結婚式のカメラマンの持込禁止は適法か?


1. はじめに

ウェディングでは、ドレス、カメラマン、ヘアメイクなどの持込が禁止されていることがよくある。
こういった持込禁止条項について、納得のいかない人も存在すると思うが、大半の人たちは、会場と揉めたくないという理由や、法律を調べたり専門家に相談したりする方法が分からないという理由や、時間をかけられないという理由で、しぶしぶ禁止条項を受け入れていることと思う。
しかし、こうした禁止条項は、仮に裁判等で争った場合、本当に適法なのであろうか?

この度、自分たちが国内リゾート挙式を行うに当たり、ウェディング会社からカメラマン・ヘアメイクの持込禁止を通達されたものの、そうした持込禁止条項は、違法・無効であると考えるに至ったので、今回、持込禁止条項についての法的な分析・検討や、会場との交渉の推移を記録することとした。時間が許せば、ドレスの持込禁止条項の有効性についてや、ウェディング業界の広告表示の問題点(広告に掲載されている基本料金と最終的な成約金額との間に2~3倍の開きが生じることが、優良誤認表示に該当するのではないかという問題)、アルバムの販売に関する問題点(データのみの販売を行わずにアルバムの購入を強制している問題)などについても、記事にしたいと思う。

まず、本投稿では、国内リゾートウェディングにおけるカメラマンの持込禁止条項が違法・無効と考えられる法的根拠を記載する。もし、持込禁止条項で悩んでいる方や、持込禁止条項を巡る係争について一緒に考えていただける方がいらっしゃれば、ご連絡をいただけると幸いである(https://twitter.com/wedding_bringin)。

2. 法的問題点

持込禁止条項についてネットで検索すると、独占禁止法の禁止する「抱き合わせ販売」に該当する可能性があると指摘する記事が散見される。

そうした構成も確かにあり得ると考えられるが、カメラマンを例にとると、持込禁止条項は、「ウェディングの催行にフォト撮影を抱き合わせて販売している」(フォト撮影を契約しなければウェディングを催行できない)というよりは、「外部のカメラマンと契約してはならない」(外部のカメラマンを挙式会場での取引から締め出している)と捉える方が自然ではないであろうか。

そのため、法的な構成としては、独占禁止法の禁止する「排他条件付取引」に該当し違法・無効となり得るというのが、直截な法律構成と考える。以下、順に解説をする。

【補足:独占禁止法とは?】
経済活動は、基本的に民間の自由に委ねられており、公共の利益のためにライセンスが必要とされる活動(医業、銀行業、保険業、飲食業、美容業等)を除けば、取引の方法や契約の内容は、当事者が自由に選択できる。それは、経済活動については、政府が介入せず民間の自由に委ねた方が自由競争が促進され、効率が最適化されると考えられているからである(自由主義経済)。
しかしながら、当事者が不当な手段を用いた場合、自由競争が機能不全となり、効率が最適化されない事態が生じ得る。こうした事態を是正することを目的とした法律が独占禁止法である。

独占禁止法では、自由競争が機能不全となる行為を具体的に列挙している。価格カルテル、優越的地位の濫用、不当廉売、再販売価格維持等が耳にする機会が多いと思われるが、本文で触れた「抱き合わせ販売」「排他条件付取引」も、独占禁止法で禁止行為として列挙されているカテゴリーなのである。先取りして簡単にまとめると、「抱き合わせ販売」は、主たるサービスを提供する際に、従たるサービスの取引を強制することで、従たるサービスのシェア拡大を図る行為であり、「排他条件付取引」は、主たるサービスを提供する際に、従たるサービスについて他社との取引を禁止することで、従たるサービスの供給者を特定の取引分野から締め出そうとする行為である。

3. 排他条件付取引

3.1. 法律の定め

独占禁止法第19条は「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」と定めている。

「事業者」は、「商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。」とされており(同法第2条)、要するに消費者ではない当事者と考えておけばよく、ウェディング会社はこれに該当する。

「不公正な取引方法」は、同法第2条9項第1号から第6号までに列挙された行為、また、公正取引委員会の告示において1項から15項までに列挙された行為である。
これらの行為類型のうち、持込禁止条項が抵触する可能性が最も高いと思われるのは、告示の第11項で定められている「排他条件付取引」である。

その「排他条件付取引」は、以下のように定義される。

不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること。

公正取引委員会 不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号)
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/fukousei.html

カメラマンの持込禁止を例にとると、「相手方」とはウェディング会社の取引相手すなわち新郎新婦のことを指し、「競争者」とはフォト撮影に関する競争者すなわちウェディング会社と提携していない外部のカメラマンのことを指す。持込禁止条項は、ウェディング会社が、新郎新婦に対し、外部のカメラマンに依頼しないことを条件として挙式サービスを提供するという内容であるから、まさに「相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し」に該当すると言える。

では、「競争者の取引の機会を減少させるおそれがある」という要件を満たすのであろうか。

3.2. 競争者の取引機会の減少のおそれ

ウェディング会社がカメラマンの持込を禁止すると、外部のカメラマンは当該式場において新郎新婦と取引する機会を失っているわけであるから、「競争者の取引の機会を減少させる」と言ってよさそうである。

しかし、文面上はそのように読めても、実際にはそのように単純には解釈されていない。「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」によると「競争者の取引の機会を減少させる」という要件は、以下のように、「市場閉鎖効果が生じる場合」に限って満たされるものと解釈されている。

第1部 取引先事業者の事業活動に対する制限
第2 非価格制限行為
2 (1) イ 市場における有力な事業者が、自己又は自己と密接な関係にある事業者の競争者と取引しないよう拘束する条件を付けて取引する行為は、市場閉鎖効果が生じる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる。

公正取引委員会 流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/ryutsutorihiki.html

「市場における有力な事業者」とは、以下を指す。

「市場における有力な事業者」と認められるかどうかについては,当該市場(制限の対象となる商品と機能・効用が同様であり,地理的条件,取引先との関係等から相互に競争関係にある商品の市場をいい,基本的には,需要者にとっての代替性という観点から判断されるが,必要に応じて供給者にとっての代替性という観点も考慮される。)におけるシェアが20%を超えることが一応の目安となる。(第一部「3」「(2)」)

公正取引委員会 流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/ryutsutorihiki.html

そして、「市場閉鎖効果が生じる場合」とは、以下の場合をいう。

第1部 取引先事業者の事業活動に対する制限
3 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準
(2) 公正な競争を阻害するおそれ
ア 市場閉鎖効果が生じる場合
「市場閉鎖効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。

公正取引委員会 流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/ryutsutorihiki.html

つまり、上記告示における「競争者の取引の機会を減少させる」とは、外部のカメラマンにとって、「代替的な取引先を容易に確保することができなくなる」ものでなければならないのである。

3.3. 市場閉鎖効果と市場範囲の画定

「代替的な取引先を容易に確保することができなくなること」(市場閉鎖効果)が必要であるとすると、文面上、この要件はハードルが高いように思える。外部のカメラマンにとって、特定の式場での撮影から締め出されたとしても、カメラマンの持ち込みを禁止していない式場があれば、「代替的な取引先を容易に確保することができる」と思えるからである。

しかし、独占禁止法の世界では、そのような捉え方(のみ)では正しくない。独占禁止法の世界では、自由な競争が行われるべき取引の範囲というものを画定し(これを「市場」という。)、その市場の中において、「代替的な取引先を容易に確保することができなくなる」か否かを検討するのである。

「市場」については、客観的に唯一の市場が存在するのではなく、需要者の集団に応じて様々な「市場」が存在する。ウェディングの例でいうと、例えば、①「首都圏近郊のホテルウェディング市場」、②「首都圏近郊の神道式ウェディング市場」、③「首都圏近郊の教会式ウェディング市場」、④「首都圏近郊のウェディング市場」、などが法的な検討に値する市場として想定し得る。
①は挙式・披露宴をホテルで執り行いたいと考える需要者を対象とした市場、②は挙式を神式で執り行いたいと考える需要者を対象とした市場、③は挙式をチャペルで執り行いたいと考える需要者を対象とした市場、④は会場に特にこだわりのない需要者を対象とした市場である(①は③や④と、②は④と、③は④と重なり得る)。
この場合、首都圏のホテルがこぞって不当な取り扱いをしている一方で、それ以外の会場(神道式の会場、ウェディング専門会場、ゲストハウス・邸宅等)ではそうした取り扱いをしていないという場合、最も広い④の市場では(ホテル以外の会場において自由な競争が確保されていおり)独占禁止法違反が否定される可能性が高まる一方、①の市場では(ホテル以外の市場が存在しないため)独占禁止法違反が肯定される可能性が高まる。

また、「代替的な取引先を容易に確保することができる」か否かを判断するに当たって、以下の点は重要である。

複数の事業者がそれぞれ並行的に制限を行う場合には,一事業者のみが制限を行う場合と比べ市場全体として市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる(第1部3(2)ア)。

公正取引委員会 流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/ryutsutorihiki.html

つまり、あるホテルで挙式をしたいと考えたときに、当該ホテルチェーンのみがカメラマンの持ち込みを禁止しているという場合と、当該ホテルチェーンだけではなく、他のホテルチェーンA、ホテルチェーンB、ホテルチェーンCもこぞってカメラマンの持ち込みを禁止しているという場合とを比較すると、後者の方がより市場閉鎖効果が認められる可能性が高いというわけである。

3.4. 私たちの事案への当てはめ

前提事実
私たちの場合、沖縄・離島の国内リゾートでのチャペル挙式を希望し、今問題となっているウェディング会社の管理する会場に申し込みをした。そのウェディング会社では、カメラマンの持込は一律に禁止されていた(持込料を支払えば持ち込めるという条件ではなかった。)。

市場範囲の画定
沖縄・離島の国内リゾートでチャペル挙式を希望する場合に、自ら指名するカメラマンを持ち込みたいという一定数の需要者は存在すると考えられるから、検討対象市場は、「日本全体のウェディングにおけるフォト撮影」という広範囲なものではなく、「沖縄・離島の国内リゾートウェディングにおけるフォト撮影」と解される。

【補足】
なお、前提として、上記のような需要者や市場は、法的保護に値するかという問題もある。独占禁止法はありとあらゆる需要者や市場を保護するものではない。例えば、すき焼き屋は肉の持込を禁止していると思われる。他方、世の中には、牛肉を自らで購入してすき焼き屋に持ち込みたいという需要者も一定数は存在すると思われる。しかし、常識的に考えて、肉の持込禁止は適法・有効と解される。独占禁止法は、肉の持込禁止を違法とは評価しない。それはなぜかというと、「牛肉を自らで購入して持ち込みたい」などという需要者は法的保護に値しないとの価値判断がなされるからである。

では、すき焼き屋の肉の持込禁止の事例と、ウェディング会場のカメラマンの持込禁止の事例では何が異なるであろうか。カメラマンを持ち込みたいという需要者は法的保護に値するであろうか?

私の考えはこうである。すき焼き屋の場合、主たるサービスは「店が調理した料理の提供」である。そして、飲食店舗への肉の持込(食材の準備)は、主たるサービスと不可分一体であり、独立した商品として出回っていない。世の中のどこを見回しても、すき焼き屋に持ち込ませることを目的として牛肉を売るといった牛肉屋は存在しない。このように、独立したサービスとして取引されていない以上、そのような需要は保護に値しないのである。
他方、ウェディングの場合、主たるサービスは、「挙式会場を利用し、式を挙げること」である。そして、ドレスの売買・貸出、カメラマンによるフォト撮影は、主たるサービスと密接に関連するものの、別個独立したサービスとして出回っている。ウェディングドレスを専門に販売・レンタルする業者は複数存在するし、ウェディングフォトの出張撮影や、を行うカメラマンも多数存在する。このように、独立したサービスとして取引されていることから、ドレスやカメラマンの持込についての需要や市場は、独占禁止法上、保護に値すると考える。

市場閉鎖効果
「沖縄・離島の国内リゾートウェディング市場」では、ざっと調べたところ、次の3社が大手のようである(五十音順)。

  • アールイズ・ウエディング(https://www.arluis.com/

    • 管理している式場は、宮古島チャペル、ザ・ギノザリゾート美らの教会、ザ・ビーチチャペル、瀬良垣島教会、太陽が彩る自然の教会、白の教会、奏の教会、葵の教会の8か所

  • チュチュリゾート沖縄(https://www.resortwedding.net/okinawa/

    • 管理している式場は、ラソールガーデン・アリビラ、モントレ・ルメール教会、アリビラ・グローリー教会、ルネッサンス・リベーラ教会の4か所

  • ワタベウェディング(https://www.watabe-wedding.co.jp/

    • 管理している式場は、グループ会社の沖縄ワタベウェディングと合わせると、古宇利島空と海の教会、シギラミラージュベイサイドチャペル、ザ・ヨミタンリゾートアクアグレイス・チャペル、クルデスール・ウェディング、アラマンダチャペル、アクアルーチェ・チャペル、ムーンビーチセレクション、マリンビジュー、エリスリーナ西原ヒルズガーデンの10か所

3社合計で22か所の式場を管理していることとなるが、ゼクシィにおいて「沖縄県全て」で検索して表示される会場数が38か所であることを踏まえると、おおざっぱに見積もっても、3社での合計シェアは50%程度は占めると言ってよいように思う。3社のブランド力・人気が高く、利用が集中しているとなれば、実際のシェアは50%より高いことすらあり得る。

そして、私が調べた限り、これら3つのウェディング会社は、カメラマンの持ち込みを禁止していた。先に触れたとおり、複数の事業者が並行してカメラマンの持ち込みを禁止している場合、外部のカメラマンに対する締め出しの効果は強化され、市場閉鎖効果が認められる可能性は高くなるところ、市場に占める合計シェアが50%以上の事業者らがこぞってそうした制限行為を行っているというのであるから、「沖縄・離島の国内リゾートウェディング市場」において、ウェディング会社がカメラマンの持ち込みを禁止することには、外部のカメラマンに対する市場閉鎖効果が認められる可能性が高いと考える。

3.5. 結論

以上のとおり、私たちが直面したように、沖縄・離島の国内リゾートウェディング会場におけるカメラマンの持込禁止条項は、有力な事業者らが並行して持込禁止条項を用いているという事実関係が認められるため、外部のカメラマンに対する市場閉鎖効果が認められる可能性が高いと考える。

したがって、ウェディング会社のカメラマン持込禁止条項は、独占禁止法の定める不公正な取引方法のうち、排他条件付取引に該当し、違法・無効と評価される可能性が高いと考える。

4. おわりに

以上詳述したとおり、私たちの事案では、カメラマン持込禁止条項は違法・無効である可能性が高いと考えている。
そこで、私は、ウェディング会社に対し、カメラマン持込禁止条項が違法であると主張し、カメラマンの持込を認めるよう交渉することとした。
今後、交渉の経緯も記事にまとめていきたいと思う。

また、今回の記事では触れられなかった、「抱き合わせ販売」「優越的地位の濫用」「(消費者契約法の)不当条項」についても説明を加える記事を作成したいと思う。

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