エンパイア・オブ・ライトの映画の上手さ

エンパイア・オブ・ライト/サム・メンデス

「1917 命をかけた伝令」「007スペクター」「007スカイフォール」などの監督サム・メンデスの最新作。
007のスペクターも好きだが、なんと言っても「アメリカン・ビューティー」は心が荒み狂気に満ちた、お気に入りの映画としては極めて上位に位置する作品である。

この監督については、心理的に不安にさせるようなやり口が非常に気に入っている部分である。
今作品でどのような人間の醜悪が炙り出されるのか楽しみであった。

毎回映画を観るときには事前調査をせずに臨むが、「アメリカン・ビューティー」のような狂気はなかったものの、別の意味で胸をえぐられるような大満足の作品でした。

舞台は70年代後半から80年代前半のイギリスとのことで、サッチャー政権下で社会情勢は大混乱。
カルチャーとしてはパンクの時代で「白い暴動」など反ファシズム、反レイシズムを訴えカルト化した時代。
人種差別は相当ひどい時代であった。(イギリスでは今でも人種差別は日常的にあるが)
そういった背景をやり過ぎず落とし込んでいる。
元々彼の作品は長いセリフ回しを乱用することはなく、説明しすぎるようなことは一切しない。
さらに無駄なカットもないのに、強烈な台詞、行動、仕草で全て伝わるのだ。
もちろん役者が上手くなければ成立しないが、今回は本や詩、様々な映画や音楽が引用され、まるで行間を読むような作品に仕上がっていた。
台詞が少ない分一言一言が強烈な印象を残し、観客を突き動かす。
パワーワードの応酬であった。

それにしてもなぜ監督はこんなに女心がわかるのか?と感心してしまうのである。
女性が抑圧されている様、傷つく様、落ち込む様をよく捉えている。
好意を持った男性に対し自分は場違いだと思い直し口紅を拭うシーンはたまらなかった。
元カノの話を聞いて砂のお城を崩すシーン、幼少期の辛い経験から傷ついて落ち込んだだけなのに自分のことを精神病患者と決め付けられるが「自分は全く正常だ!」と訴えるシーン。
どれもこれも共感せずにはいられなかった。

同じく映画愛みたいな作品でバビロン/デミアン・チャゼルも先日観たが、
余計な説明をしないサムメンデスの作品の方が断然好きである。
今年映画館で観た作品では暫定1位の作品。


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