. 先行研究

  4. 分析枠組み

  5. 仮説

  6. 実証

  7. 結論

  8. 意義

本記事では、全般の<問い><研究対象><先行研究><分析枠組み>の「往路の四角形」まで紹介したいと思います。特に理解して頂きたいのは、問いと研究対象をどう区別し、構造化するかです。


<問い>は研究の土台
になるため、仮に研究で行き詰ってしまったとして立ち返ることができるようになります。逆に言えば、<問い>が不安定であるとその後の足場が崩れかねません。

この「問い」が研究対象でもなく方法でもなく「問い」として成り立つかどうか検証するための、考え方があるので紹介したいと思います。

Q:あなたの研究課題は何ですか?
の質問に対して望ましい回答とは、
A:18世紀フランスのXXについて研究をしているけれども、そういう研究をしようと思ったのは、YYとZZの関係について明らかにするには、この対象が最も適していると考えたからです。

といった、18世紀のフランスのXXといった対象を通じて、どんな課題に挑戦しているのかを説明している回答です。

明らかにしたい事ー>研究課題といったフレームワークになります。

本書では、研究課題ー研究対象ー研究方法(先行研究+分析枠組み)
の三つの関係性を「何のために」「何を」「どのように」と捉え根幹的なトライアングルと紹介しています。

院生の皆さんがよくResearch Questionは何なのか問われると思われますが、
主に「何を」「どのように」だけを求めてきたのではないかと思います。この記事を作成している著者本人もそうでした。

「何のために」の研究課題を正確に設定すると、もし研究が進まないとしても、研究課題を変える必要はなくなり、研究方法・研究対象だけを変更し、論文の構造を改めることができるのです。


最後に


何を明らかにするために、何を対象にどう分析し、意義を見出せるか?
といった文章を基に、論文の構造を考えてみてはいかがでしょうか。

本記事はスタート部分である「研究課題」だけを扱っています。院生であれば是非とも一読をお勧めいたします!

この記事が皆さんの論文執筆のお役に立てれば幸いです!


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