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実は多くの人が誤っているCRMの正しい理解

みなさんこんにちは。
マーケティングディレクター兼データサイエンティストのtohari.です。
クライアント様とのお仕事で、ほとんどのケースで理解齟齬があるなぁと感じるテーマが2つあります。
「CRM(Customer Relationship management)」と「ブランディング」です。
 
例えば、MA(Marketing Automation)を導入したいとのことでお話を伺うと、実はCRMの話だったりなどです。
そのような場合、「あれ、何か話が噛み合わないなぁ」と感じながら、クライアントの本当の目的や課題感を探ることでPJTの軌道修正を行いますが、相談先の専門会社によってはクライアントから伝えられる表面的な事柄をそのまま捉えて提案してくるところも少なくありません(むしろそういう会社の方が多い気がします)。その場合、クライアントが求める課題解決にもっと別の有効な施策があったとしても、それに気づくことなく仕事が成立し、結果としてチャンスロスを招くことになります。
 
また逆に、クライアントが「CRMをやりたい」と言っているのに、会員向けのキャンペーン企画だけ持ってきて、「これがCRMです」と提案される、といったこともありがちです。
そのような場合も、クライアント自身がきちんと指摘できないと、やはり求める状態を作ることはできません。
 
マーケティングに関する正しい理解は、専門会社はもちろんですが、発注者であるクライアントにも本当に必要なことだと思います。
 
そこで今回は理解齟齬の多いCRMについて書いていきたいと思います。
ここでご紹介していく内容は、実際の提案書などでも用いることがある内容ですので、多少なりとも参考にしていただけるかなと思います。
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いきなりですが、以下の質問に自信を持って答えることができますか?

  • CRMの目的とは何ですか?

  • CRM, MA, SFAの違いは何ですか?

  • BtoBビジネスとBtoCビジネスのCRMの違いは何ですか?

  • CRMとブランディングはどのように関係していますか?

  • CRMの施策の種類を体系的に示すことはできますか?

  • CRMで使用するKPIはどのようなものですか?

もしこれらの質問の全てに自信を持って答えることができるなら、以下の内容は読む必要がないかもしれません。

ですが、1つでも自信ないのであれば、ぜひ最後まで読み進めてみてください。きっとCRMの基本について正しく理解できるようになるはずです。

CRMの基本を理解する

まずCRMの基本理解にあたり、プロモーションの全体構造についておさらいしてみたいと思います。
プロモーションの全体構造は以下のように示すことができます。

プロモーションの全体構造

この構造は、BtoBもBtoCも基本同じです。

ここでは大きくプロモーションを2種類に分類しており、1つはデマンド形成から新規獲得までを中心領域とした「マスマーケティング」と新規獲得から顧客成長、離反防止までを対象とした「顧客マーケティング」です。

CRMは、ここでいう顧客マーケティングの手法になり、これがCRMのもっとも基本的な理解になります。
 
ちなみに細かな補足ですが、「新規獲得」がマスマーケティングにも顧客マーケティングにも含まれる理由は、商材によってどちらに分類されるかが異なるからです。
例えば、自動車や化粧品など、購入前に「試乗」や「サンプル申し込み」などの顧客識別が可能なプロセスがある場合には、新規獲得は顧客マーケティング課題として扱われることが多いです。その場合は顧客というより「見込客」という位置付けで、それら対象者をマスとは区別してダイレクトマーケティングを進める形になります。一方、購買プロセスがシンプルな商材(低単価なパッケージグッズなど)の場合には、マスマーケティング課題として扱われます。

BtoBビジネスのCRMとBtoCビジネスのCRM


ここで少しだけ脱線しますが、冒頭提示した質問の1つである、両者の違いについて触れてみたいと思います。
上述したCRMの基本理解は、BtoBもBtoCも同じですが、BtoBビジネスのCRMの場合、多くは営業マンがいますので、それを前提とした手法領域になります。
つまり、BtoBビジネスのCRMは顧客へのアプローチは基本営業マンが行うので、主に顧客管理の仕組み・手法を指すことが多く、SFA(Sales Force Automation)とほぼ同じと考えて良いです。

一方でBtoCビジネスのCRMは、営業マンなしで顧客にアプローチする必要があるため、顧客管理の仕組みだけでなく、メールなどのアプローチ施策も含んだ範囲を指します。

各種CRMツールをみても、DBに登録された顧客情報を様々な形でグループ化でき、それを元にメールやステップメール、LINE連携などの顧客アプローチ機能が充実しています。

つまり、BtoBビジネスのCRMとBtoCビジネスのCRMの違いをざっくりというと、中心的な課題領域の違いにあり、顧客管理中心=BtoB-CRM≒SFA施策中心=BtoC-CRMということが言えると思います。

CRMとMAの違い


CRMとMA(Marketing Automation)を同じに理解している人もよくいますが、ここは結構違いがあります。

MAとは、「購買フェーズを引き上げるために顧客の状況にあわせて実施される、自動的なプロモーションの仕組み」のことです。例えば、ECサイトなどである商品をカートに入れると、画面に「この商品を買った人はこんな商品も一緒に買っています」などのレコメンドが出てきますが、これはMAの代表的な施策です。
この時、カートに入れた段階ではまだ顧客ではないので、MAは既存客を対象としたCRMとは対象顧客の範囲が異なります。

一方、MAはいわば「タイミングの良い営業行為」的な打ち手であり、顧客満足度やロイヤリティの向上なども視野に入るCRMとは打ち手の種類の広さという点でも違いがあります。

CRMを軸にしていうなら、MAはCRMの1つの打ち手にすぎません。
他にどんな打ち手があるのか、後述していきますね。
 

現代においてCRMが重要視される理由


話を元にもどします。先ほどプロモーションの全体構造の話をしましたが、マスマーケティングと顧客マーケティングでは、市場環境によってどちらに重きを置くかが変わってきます。
以下の図は、市場成長期/商品成長期における基本的なマーケティングの考え方を示しています。

市場成長期/商品成長期における基本的なマーケティングの考え方


このように市場の成長期においては、その市場全体で顧客が増加している状態にありますので、既存客のリピート促進よりも新規客獲得に注力し、マスマーケティングを用いて一気に売上を伸ばす方向に資本を投下していく方が効果的です。
まさに大量生産と大量消費をつなぐ役割を広告に担わせる訳です。
 
一方で市場が飽和してきたり、商品の低迷期になると、新規客を獲得することが難しくなるので、顧客マーケティング=CRMが重視されてきます。

市場飽和期/商品低迷期におけるマーケティングの考え方


現在の日本では、多くの商材がこの状態にあると言えます。

この時、CRMによってリピート購買を増やすことによって、自社の顧客構成の中で時々で購入商品を買えるスイッチャーではなく、安定客=ブランドファンの比率が増えてくることになりますので、売上が安定しやすく、ブランドが長期化しやすくなります。

またそうしたファンは多少の金額差では他社商品に流れにくくなりますので、市場の価格下落にも対応しやすい状態が生まれます。

つまりCRMは、現在の成熟市場にこそ有効性を発揮しやすい手法であり、顧客基盤を安定化させ、ブランドのロングセラー化の軸となりえる手法なのです。
 

CRMの種類


先ほどMAはCRMの手法の1つと申し上げましたが、CRMには大きく3つの種類があります。
これらは単独で構築されるケースもあれば、複合的に展開されるケースもあります。

CRMの3つの種類


コレクション型CRM


コレクション型は、最もシンプルで、広く用いられているCRMで、一般的には「ポイントサービス」とも呼ばれ、小売店、飲食店、ガソリンスタンド、航空会社などの常套手段となっています。


多くの流通系カードの場合、購入金額の1%程度をポイントとして貯める(付与)ことができ、1ポイント=1円として利用(還元)できる仕組みになっています。

CRMと言ってもデータ活用の側面で言えば非常にシンプルで、その分導入しやすくもあり、また顧客の囲い込みの有効性も高いため、多くの企業が取り入れています。

ただし、金の切れ目が縁の切れ目的な側面もあり、ある航空会社のマイレージを精算した顧客の1/3はリピートしない(他社に乗り換えた)という結果もあるようです。
 
 

モーメント型CRM


モーメント型は特定の変化(購買行動やサイト行動など)が見られた顧客に対してプログラムを発動し、リピート促進や解約防止を進める手法になります。
MAはこの手法に該当し、きめ細かなデータ活用が求められます。
実施例としては以下のようなものが挙げられます。

  • ECサイトである商品をみている時に、「他の人はこんな商品も・・・」といったレコメンドが出てくる。

  • 購入商品に応じて、親和性の高い別の商品が購入完了画面やメールで推奨される。

  • カート放棄した顧客に対して「ご購入をお忘れでないですか?」と出てくる。

  • WEBサイト来訪時に、サイトを閉じようとするとPOPUP画面が立ち上がって、特定のコンテンツの閲覧を勧められる

  • など


 今のところモーメント型のCRMではレコメンド系の施策が多いですが、例えば総合通販のディノス社では、包丁を購入した顧客に対し、しばらく後にメンテナンスの重要性や活用方法を伝えるとともに、砥石やシャープナー、相性の良いキッチン商品を提案したり、シンプルでありきたりなレコメンドではなく、バイヤーの知識と熱量を生かし、顧客に届くコンテンツづくりに注力したりなど、コンテンツ作りにも力を入れ、一定の成果を上げているようです。


ロイヤリティ型CRM


ロイヤリティ型CRMは、顧客のファン化を前提とした、ロイヤルティ向上のプログラムです。

顧客の変化を経年で捉え、「顧客ステージ」と「顧客状態」の双方を管理し、各ステージ毎の顧客状態に応じて施策を展開し、理想客への成長を促していきます。

また、「購買行動」という結果だけを追い求めるのではなく、「満足度」や「好意度」とった心理的状態を測定するKPIやそれらの向上を目的とした施策も重視するものになっています。

ロイヤリティ型CRMの全体像


ロイヤリティ型CRMの全体像は上記のようになっています。

施策はコレクション型やモーメント型も取り入れながら、さらには顧客満足を高める仕掛けなども組み合わせて全体を設計していく、総合的なCRMモデルです。
複数の商品を取り扱う比較的大きなECサイトなどにおすすめできます。
 

CRMのKPI


最後にCRMでよく用いられる成果指標(KPI)について紹介していきます。

CRMで用いられる主なKPI


図の青字がKPIにあたります。
これらは概略を示したものであり、実際は商材に合わせてもっと細かく設定されますし、この中でも特に重要なKPIについても変わりますが、概要としては参考にしていただけるのではないでしょうか?
 
 

最後に


いかがでしたでしょうか?

CRMと一言で言っても、大きな枠組みで捉えれば様々あります。
と同時に、最近はMAがトレンドとなっていますので、「自動化による促進=タイミングの良い営業行為」的な側面ばかりが注目されますが、本質的には顧客満足やロイヤリティを高め、ブランドファンをいかに育成するか、という視点がとても重要だと思います。

そしてそのためには、ポイントプログラムのような経済的便益によるつなぎとめ施策だけでなく、「サービス」という視点でお客様に対し、「関係を継続するに足る価値の提供」を考えていくことが必要だと思います。


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