タンザニア商人に学ぶ 人間はみなLiving for Today|【特集】現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう[Part2]
日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが〝経営の最優先課題〟になりつつあるかのようだ。
しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。
今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。
タンザニアの零細商人(マチンガ)の世界に飛び込んで自らも古着を売り歩き、インフォーマル(統計に載らない)経済の実像を浮かび上がらせた『「その日暮らし」の人類学』(光文社新書)。そして、タンザニアの交易人たちの香港や広州での動きをまとめた『チョンキンマンションのボスは知っている』(春秋社)。彼らは不安定だからこそ仲間内でちょっとした貸し借りを繰り返すことで困ったときには互いに助け合う。文化人類学者の立命館大学・小川さやか教授に、現在の日本社会を覆う「違和感」や「閉塞感」打開のヒントを聞いた。
なぜ安定よりも
不安定を選ぶのか?
人類学の博士号を持つフィナンシャル・タイムズ(FT)米国版編集長を務めたジリアン・テット氏の『ANTHRO VISION 人類学的思考で視るビジネスと世界』(日本経済新聞出版)では、人類学者を採用する企業の動機について紹介している。
あるべき未来像が掴みにくくなる中で人類学の調査方法である「参与観察(詳細は後述)」や、異文化を通じて自文化を見つめなおすという「アウトキャスティング(外側からの予測)」の思考法により、企業は自社の製品開発や組織改革などに生かしているようだ。
そもそも人間も企業も、自分(社)のことは自分(社)が一番よく分かっていると思い込む傾向が強い。しかし、例えば、外国人に「なぜ、『ありがとう』と伝えるべきところ『すみません』という言葉を使うのか」と問われても、多くの日本人は普段、そのようなことを気にして暮らしていないので、咄嗟に答えることは難しいはずだ。
人類学者は、いかに奇異に見えても他者や異なる社会には私たちとは違う論理や機序があるという視点を持ち、その集団の中に入って彼らと暮らしながら、細かく人々の言動を観察する「参与観察」という手法を採る。そのため、基本的にインタビューという形式ではなく、一緒になって古着を売ったり、生活したりする中で、経験的・身体的に他者の行動を捉え、疑問に思ったことを尋ねて記録していく。
このように「外からの視点」から問うことで、内側にいる人たちも普段は気にも留めていなかった言動の意味を浮かび上がらせ、共有するのである。
今、多くの日本人は、……
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