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強い安保に経済力は必須 官民一体で日本の国力を高めよ|【WEDGE OPINION】

米中対立の先鋭化を背景に、国家を守る戦略活動と企業が進める商業活動との仕切りが氷解しつつある。通常国会での成立を目指す経済安全保障推進法案の重要性が増す中、そこに欠かせぬ視点を提言する。

文・宮川眞喜雄(Makio Miyagawa)
前国家安全保障参与
東京大学工学部航空学科宇宙コース卒、オックスフォード大学国際政治学博士。外務省法令班長、内閣官房副長官秘書官、日本国際問題研究所長、軍縮不拡散科学部長、日米原子力協力大使、在マレーシア特命全権大使などを歴任。著書に『経済制裁』(中公新書)など多数。

 国際政治における米国の断然たる優位に微妙な揺れが出始める中、地理的近傍の中国が経済力拡大によって軍事力を増強し、現状変更の意図を隠さなくなった今、日本は安全保障の力量を強化する必要に迫られている。この危機意識の中で、経済の力を国家の安全保障に活用する方策を模索すべきだという議論が、多くの人々の支持を得てきている。しかし、具体策はなお議論百出である。

 経済安保は英語では「Economic Statecraft」と表現され、国家の内政や外交を管理運営する経済分野の力を意味する。2点断っておくが、まず経済安保は経済活動の安全を保障する方策のことではない。安全を保障する対象は、あくまで主権国家の国益であり、それを他国の政治・軍事の圧力や攻撃から経済力を使っていかに守るかが課題である。もう一つ、日本は経済力さえあれば軍事力がなくても国は安泰だという、かつて左翼的識者が誘った主張でもない。経済安保は、経済力で軍事力に代替しようという施策ではなく、経済力で軍事力を補強するための方策である。

 経済力は科学技術の開発を容易にし、技術が軍民双方の機能を高めるデュアルユースの時代には、産業の科学技術振興は防衛技術をも高め、先端的防衛装備を可能とし、防衛力を強化する。これは経済安保の主要な柱の一つである。

 自由化や規制緩和により経済活動の活性化を目的とする本来の経済政策と、国家の安全保障の強化を目的とする経済政策は、別々の価値に立脚する2セットの経済政策である。これらは衝突関係にはなく、むしろ補完関係にある。経済利益が拡大し経済基盤が強くなければ、経済力を使って国の安全を確保する政策は成功し難い。また国の安全が脅かされる時、産業界の経済利益追求は大きな制約を受ける。

 それら2セットの経済政策には、別々のルールが適用される。これは国際法上も許容されている。世界貿易機関(WTO)や経済協力開発機構(OECD)が定める制度において、安全保障に関連する経済活動は各々の機関が定めるルールの対象外と規定されている。関税率賦課も、企業の海外拠点設置も、直接間接投資も、政府の補助金支給も、安全保障に関する限り、各国は独自のルールを適用できる。

法制化に欠かせぬ視点
いかに「抑止」につなげるか

 現在わが国で、経済安保のための法律案が検討されているが、さまざまな国内の法制度や商慣行について、安全保障の観点から、本来の経済産業政策とは別のルールの適用が検討されるであろう。「外為法」、「財政法」、「独占禁止法」、「特許法」などにおいて、特別の規律の適用が検討されよう。産業界で企業に求められるコーポレートガバナンス・コードについても、……

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