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♪もしも月給が上がったらお風呂場を建てたい

大規模マンション管理組合の理事会が開催されていた都内のマンション。その日、理事会では新たな提案が行われていました。それは、マンションの駐車場において、各区画にそれぞれ1つEV充電用コンセントを設置することでした。

理事会の帰り道、車内ラジオから、昭和のコミカルな歌謡が流れ込んできました。「もしも月給が上ったら」という歌で、太平洋戦争に突入する4年前、1937年(昭和12年)にヒットした昭和歌謡です。この歌に込められた願いと、住宅の設備の進化が、意外な共通点を持っていることを、東京大学大学院教授の大月俊雄先生が解説されていました。

歌詞には、もしも月給が上がれば欲しいものが列挙されています。パラソルや帽子、洋服、故郷から両親を呼び寄せたい、ポータブル(蓄音機?)、タンゴを踊りたいという願望が歌われています。四番目の歌詞で「お風呂場なんかも建てたいわ」とデュエットが終わります。この頃の住宅において、それぞれの家庭で個別利用できる内風呂はまだ珍しく、共同浴場が一般的でした。

もしも月給が上ったら
お風呂場なんかも建てたいわ
そしたら流してくれるかい
いつ頃上るのよいつ頃よ
そいつがわかれば苦労がない

「若しも月給が上ったら」林伊佐緒, 新橋みどり

しかし、時代は変わり、住宅の設備も進化していきます。最初の東京オリンピックが開催された頃、ユニットバス(Module Bath)が登場します。お風呂は個別利用が可能となり、家庭に内風呂が取り込まれるようになりました。住宅設備の進化により、お風呂は共同利用から個別利用へと進化していきました。

『お風呂場が欲しい』

生活を豊かにする道具や設備は、当初は経済的な合理性から個人で所有することが難しく、共同所有・共同運営されるケースがほとんどです。例えば風呂や井戸、便所、洗い場、そして炊事場など。これらはかつて各家庭に個別にあるのではなく、当初は共同で使うものでした。現代において、それらは内風呂やシャワー、水道、トイレ、洗濯機、システムキッチンとして住宅の標準設備となり、各家庭が個別利用しながら生活スタイルに合わせたタイミングで自由に使えるようになりました。

住まいに関わる設備も時代の流れとともに発展していったが、当初は個人で管理する事は難しく共同で運営していた。共同の洗い場、炊事場、便所、風呂などがそうである。経済的な合理性から、そうせざるを得なかったという事情があるのだろう。近代に至るまでにも徐々に経済力を発展し、食料を調達する以外の力が生まれることとなる。それに伴い、従来共同で管理されていたものの多くが住宅内に取り込まれるようになっていった。

『「住む」ための事典』篠原 聡子, 黒石 いずみ , 大月 敏雄 , 槻橋 修

現代においては、スマートフォンは一人一台が当たり前の時代になりました。かつてはコミュニティ単位で共同利用されることがほとんどだった通信設備も、各家庭に固定電話回線が敷設され、今ではスマホで個人単位で双方向コミュニケーションが可能になりました。

そして、現代においては、世界的な大潮流として電気自動車(EV)の普及が進んでいます。EVシフトには、実は今までのライフスタイルを激変させる驚くべき変革が隠されています。

『もっと速い馬が欲しい』

もし、人々に”移動手段として何が欲しいのか?”と聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えただろう。

フォード・モーター・カンパニー創立者 ヘンリー・フォード

馬は、昔から人や荷物の運搬に欠かせない"モビリティ"でした。過去には権力者が宿駅伝馬制度を創設し、全国各地に「宿駅」や「伝馬町」が設けられました。乗用馬へエネルギー補給するために、新鮮な豆の葉や煮豆、清潔な水を供給するエネルギーサプライチェーンが構築されました。放牧馬とは違い、乗用馬である駅馬・伝馬は丈夫な身体をつくる必要があり、栄養価が高い飼料や水の調達は手間暇かかる作業でした。

『もっと長く走るクルマが欲しい』

そして、ガソリン車の時代になると、ガソリンスタンドでモビリティに燃料を給油することができるようになりました。ガソリンは燃料として保存性が良く、月に1、2回の給油で何百キロもの航続距離を得ることができるようになり、結果的に人はもっと遠くへ、もっと早く行けるようになりました。そしてガソリン燃料の登場で、人類はついにモビリティ(馬)への毎日のエネルギー補給からも解放されたのです。モビリティへの燃料補給に革命が起こりました。

しかし、電気自動車の時代になると、ついにエネルギー補給が自宅駐車場となります。自宅駐車場で充電できることで、私たちのライフスタイルは今までにない進化を遂げることになります。馬の時代やガソリン車の時代と比べて、電気自動車はエネルギー補給において驚異的な利便性をもたらします。自宅駐車場で充電できることで、エネルギー補給の手間を大幅に削減できるばかりか、既に自宅に取り込んでいるエネルギーサプライチェーン、即ち先人たちが築き上げた電力グリッドを充電インフラとして使うことが可能となります。

『EV充電の基本は自宅充電』

この進化こそが、私たちの暮らしを革新し、エネルギー補給の場所が自宅となる新たなイノベーションとなります。自宅駐車場での充電は、エネルギー補給に関する概念を根本から変え、より便利で効率的なモビリティを実現します。私たちは自宅での充電によってエネルギー補給の自立を果たし、よりダイナミックなモビリティを手に入れるのです。これまでの歴史とは異なり、移動が自宅から始まり、自宅で終わる新しい時代が到来します。そしてモビリティへのエネルギー補給設備が、ついに住宅設備として住宅に取り込まれることになります。充電設備が「お風呂場なんかも建てたいわ」と同じく、個別利用できる住宅設備となります。

自宅でEV充電

WeChargeはコンセントにイノベーションを見つけ出しました

マンションや職場、空港、駅、ホテル旅館は、クルマを長時間駐車しながらゆっくり充電が適しています。

分譲マンション等の集合住宅の専用駐車場においても、自宅充電がなければ快適なEVライフを享受することができないというのは、すでにEVオーナーであれば誰もが認識している事実です。しかしながら、まだ多くの日本国民が電気自動車を日常的に利用したことがない状況で、この事実を伝えることは苦労が絶えません。ユビ電株式会社では社員のうち3分の2が既にEVオーナーとなっており、其々が一人の利用者としての視点を持ち、EVの普及に向けて充電インフラの課題に日々取り組んでいます。

現代のマンションには、リビングにビルトインエアコン、キッチンに食洗機、そしてIHクッキングヒーターなどが備わっています。これらの住宅設備は、すべて交流200V電源から電力供給されています。マンションの付属駐車場の車室ごとに交流200V電源コンセントを1つ増設するだけで、それぞれの駐車区画でEV充電が可能となります。これにより、マンションのEVシフト対応は容易になります。そう、交流200V電源コンセントを増設するだけなんです。

自宅充電が普及すれば、電気自動車の購入や所有に対するハードルが下がり、EVの普及が加速することが期待されます。また、専用充電コンセントの導入によって、集合住宅でも公平な環境でEV充電が行えるようになり、持続可能な未来の実現に向けた一歩を踏み出すことができるでしょう。

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