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移民政策を大転換した韓国 日本も〝矛盾〟から脱却する時|【特集】日本を目指す外国人労働者 これ以上便利使いするな[Part3]

“人手不足”に喘ぐ日本で、頻繁に取り上げられるフレーズがある。
「外国人労働者がいなければ日本(社会)は成り立たない」というものだ。
しかし、外国人労働者に依存し続けることで、日本の本当の課題から目を背けていないか?
ご都合主義の外国人労働者受け入れに終止符を打たなければ、将来に大きな禍根を残すことになる。

「移民政策はとらない」としたまま、制度矛盾から脱却できない日本。一方、韓国は「社会のあるべき姿」を実現するため、大きく舵を切った。
日本はこのまま現行制度を維持し続けるのか?

文・李 惠珍(Lee Hyejin)
日本国際交流センター
シニアプログラムオフィサー
韓国出身。2003年に留学生として来日。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。一橋大学、お茶の水女子大学のリサーチ・フェローを経て、14年より現職。移住当事者として、日韓の移民政策、アジアの移住労働を研究する傍ら、移住者支援活動にも参加。


 外国人技能実習制度の創設から間もなく30年を迎える。同制度は長年、趣旨(=途上国への技術移転による国際貢献)と実態(=日本国内の人手不足の補完)の乖離が指摘されている。さらに、監理団体、送り出し機関、地域・職種・国をベースにして作られた団体などの「合法的」な仲介者が、斡旋費、監理費などを徴収し、利益を生み出す「商業ベース」の構造が整備・温存されてきた。

 このいびつな構造から脱却するにはどうすべきなのか。かつて、日本と同様の構造を解体し、「単純労働の外国人労働者は受け入れない」という従来の移民政策を大転換した韓国を例にとりながら、考えてみたい。

韓国も日本同様の課題に直面
国民の声が〝大転換〟の契機に

 韓国で外国人労働者問題が政策課題として取り上げられるようになったのは、1980年代半ばからである。その背景には急速に人手不足が進んだ製造業・建設業で、観光などの短期滞在で入国したアジア諸国の外国人が単純労働に従事する「未登録状態の就労」が急増したことがある。

 韓国では、現在の日本と同様、「移民政策はとらない」という方針があり、外国人労働者を正面から受け入れる制度がなかった。だが、未登録労働者、いわゆる「不法就労者」の削減と人手不足に悩む中小製造業からの外国人労働者の受け入れ要請は日増しに強くなっていく。そこで、韓国政府は、「『学ぶ』ことを目的とした外国人を受け入れる」という日本の研修制度のレトリックを採用した「外国人産業研修制度」を導入したのである。

 同制度では、研修生である外国人は労働関係法令の対象とみなされず、送り出し・受け入れの業務は民間の団体が担っていた。これにより、日本の技能実習制度で問題視される外出禁止やパスポートの取り上げなどの人権問題、最低賃金より低い研修手当、渡航に要する高額の手数料など、民間業者のさまざまな不正問題が絶えず発生したのである。

 高額な出入国費用や中間搾取で多額の借金を抱えるようになった多くの研修生は、……

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