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旅の回顧録☆ジプシーたちのフラメンコ。

アルハンブラ宮殿があるグラナダの街は、スペインを占領したアラブ人が11世紀から15世紀まで首都としたため、今でもイスラム文化の名残があるエキゾチックな街です。

1995年、季節は年末の冬だというのに、とても温暖で過ごしやすい日でした。

さて、私たちは、そのグラナダでフラメンコショーを生業としているというジプシーたちの住む場所へ行くことにしました。

そのフラメンコショーは入れ替え制で、日本人観光客の団体も並んでいました。ちょっとした有名なショーだったのかもしれません。

私たちは飛び込みでやってきたので、客をさばいていた女性が近づいてきて、入場料についてスペイン訛りの英語で金額交渉を持ちかけてきました。その女性は妊娠してお腹が大きかったのですが、煙草を吸っていたので私は何とも言えない不穏な思いにかられました。

英語で話しかけられたものの、私の友人の1人がスペイン留学中で言葉が達者だったので、ひとまず入場料をぼられることもなく交渉できました。

入れ替え制なので、ショーを待っている間トイレに行きたくなり、友人らとかわるがわる行ったのですが、便座がなく女性は中腰で使用するしかない状態でした。

何となく、心がざわざわしました。

実際のフラメンコショーはステージ上ではなく写真のような白い洞窟の中で行われたので、目の前でのギターとダンスの迫力は圧巻というべきものでした。

それから帰国後もパコ・デルシアやビセンテ・アミーゴなどのフラメンコギター曲にハマったほどでした。

成人女性たちのフラメンコショーを堪能した後に、小さな女の子のショーが始まり、その頃には煙草を吸っていた妊婦や便座のないトイレのことはすっかり忘れて、そのかわいいフラメンコショーにきょうじていました。私たちはたくさんの拍手と指笛で、小さなダンサーを称えました。

そのときです。

フラメンコショーが終わり、小さなダンサーの発した言葉が、日本語で、

「おかね」

で、大人がその子に布袋を渡しました。

私たちは顔を見合わせて、「興ざめだね」とそのとき小声で言い合いましたが、今の私ならそんなふうには感じないでしょう。

その女性は妊娠中の煙草の害について、誰にも何も教えてもらっていなかったのかもしれません。

彼らは客のトイレの便座を直せるほど、お金に余裕がなかったのかもしれません。

事情は私も友人らも、誰にもわからないのです。

日本人は道端の大道芸をみて拍手はするものの、チップを渡す習慣を受け入れる人はまだまだ少ないように感じます。そのような職業の方々がご飯を食べる手段をよくよく考えれば、自ずと理解できることではないかと思います。

今の私なら「おかね」と言われて、事情を理解できます。

あのとき小さなダンサーが伝えたかったのは「チップをください」だったのだと思います。

大人たちが言うより子どもの方が効力がある。今のYouTube界をみても理解できます。

お金を得る手段は、本当に難しいものです。直截的な表現でしかできない人も中にはいるでしょう。

入場料が安くて嬉々としていたのに、チップを求められて冷めたなんて恥ずかしい。

あのときチップを渡せばよかったなと後悔しているお話です。

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