転ばぬ先の杖は、ハラスメントか、ハラスメントハラスメントか。

学生時代に飲食店でバイトしていた。自分はある程度仕事を任されていて、新人くんのお世話係もしていた。あれしろとかなんでやってないんだとか指導するのではなく、わからないことやつまずいたことを優しく教えてあげる係。自分がこれまでの経験で培ってきたノウハウを、惜しげもなく伝授した。今目の前にないピンチに備えたワザ、いわば転ばぬ先の杖をも先回りして教えてあげた。

学生を卒業した翌年だったか、あの頃のメンバーで飲もうとなった。バイトをやめて数年してから集まるということは、それなりに他のメンバーも楽しかったのだと思うし、その飲み会に声がかかったということは、自分も嫌われてはいなかったのだと思う。わずか数年前ではあるが社会人になってから忘れていた話も多く、思い出話は大いに盛り上がった。

そんな中、一番年少のAくんが酔っ払いながら言った。バイト当時は浪人生だった。

「週刊千字さんとペアの時きつかったですよね。週刊千字さん、すごい仕事に細かくて・・・」

待て待て待て。優しく教えてくれたことへの感謝こそされど、おまえそんな風に思ってたのか。たしかに自分はAくんが困らないようにいろんなことを教えてあげたし、なんならヒマで退屈にならないようにという配慮もあってのことだったのに。しかも他のメンバーに同意も求めてるし。

他のメンバーからどう見えていたかはわからないが、少なくともAくんにはそう受け止められていた。プラスだと思っていたことが真逆に作用することがあるのだと知った。実際、ピンチを事前に取り除いてしまっていたので、ピンチになったときのありがたみを感じることはなかったのかもしれない。そんなことまで備えておかなくても、と。

ハラスメントは、受け手がそう感じればそういうことになるらしい。自分の行動は自覚なきハラスメントだったのか。正直、さすがに自分の事例はむしろ「ハラスメントハラスメント」とでもいうような、自分の側が被害者のような気さえするが、加害者とはそういうものなのかもしれない。指導のつもりだったとか、コミュニケーションのつもりとか、冗談のつもりとか。先日パワハラ上司との期初面談があり、バイト時代のこの話を思い出した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?