羞恥心【三橋雄斗】


少し前から、世間では『あつまれ どうぶつの森』が流行っていますね。



周りでも、プレイしている人を多く見受けられます。



ひかりちゃんも「ほしい!やりたい!」と常に言っていて、あわよくば僕もできたらいいなと思っているのですが、
僕たちの家にはニンテンドースイッチが無いのです。



今から買おうと思っても、ステイホーム需要でどこのお店にもニンテンドースイッチ本体が売っていません。



ネットを探してみると、定価よりも高い値段で取り引きされています。



「早めに本体買っておけばよかった…。」と、心底残念そうなひかりちゃん。



そんなひかりちゃんは見たくありません。



それが4月の話。
それ以来、ネットショップを毎日覗き、

ディスカウントストアやスーパーへ買い物に行く度に、
売っていないかゲーム機売り場を隈なく見る日々を過ごしてきました。

そんな僕を見て、ゲーム機売り場にいた子ども達が、ソーシャルディスタンスではなく、普通に離れていきましたが、大丈夫。




そして先日、必要な物があり、一人でロードサイドの家電量販店へ行きました。



平日の昼間で、駅から離れている店なので、店内は落ち着いた雰囲気。



そんな中、目当ての物を購入し、
ルーチンワークのようにゲーム機売り場を覗きました。



当然、期待していません。
2ヶ月近く裏切られ続けていますから。



そして、その日も売り場を隈なく見ました。



面白そうなソフトが並ぶ売り場。
もしもこれらで遊べたなら、ひかりちゃんと更に楽しいステイホーム生活を送ることができるだろう。

だけれど僕にはハードが無い。

ハードが無ければただの集積回路。



いつか遊べる日は来るのだろうか。



そんなことを思いながら、ふと売り場にあるガラスケースを見ました。



一瞬、信じられませんでしたが、そこに赤と水色の機械の箱が置いてあるのが見えたのです。



近寄ってみると、確かにそれは、ニンテンドースイッチでした。



僕は思わず泪をこぼし、
「ようやく、逢えたね」とガラスケース越しのスイッチに声をかけました。



ここが穴場だったのか。

平日の昼間、ロードサイド、落ち着いた雰囲気。

確かにスイッチが売り切れていなくてもおかしくありません。



僕はすぐにお金をおろしにATMへ向かいました。



いつもはお金の無い僕ですが、今は確定申告の還付金がまだ残っている。

毎年、旅行へ行く為に使っていますが、今年は行けません。

いい使い道ができました。

ひかりちゃんの喜ぶ顔が見られます。



ATMでお金をおろし、店に戻る途中、ひかりちゃんにLINEで連絡をしました。



『今日はプレゼントがあります。楽しみにしていてください。あわてんぼうすぎるサンタクロースより。』



そして店に着き、ガラスケースにスイッチがまだ置いてあることを確認し、
店員さんに声をかけました。



「ニンテンドースイッチください!!」



落ち着いた雰囲気の店内に、まるで子供のようなウキウキした声を響かせてしまいました。



恥ずかしい。でも、大丈夫。
スイッチを買えるから。



しかし、店員さんはキョトンとした顔をしています。



さすがに、働き盛りの大人が平日の昼間に「ニンテンドースイッチください!!」は引くでしょう。



でも、大丈夫。
スイッチを買えるから。
あと少しの辛抱です。



すると、店員さんは口を開きました。




「あのー、申し上げ難いのですが、当店にはスイッチの在庫はありません。入荷の予定もございません。」




僕の頭には夥しい数のハテナマークが。



「あれ?でも、ガラスケースに置いてあったのですが…。」



と聞くと、



「あれは見本です。箱のみ展示しております。」



僕はそれを聞いて、「そうですか…すみません」とだけ発し、
心底残念な顔をしてしまいました。



僕の表情を見た店員さんは、
「いえ、紛らわしくて誠に申し訳ございません。すぐに見本は撤去させて頂きます!入荷の予定が入り次第すぐに連絡差し上げますのでよろしければご連絡先を。」
と、最大限に気を遣わせてしまいました。



店員さんは恐らく、僕と同年代。



僕は今までに無いくらいの羞恥を覚え、
「いえいえ、こちらこそよく見ずに、申し訳ございません!入荷しましたらまずお子さんに売ってあげてください!失礼しました!!」

と走って店を出ました。



そして家に帰る途中、もう一つ恥ずかしいことを思い出しました。



ひかりちゃんへのLINEです。



すぐに送信取消をしようと、開きましたが、時すでに遅し。



「楽しみにしています。そのキモさを超えてくるものを期待しています。」


との返信が。



何を買っていいのか迷った結果、ひかりちゃんの愛飲しているコーヒーを3本買って帰りました。



「ありがたいけど、あのLINEでこれはキモいな」



と言われてしまいました。



スイッチだったらキモくなかったのか。
気になりましたが、聞かないでおきました。


そして、酒に逃げました。

【相方へ】

サウナ行きましょう。遠くのサウナに行きたいです。

外食もいいですね。でも、ひかりちゃんの料理には敵わないですよ。本当です。

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