水面下で奔走するデジタル庁 知られざる司令塔の役割とは|【特集】漂流する行政デジタル化 こうすれば変えられる[INTERVIEW1]
今、われわれが目指しているデジタル化はこれまでのものとは全く異なる。
2000年代以降、日本が進めてきたのは今あるものを効率化するという「As-Is」のデジタル化であった。一方で、現在目指しているのは「To-Be」のデジタル化だ。これは、やり方を変えることによって、単なる効率化にとどまらず、それ以上の価値や可能性を見出すことを意味する。
例えば、印鑑のデジタル化。単にデジタルの印鑑を使用するのは「As-Is」だ。一方、「To-Be」のデジタル化では印鑑が必要となる手順を整理することから始める。例えば支払い業務の決裁時、紙の書面に押印することがあるとしたら、その過程を見直すことで、そもそも押印という行為が不要となることもあるだろうし、オンライン決裁によって、決裁者がアイコンをクリックするだけで支払いまで完了されるように手順を変えることもできる。これが「To-Be」のデジタル化だ。
デジタル庁がこれまで日本のIT戦略を担ってきた組織と大きく異なるのは「実行力」だ。かつての組織は司令塔として規定やガイドラインを策定し、自治体などへ「推奨」することが主たる業務だった。一方、デジタル庁ではIT分野に精通した民間人材を登用することによって、推奨するだけでなく、システム自体を自分たちで開発して提供することが可能となった。
司令塔だけでなく、ベンダーとしての役割も担うデジタル庁に与えられたミッションはさまざまだ。
自治体向けに与えられた最大のミッションは基幹業務システムの標準化・共通化・モダン化(デジタルネイティブ化)だ。自治体のシステムはこれまで、各自治体専用にカスタマイズされてしまっていた。標準化・共有化・モダン化によって、自治体間でのデータ連携が可能になるため、自治体の業務効率化や国民の利便性向上を図ることができる。
この他にも、自治体同士が事例を共有し合える場を提供することにより、各自治体間でのデジタル化も後押ししている。例えばビジネスチャットツールを活用することで、気軽に「前例」を共有できるだけでなく、タイムリーなアドバイスも可能になった。現在、約5000人の自治体職員が参加し、日々活発な議論を交わしている。
デジタル庁に与えられた難題と
国民への価値提供
デジタル庁の重要な役割の一つに各省庁が持っているシステムの共通基盤化がある。通常の入れ替えだけでも5年程度かかるシステムを、相互利用が可能な形で連携させるには、10年あっても難しいと考えている。
施策自体のコントロールを各所管省庁が担う中、共通基盤を構築・運用する側として、デジタル庁も各省庁と共通の考え方をもってシステムの仕様を決めていかなければいけない。ただ、デジタル庁内の人材も限られている中で、今後、多くの既存案件や新規案件にデジタル庁がどこまで関与するべきか、というのは目下検討中の課題だ。
デジタル庁の取り組みとして国民の目に見える成果を出すことも重要だ。厚生労働省と連携したワクチン接種記録システム(VRS)や、総務省と進めているマイナンバーカード機能のスマホ搭載がその例だ。政府や自治体向けの基盤構築という長期的な取り組みと並行して、これからも国民が実感できるデジタル化を各省庁と連携しながら進めていく。
国民に対する価値提供として、今後は民間企業との情報連携を進めることも視野に入れている。国が持っているデータを民間企業が自由に正しく活用できれば、国民がメリットを享受することにつながると考えているからだ。
発足から1年が経ち、日本のデジタル化に向けたさまざまな課題が見えてきた。解決までの道のりは長いが、デジタル化によって次の世代に何を残せるか──。そのことを常に考えながら日々の業務にあたっている。
※イラストレーション=藤田 翔
出典:Wedge 2022年9月号
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コロナ禍を契機に社会のデジタルシフトが加速した。だが今や、その流れに取り残されつつあるのが行政だ。国の政策、デジタル庁、そして自治体のDX…
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