誰も悪くないけど親友を失った話。

家が近所で、保育園から高校までいっしょだった友人がいる。ほぼ毎日いっしょに登下校していたし、中学時代は部活もいっしょだった。自分の中では幼なじみであり、親友といっていい存在だった。

あるとき、その友人の結婚式に呼ばれた。自分は親友なのでてっきりスピーチでも頼まれるものと思っていたがオファーはなく、代わりに中学時代の友人だという人物がスピーチをした。自分も同じ中学なので面識はあったし、二人に付き合いがあったことは承知していたが、スピーチを頼むほどの親密さだったとは知らなかった。しかもそこで披露される中学時代のエピソードが、初めて聞かされる話ばかり。自分との友人関係は別に、より濃密な友人関係の世界を親友は持っていたのだ。自分にとってのほぼすべては、彼にとっては一部でしかなかったのだ。

社会人になってからはそもそも付き合いは薄くなっていたが、この一件でなんだか落ち込んでしまい、以降めっきり疎遠になってしまった。ひどいことを言われたわけでもないしケンカをしたわけでもない。そんなことなら受け入れやすかったが、なんならお祝いの場で突き付けられた現実(というか過去)というギャップが、心を締め付けた。勝手に親友と思っていただけで、向こうは友達が多くてこちらは友達が少なかったというだけなのだが。

なんだよ、登下校の時に「特に話すことないなー」と思いながら黙々と歩いたあの時間は、なんでもないようなことが幸せだった無為な青春の1ページではなく、あいつにとっては単なる退屈な時間だったということか。

恋愛でもそうだろうが、お互いがお互いを必要としたり大切に思う感情は、つりあっていないとしんどい。遊びに誘ったりしても、自分は向こうにとっては優先順位が低くて消去法的に付き合ってくれてるんじゃないかとか思ってしまう。自分はこの件で子供のころからの親友を勝手に失ってしまったわけだが、大人になってからの友達作りは恐怖心が増して険しくなるばかり。こういう心の隙間に、いただき女子が現れてあのマニュアルを駆使されたら、効果てきめんだろう。お金を持っていなくてよかった。

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