結婚式の持込禁止条項・持込み料の請求は違法?~排他条件付取引~

はじめに

前回の投稿では、自分たちの結婚式で問題となった「リゾートウエディングにおけるカメラマンの持込禁止条項」について、それが違法と考えられる理由を記載しました。

しかし、この投稿はやや詳細過ぎたように思いますので、改めて、持込禁止条項・持込み料の請求の問題点についてできるだけ分かりやすく説明したいと思います。

持込禁止条項・持込料の請求の法的な問題点は、
1. 独占禁止法が禁止する「排他条件付取引」に当たる可能性
2. 独占禁止法が禁止する「抱合せ販売」に当たる可能性
3. 消費者契約法が違法とする「不当条項」に当たる可能性
の3つです。

この投稿では、まず「排他条件付取引」について説明します。


排他条件付き取引

排他条件付取引は、①ある商品を提供する事業者が、②取引相手に対して、③自分たちのライバル企業との取引を禁止し、ライバル企業を取引から締め出そうとする行為です。

結婚式の場合に即して言うと
 ①ある商品を提供する事業者=婚礼サービスを提供するウエディング会社
 ②取引相手=婚礼サービスを申し込む新郎新婦
 ③自分たちのライバル企業=ヘアメイク、カメラマン、ドレス会社
ということになります。

但し、①~③を満たすからといって、持込禁止条項が100%違法になるというわけではありません。

契約自由の原則という言葉があるように、原則として取引条件は契約当事者が自由に定めることが可能です。持込禁止条項が違法な排他条件付取引に当たると言えるためには、ライバル企業たちの取引の機会が本当に減少するおそれがある場合に限られます。

では、どのようにして、「ライバル企業たちの取引の機会が本当に減少するおそれ」を判断するのでしょうか。

実は、この点が独占禁止法の中で最も難しいところなのですが、この判断は次のようなステップを経て行われます。
 (A) ウエディング会社がターゲットとするマーケットはどのようなものか
 (B) そのマーケットにおいて、そのウエディング会社はどのくらい支配力を持っているか(→支配力が小さければ、違法とはならない)
 (C) ライバル企業は、そのウエディング会社以外との取引を通じて十分に商機を確保することができるか(→十分に商機を確保することができれば、違法とはならない)

例を2つ使って判断プロセスを説明したいと思います。

都内高級ホテルチェーンの例

【 例1】
東京都内のとある高級ホテルチェーンα(都内に挙式可能なホテルを合計で3つ保有している)は、ウエディングへのカメラマンの持ち込みを禁止している。

この例の場合、次のように考えられます。

(A) ターゲットとなるマーケットについて
独占禁止法が難しい理由の1つですが、ここでいうマーケットは、唯一のものが定まるのではなく、複数のパターンを想定することができます。

どのようにマーケットを考えるかですが、一般には、「式場見学に来る新郎新婦が、他にどのような式場を同時に検討しているか」という視点で考えるとよいと思います。

都内高級ホテルで格式高いウエディングを検討している新郎新婦であれば、同時に比較検討するのは他の高級ホテルとなるでしょう。この場合、「東京都内における高級ホテルウエディング」というマーケットが対象になります。

他方、都内近郊で、洋風のウエディングであればどこでもよいという新郎新婦であれば、同時に比較検討するのは他のホテル、専門式場、チャペル等と幅広いものとなるでしょう。この場合、「東京都近郊(神奈川県や千葉県も含む)におけるホテル、専門式場、チャペルにおけるウエディング」というマーケットが対象になります。

どちらかの考え方が正しく、どちらかの考え方が誤っているということではなく、実際にどのような需要が存在し、どのような競争が行われているかを観察し、最終的には公正取引委員会や裁判所が、実態を反映して最も適切と考えられるマーケットを決定することになります。

(B) 高級ホテルチェーンαの支配力について
例1では、高級ホテルチェーンαは都内に合計で3つの挙式可能なホテルを保有しています。

マーケットを「東京都内における高級ホテルウエディング」と置くと、支配力はそれなりにあると言えそうです。高級ホテルウエディングの会場が例えば都内で合計10会場しか存在しなければ、高級ホテルチェーンαのシェアは30%となります。

これに対し、マーケットを「東京都近郊(神奈川県や千葉県も含む)におけるホテル、専門式場、チャペルにおけるウエディング」と置くと、会場数は100個以上あってもおかしくないでしょうから、支配力はあまりなく、その場合は持込禁止条項は適法と言える可能性が高いのではないでしょうか。

(C) ライバル企業が商機を確保できるかについて
高級ホテルチェーンαがカメラマンの持込を禁止している以上、外部のカメラマンは、このホテルチェーンαの挙式の撮影から締め出されています。

では、他の方法でウエディングの撮影という商機を確保することはできるでしょうか?ここで重要になってくるのが、他のウエディング会社も持込を禁止しているか否かです。

例えば、都内でカメラマンの持込を禁止しているのが高級ホテルチェーンαだけであったらどうでしょうか?
この場合、外部のカメラマンは、他のホテル、専門式場、チャペルにおける挙式の撮影には持ち込むことができるので、他の方法で商機を確保することがあると言え、持込禁止条項は適法とされる可能性が高いと思います。

他方、都内近郊にある全てのホテル、専門式場、チャペル等の婚礼会場が、すべからくカメラマンの持込を禁止していたらどうでしょうか?
この場合、外部のカメラマンとしては商機を確保することは難しいと言え、他の要素が満たされれば、持込禁止条項は違法と考えられます。

国内リゾートウエディングの例

【例2】
沖縄でのリゾートウエディングを手掛けるβ社は、ウエディングへのカメラマンの持ち込みを禁止している。

(A) ターゲットとなるマーケットについて
沖縄でのリゾートウエディングを手掛ける会社は、通常、専用式場やチャペルを管理運営しています。そのため、β社への申し込みを検討するような新郎新婦は、神式のウエディングや、レストランウエディングなどは検討しておらず、沖縄県内の専用式場・チャペルでのウエディングを比較検討しているものと思います。

したがって、この例の場合、「沖縄県内の専用式場・チャペルにおけるウエディング」が対象マーケットになる可能性が高いと思います。

(B) リゾートウエディングを手掛けるβの支配力について
沖縄のリゾートウエディングに関しては、面白いデータがあります。沖縄県が、毎年のリゾートウエディングの実施組数(これには、チャペル挙式、レストラン挙式、フォトウエディングを含んでいます)の数を公表しているのです(沖縄リゾートウエディング統計調査結果)。この資料を読み解くと、沖縄でのチャペル挙式の実施組数が分かります。

そのため、例1の場合に比べると、βの支配力をより厳密に評価することができます。支配力が大きいとされる1つの指標として、シェアが20%を超えるか、というものがあります。

仮にβの沖縄でのチャペル挙式の実施組数が全体の20%以上を占めているとすると、βの支配力は大きいと判断されると考えられます。

(C) ライバル企業が商機を確保できるかについて
まず、βがカメラマンの持込を禁止していることから、外部のカメラマンは、βの管理する結婚式場での撮影には食い込むチャンスがありません。

では、他の方法でウエディングの撮影という商機を確保することはできるでしょうか?この点は、例1で触れたように、他のウエディング会社が持込を認めているか否か、他のウエディング会社の影響力がどの程度あるかによって大きく左右されます。

調べてみたところ、沖縄でリゾートウエディングを催行している企業としては、アールイズ・ウエディング、チュチュリゾート沖縄、ワタベウエディングの3社が大手のようで、この3社で合計22か所の結婚式場を管理しています。ゼクシィで検索すると、沖縄のチャペル挙式会場は合計で38個表示されますので、この3社のシェアは何と約58%にも上ります。

そして、私が調べた限り、この3社はいずれもヘアメイク、カメラマン、衣装の持込を禁止していました(但し、衣装については、持込料を払うことで持込可能。)。

ということは、外部のカメラマンは、βの管理する会場で撮影できないというだけではなく、沖縄の58%の会場から締め出されているのです!!

これでは、沖縄のリゾートウエディングに話を限れば、外部のカメラマンが十分に商機を確保することができるとは言えず、持込禁止条項は違法と判断される可能性が高いと思います。

まとめ

排他条件付取引は、ウエディング会社が、新郎新婦に対し、外部のカメラマンやドレス会社との取引を禁止することで、外部のカメラマンやドレス会社がマーケットから排除されることを問題とするものです。

あなたの申し込んだウエディング会社が、マーケットで一定の支配力を有しており、なおかつ、外部のカメラマンやドレス会社が、他の方法では商機を十分に確保できない恐れがある場合には、そのウエディング会社の持込禁止条項は違法・無効と考えられます。

上記の判断は、案件に応じて具体的なデータに基づく判断が必要になりますが、もし疑問に思うことがあれば、お近くの専門家や国民生活センター等に相談されることをお勧めいたします。


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