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料理を始めたのは、「父として生きるため」だった

「いいですねえ、奥さんも喜んでくれるでしょ?」

週末の炊事を自分が担当しているという話になると、まあだいたい皆さんポジティブな印象を持ってくれます。自分だってそう思う、すばらしい取り組みだと。実際、休日の夕方にキッチンで作業をしながら、先に作ったおつまみメニューとビールを楽しみつつ娘の相手をしてくれている奥さんの姿を見ていると、最高に幸せな気分になれる。
でも、ここにたどり着くまでの道のりは険しいもんでした。そもそも「子どもが産まれたら料理をやろう」と決めていたわけでもないし、始めた当初は技術も知識もゼロに近い状態。それでもやろうと決めたのは、今から思えば「父として生きるため」だったのかもしれません。

子どもが産まれた直後のことを振り返ると、それまで何の問題もなく構築できていた家庭環境が激しく揺らぎました。一変した生活に全く適応できず、「自分はどうすべきか、何ができるか」が正しく判断できなくなってしまったのです。家事と子どもの世話で疲弊している奥さんと、ひたすら泣きじゃくる娘。そして途方に暮れる自分。そんな毎日。奥さんに指示されたタスクはやり方を間違うと「そうじゃない」と注意されたり、よかれと思ってやった事が「逆に困る」と言われたり。手が離せない奥さんの代わりに泣いてる娘をあやそうものなら「お前では話にならん!」とばかりに泣き声がヒートアップしたり。
ずっと家にいる、でも何もできない。ただ無力感と閉塞感に苛まれるだけの週末の終わりに、虚しさに包まれながら涙を流したこともありました。恥ずかしながら。奥さんから「そんなに思い詰めないで」と言われたことも何度もありましたが、そりゃ思い詰めたくもなりますよ。

子どもが成長するまで耐え続けるか、それともこの状況を打破するか。自分が選んだ道が後者でした。何か奥さんの代わりにできることはないか。家にいながら、楽しく有意義に過ごせる方法はないか。それを考え抜いてたどり着いた答えが「料理」だったわけです。週末のごはんを自分が作ることで、達成感や自己肯定感を取り戻すことができました。
もちろん最初から今のようなパフォーマンスを発揮できていたわけではありません。まずはパスタを茹でて、インスタントのソースを和えるのが限界でした。あとは、2年間の一人暮らし時代に培ったチャーハンや野菜炒めとかが精一杯。具材を切り終えるのに小一時間かかったこともあります。でも、徐々に基本的なメニューがスムーズに作れるようになるにつれ「今度はアレ作ってみようかな」とか「こうなって保存しとくと次に使いやすい」とか、成長や発見を楽しめるようになってきました。今までの人生で何度も味わってきたあのワクワク感、再び。こうなってしまえばチョロいですよね、男は。

料理をするようになったからといって、悩みが全て解決したわけではありません。また、料理さえやっていればいいというわけでもありません。ただ、少なくとも家事と育児にとことん向き合うことで「自分はこれだけやってるんだ」という父親としての誇りを持つことができました。趣味でも勉強でも仕事でも、今まで何ひとつ「100%やれるだけのことをやった」と自信を持って言えなかった自分が、今は胸を張って言える..それが一番の成果だという確信があります。
これからリリースしていく記事は、簡単レシピやちょっとした役立つ情報が中心になりますが、その背景には切実なる経験がこっそり隠れているのです。もし、自分と似たような境遇で悩んでいる方がこの記事を読んでくださったなら、「父として生きるヒント」となる情報をお届けすることを約束します。

今はまだ鶏そぼろのレシピしかないけどね。


いつも読んでくださっている方、スキしてくださっている方、ありがとうございます。お気持ちだけで十分でございます、はい。