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露が揺さぶるエネルギー秩序 日本発で〝新LNG構想〟示せ|【WEDGE OPINION】

世界は今後、ロシアからエネルギー資源を「買って良い国」と「買ってはいけない国」に二分される。国際的な供給システムが一変する中で、LNGトップランナーである日本が果たすべき役割とは。

文・大場紀章(Noriaki Oba)
ポスト石油戦略研究所 代表
2008年京都大学大学院理学研究科博士後期課程を単位取得退学。エネルギー・環境分野の調査研究を行うシンクタンク・テクノバに入社。15年よりフリーとなり、21年より現職。株式会社JDSCフェローなども務める。


 9月7日、プーチン露大統領は、ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムにおいて、〝価格上限策〟に参加する国には「ガス、石油、石炭、灯油、何も供給しない」と述べた。この〝価格上限策〟とは、イエレン米財務長官が中心となって、主要7カ国(G7)や欧州連合(EU)など〝西側諸国〟が12月から開始する予定の新たな対露経済制裁のことで、ロシア産の石油を一定の上限価格より安い条件で海上輸送する取引のみを容認するというものだ。石油タンカーのための海上保険は、〝西側諸国〟に属する保険会社のシェアが約95%あることから、「海上保険の停止」をグリップにしてこの制裁が実現されることになっている。

 もしこの制裁がうまくいけば、ロシアの石油収入を削減しつつ、世界の安定的な石油流通と安価な石油価格が同時に実現することになるが、当然のことながら、ロシア側が輸出を拒否すれば成り立たない。一方で、米国財務省は通常の市場価格での取引を行えば事業者に経済制裁を科すと脅しており、世界の化石燃料供給は12月以降、さらに大きな混乱に陥る可能性がある。

 このように、ロシア・ウクライナ戦争は、エネルギー価格の上昇や欧州のロシア依存脱却という問題にとどまらず、世界のエネルギー供給システムそのものに不可逆な変化を与えようとしている。EUは8月にロシアからの石炭の輸入を停止し、12月に原油の輸入を90%停止、2030年までに天然ガスの輸入も停止することを計画しているが、日本を含むG7諸国も将来的にロシアからエネルギー資源の輸入をやめることで合意している。しかし、ロシア抜きの世界は成立するだろうか。

 下図は、世界を中東、ロシア、欧州、中国、その他の5つの地域に分け、その地域間の化石燃料のネットの輸出入量を集計したものだ。この図から言えることは、世界のエネルギー供給とは、大まかにいって「中東とロシアが輸出し、欧州と中国が輸入し、その他の地域は(石油以外は)概ね自給自足している」ということだ。そして、地域間純輸出量に占めるロシア輸出の割合は約4割もあり、どこかの国がロシアからの輸入を拒否すれば、他の国がその分を輸入しなければ全体の供給システムが破綻してしまう。

世界のエネルギー供給は「中東・ロシア」の輸出
と「欧州・中国」の輸入により均衡している

(出所)「BP Statistical Review of World Energy 2022」より筆者作成 
(注)地域別一次エネルギーネット輸出量(2021年)

 つまり、現在の世界各国が進めている交渉は、ロシアからエネルギー資源を「直接買って良い国」と「買ってはいけない国」にリシャッフルすることで、従来の供給システムの再構築を目指していることになる。このことは、戦争の行方にかかわらず世界のエネルギー秩序の大転換となるだろう。

 そして日本は、……

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