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ウェディングドレス選びは母と一緒に

結婚式の思い出作りは、準備から既に始まっている。とわたしは思う。

世の花嫁さんたちは、ウェディングドレスを誰と選びに行くのだろう。
夫か、自分の親か、友人か。もしかしたらみんなにサプライズのために、ひとりで行く人もいるかもしれない。

わたしの場合、そのドレス選びの強力なパートナーとして選んだのは母だった。
今回の結婚式のミッションは「母を喜ばせること」。母は幼い頃からわたしを見てきて、わたしの好みや外見で悩んでいることを熟知している。いつもわたしのファッションを褒めてくれ、大学生になって自分で服を買うようになると、「服を探すのが上手ね」「芸能人の◯◯みたい」と親バカ発言をしてくれるのがわたしの母だ。

夫と行く選択肢もないことはなかったが、おそらく「これがいいよ」と即決するだろう。半分面倒くさいのもあるかもしれないが、夫は即断即決が多い。そしてあながちその選択は間違っていない。決めなければいけないときは助かるのだが、ドレス選びって、その試着する過程が楽しいではないか。こんなにドレスを着る機会なんて、一般人にはそうそう訪れない。あれもいい、これも素敵、と、夫からしたら不毛に思えるかもしれない時間が、どうしようもなく尊いのだ。たとえ最初に着たものになったとしても。この感覚はきっと母が一番わかってくれるし、時間を割いてくれるだろう。

だからわたしは、自分のためにも母のためにも、迷わず母にドレス選びに付き合ってもらうことにした。もちろん母は大喜びだし、夫もそれが一番いいと言ってくれた。まぁ、夫は内心、長い時間付き合わなくていいことにほっとしていたかもしれないけれど。

わたしの場合はイタリアでの海外挙式のため、レンタルドレスは海外持ち出しを許可しているところに限られた。このときのわたしは、まだドレスを「買う」という発想を持ち合わせていなかったから。

母と予定を合わせ、駅で待ち合わせる。

早めに着いたよ♪A6出口あたりで待ってるね

母からのLINE。相変わらず時間厳守、早めに行動の母だ。待ち合わせの時間も少し早めに設定したが、そのさらに15分以上早く到着している。その母のもとに生まれたので、高校生くらいまではかなり早めの行動をしていたが、遅刻魔と呼ばれるようになってしまったのはいつからだろう。大学の授業はいつも5分くらい遅れ、就業時刻ギリギリに到着。ただし大幅な遅刻や重要な日の遅刻はしない。

ごめん!10分くらい遅れそう。予約の時間にはギリギリ間に合うと思う。

この日もわたしは安定の若干の遅刻だ。それなのに母は怒らないどころか少しも嫌な顔をせず、本を読んでにこやかに待っていた。本当にできた人だ。

「元気だった〜?ドレス選び、ママと一緒でよかったの?ともくんと来たかったんじゃない?でも選ぶところから一緒にできて嬉しいなぁ。そういえばね......」

わたしは結婚を機に実家を出たが、実家からそう遠くないマンションに夫とふたりで住んでいる。バス1本で行き来できるので、よく差し入れを持ってきてくれたり掃除をしてくれたりするために来てくれる。父は他界し、弟は一人暮らしを始めたので、実家には母しかいない。寂しさが言葉に滲んでいる。そして、話が止まらない。

最初に予約したレンタルドレスショップは、以前海外挙式の件で相談した手配会社と提携しているところにした。このお店は、時間が許す限り気になるドレスは着放題、アクセサリーもつけ放題。すごくおしゃれな雰囲気という感じではなかったけど、お姉さんも気さくで、とても良心的なお店だ。ドレスはあらかじめ好みのものをオンライン上で何着か選び、その中から担当の方が、今ある在庫の中であらかじめ選んでくれていた。

Aラインのストンとしたレースのドレスに、艶感がありアシンメトリーなデザインのドレス。チュールがひらひらと揺れるドレス......雰囲気はまったく違うけれど、どれも目移りしてしまうくらい素敵なデザインだ。今までいろんな結婚式に出ていろんな種類のものを見てきたつもりだが、実際に目にするとこんなに様々な種類があることに驚く。

「どのドレスも似合うー!なんでも似合うのね。全部着て欲しいくらい!」母と担当のお姉さんとふたりで褒めちぎってくれる。こんなに褒められることってあるだろうか。どこかのお嬢様かお姫様にでもなった気分だ。悪くない。いや、控えめに言ってかなり楽しい

初日の今日は6着ものドレスを試着。写真を撮るだけ撮って、また後日他のウェディングドレスやカラードレスを試着することになった。

その後、久しぶりに母とふたりでランチをした。母は基本的にはあまり外食をしないが、思い出づくりのためにもこの時間を大切にしたい。ドレスを選び、どこかのカフェでランチをしたりケーキを食べる。それを恒例にすることにした。

「どれもきれいだったね〜。ママのときはこうやってドレス選ぶなんてできなかったから、すごく楽しい!」

母は、父の意向でお寺での挙式に決められてしまった。準備も父や義母が進めていたため、母は白無垢を選ばざるをえなかったそうだ。それが心残りのようで、わたしのドレスを心から喜んでいる。

「素敵なドレス姿、しっかり目に焼き付けてパパに報告しなくちゃね。でも、パパと一緒ならどんなに良かっただろうと思うと......」

母の声が震える。父は1年ちょっと、ALSという病気と闘い、去年この世を去った。まだまだ立ち直れなくて当たり前だ。そして母は、結婚式に来ることも迷っているのだ。父の死後、華やかで賑やかな場所は避けて生活をしてきた。泣き腫らしたひどい顔を見せたくないのと、きっと幸せそうな同世代の夫婦などを見るのが辛かったのだろう。

「パパも連れて行けばいいよ。絶対見ててくれてるから。でもママが来ないと、わたしが悲しいよ。」

ちょっとしんみりしてしまったけど、この楽しい時間を共有することで、母が前向きになってくれたら。そして、南イタリアの舞台でとっておきの姿を見せてあげられたら。

まだミッションは、始まったばかりだ。最高の結婚式を作ってみせる。

To be continued...

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