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私たちはプロの仕事に支えられている。

7月末に少しの期間入院した。

久しぶりの手術に緊張していると、看護師さんたちが自然な笑顔で励ましてくれる。
「だぁいじょうぶ、先生はプロ中のプロなんだから。」
「百戦錬磨だからね。目ぇつぶっててもできるわよ。」
一番ベテランであろう看護師さんは、目をつぶってメスで切るジェスチャーをした。
私が頷くと、看護師さんたちは「頑張ろうね~」と言いながらテキパキと準備を進めていく。
「動きに無駄がないですね。」
思わず声をかけると、
「私たちもプロだからねっ!」
「ね、目ぇつぶってても大丈夫よぉ。」
息の合った回答に、思わず笑ってしまった。

術後、目が覚めると、喉がとてつもなく渇いていて「あぁ、生きてるな。」と思った。
死ぬことはないと、もちろんわかっていたけれど、喉の渇きが生を実感させてくれる。
しばらくぼんやりしていると、
「あ、起きましたぁ?」
看護師さんの明るい声がした。なんだかホッとする。
「顔色もいいね。今から先生呼ぶからね~。」
そういえば、入院してから会ったどの看護師さんたちも、みんな明るい声と笑顔だ。
看護師さんたちが明るい声をかけてくれるだけで、少し術後の痛みも和らぐ気がして不思議。
「魔法みたいな声ですね」と言ったけれど、掠れすぎて言葉にならなかった。

体が回復してくると、どこからか小さな声が聞こえるようになった。
よく耳を澄ますと、「おかぁさ~ん」と呼んでいるようだ。
朝晩問わず、幽かに聞こえてくる。
「まさか…」
なにせ、ここは病院だ。ホラースポットの大定番である。
そんなことを考えて、さらに耳を澄ますと、その声は泣いているようにも聞こえる。
「検温ですよ~。」
若い看護師さんが入ってきた。検温しながら、テキパキと私の状態を確認していく。
「あの、なんだか『お母さん』って声が聞こえるんですけど…」
聞こえるのが私だけだったらどうしよう、と思いつつ尋ねると、
「あぁ、驚きました?」
看護師さんはニコッと笑った。
「隣の隣のお部屋に、86歳のおばあちゃんが入院してるんですけどね、私たちのことをお母さんだと思ってるんですよ。だから、ああやって、ずっと私たちのこと呼んでるんです。」
ひとまずホラー展開ではなかったことに安心しながら、
「それは…大変ですね。」
と返すと、
「ぜ~んぜん。もう可愛くって。86歳の、私たちの可愛い娘です❤」
ニャンちゅうみたいな笑顔を私に向けた。

入院期間、「おかぁさ~ん」という声は永遠に聞こえていたけれど、看護師さんの笑顔を思い出すと何だか微笑ましい気持ちになった。
看護師さんたちは、どんなときもずっと明るく、笑顔だった。体力的にも精神的にも、大変なことの方が多い仕事だろうと思うけれど、そんな素振りは一瞬も見えなかった。プロとして、仕事に向かう姿勢がかっこいい。感謝と尊敬の日々だった。

ありがたいことに術後の経過は良好で、予定通り無事退院し、仕事に復帰できた。
日々の仕事に追われていると、入院期間の記憶が遠くなっていくけれど、看護師さんたちの仕事へのプロフェッショナルな姿勢に何度も救われて、元気づけられていたことを忘れてしまわないよう、ここに記録しておく。

担当医のM先生、看護師のYさん、Kさん、Iさん、Uさん。ありがとうございました。

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