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100分の1ミリで紡ぐ伝統 知られざる貨幣製造の裏側|【特集】デジタル時代に人を生かす 日本型人事の再構築[Column2]
日本型雇用の終焉──。「終身雇用」や「年功序列」が少子高齢化で揺らぎ、働き方改革やコロナ禍でのテレワーク浸透が雇用環境の変化に拍車をかける。
わが国の雇用形態はどこに向かうべきか。答えは「人」を生かす人事制度の先にある。
安易に〝欧米式〟に飛びつくことなく、われわれ自身の手で日本の新たな人材戦略を描こう。
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昨年11月、21年ぶりに500円貨幣のデザインが刷新された。世界に誇る偽造防止技術の裏に、150年の歴史に培われた手作業があった。
文・編集部(川崎隆司)
『桜の通り抜け』の名称で親しまれ、全国有数の花見処としても知られる独立行政法人造幣局(大阪市北区)は1871年(明治4年)創業、昨年150周年を迎えた。2021年11月より発行を開始した「新500円貨幣」をはじめ、国内に流通する全ての貨幣は、同局の装金極印課修正担当に所属するわずか6人の手作業により仕上げられた「種印」と呼ばれる金型を基に製造される。
その工程には、「人材育成」によって過去から脈々と受け継がれてきた〝ものづくり〟の歴史が宿る。
「人生を賭して技術を磨く芸術家と違い、われわれ公務員には定年退職がある。だからこそ、自らの技術研鑽と同時に、限られた時間の中で後進を育てていかなければならない」と語る土堤内靖さん(57歳)は職務歴39年、係を束ねる作業長の職を継いで7年になる。
次世代に受け継ぐという使命
同課の6人が担う仕事は「修正」と呼ばれる。貨幣や記念メダルなどの製造の際に原材料に圧印し、その表面装飾を決定づける種印は、硬貨を「版画」に例えるなら、その原型となる「木版」に相当する。
例えば、10円玉の『平等院鳳凰堂』、100円玉の『桜』に代表される貨幣表面の模様における微細な陰影や角度は、現在の機械技術では再現できない。機械で削り出した種印の原型に対し、100分の1㍉の精度を要する手作業による修正を施すことで初めて、先人から受け継いだ従来貨幣の模様と寸分違わない種印が出来上がる。ときには爪楊枝の先をさらに削って作業に用いることもある。それほどまでに緻密な作業に適した道具は市販に存在しないため、配属1年目の仕事は、自らの手に合った道具の製作から始まる。
「海外からの見学者の中には『なぜそれほど精巧な技法を施すのか』と疑問に思われる方もいる。機械では再現できない技術によって偽造防止に役立つ面もあるが、発行年が変わっても、変わらず同じ模様を再現し、過去から培ってきた技術を絶やさず次世代に受け継ぐことがわれわれの使命だという思いがある」
新500円玉のデザインは旧500円玉を引き継いでいる。最も経験が長く、旧500円玉を担当した土堤内さん自らが修正作業を受け持つ選択肢もあったが、自身の退職後を見据え、職場で中堅の矢崎淳士さん(38歳)を任命した。
「世間の注目度が高く、さらに旧デザインを引き継ぐことに重圧を感じる部分もあったが、大きな仕事を任されたことに対する喜びがそれを上回った」
矢崎さんは新500円玉の修正作業を依頼された当時の心境をこう振り返る。
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入局して4年の山尾みずほさん(22歳)は、記念貨幣の収集が趣味だった母親の影響もあり、今の仕事に憧れて造幣局職員の道を選んだ。貨幣の種印修正を担うには経験が足りないため、記念メダルなどの修正作業を担当しながら日々技術を磨いている。土堤内さんは成長途上にある彼女をあえて、自らの隣の席に配置した。
「まず、土堤内さんの使っている道具を見せてもらう。その後、作業中の手や道具の角度を参考にする。それらの視覚イメージと口頭でもらうアドバイスを掛け合わせながら自分の感覚に落とし込むことで、ようやく土堤内さんの持つ技術の一端を吸収できたと感じることができる」(山尾さん)
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こうした日々の積み重ねが、世界に誇る貨幣製造技術と「創業150年」の歴史を築いたことは疑う余地がない。技術の発展は、それを受け継ぎ、次世代につなぐ「人」の存在があってこそなのだろう。
出典:Wedge 2022年4月号
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