龍神NIPPON 2023 まとめ
日本のバレー史に残る、最高のシーズンになった。
9月30日から10月8日にかけて開催され、フジテレビで連日生中継された『ワールドカップバレー(以下OQT)』男子大会。
プールBの日本は6勝1敗で2位通過となり、今大会で見事パリ2024オリンピック(以下パリ五輪)の出場権を獲得した。
初日のフィンランド戦からいきなりフルセットの激闘。持ち前の粘り強さでなんとか勝ち切るも、続く格下のエジプト戦では2-3とまさかの敗北。
一夜明けたチュニジア戦・トルコ戦はいつもの調子を取り戻し、ストレートで2連勝。
5日目のセルビア戦、パリ五輪出場が決まる運命の6日目・スロベニア戦でも『強い日本のバレー』は決して揺るがず、いずれも3-0で完全勝利を収めた。
最終日のアメリカ戦では、格上相手にB代表を中心としたスタメンでいきなり2セット連取。
結果はフルセットで惜敗となるも、最後までハイレベルな善戦を繰り広げた。
また、5月31日に開幕した『バレーボール ネーションズリーグ2023(以下VNL)』男子大会においても、日本は第3位入賞を果たし、大会初の銅メダルを獲得している。
予選ラウンドは10勝2敗の2位通過、昨年勝ち進めなかった準々決勝では世界選手権ベスト4のスロベニア相手に3-0でストレート勝ちするなど、圧倒的な強さを見せつけていた。
準決勝で対戦した世界ランク1位のポーランドには1-3で敗北となったものの、7月23日に行われたイタリアとの3位決定戦では、フルセットの激闘を制し、勝利を掴んだ。
この記事では、今シーズンの龍神NIPPONがここまでの好成績を収めることができた要因について、個人的な感想を交えながら振り返っていきたいと思う。
VNL振り返り:世界トップレベルの『個』が集結
まず間違いなく言い切れるのは、『個』のレベルが世界基準で見て文句なしに高いということである。
今年のVNLで発表された個人賞7部門のうち、ブロックを除く6部門全てに日本メンバーがランクインした。そのうちキャプテンでアウトサイドヒッターの石川祐希はなんと4部門(得点1位、アタック1位、レシーブ2位、サーブ3位)でTOP3入り。
同時にディグ部門1位ではリベロの山本智大、セット部門2位ではセッターの関田誠大が輝いた。
3位以降にもサーブ部門ではオポジットの宮浦健人、レシーブ部門ではアウトサイドヒッターの髙橋藍が、世界のランキング上位に名を連ねる結果となった(※1)。
また、卓越した“個”の力で世界を圧倒した例には、真っ先に宮浦を挙げたい。
日本の名古屋で行われたVNL予選ラウンド第1週、その最終日となる大会4日目。
対戦相手である東京五輪金メダルのフランスは主力のほとんどを来日させておらず、昨年の世界選手権で日本に苦戦を強いたヌガペトやパトリィの代わりに、若手の実力選手を揃えていた。
主力メンバーでないとはいえ強豪チームであることに変わりはなく、第1セットはデュースの接戦に持ち込むも、25-27でフランスが獲得。
惜しいところを取り切れなかった…と肩を落としたのも束の間、石川や西田、髙橋藍の安定した攻撃で想像以上にテンポ良く2セットを取り返す。
そして迎えた第4セット、宮浦が25点中10点を稼ぐ“打てば決まる”無双モードを発揮し、この日は3-1でゲームセット。
日本は王者フランスにあっさり勝利となった。
今大会中、そのスパイク決定率の高さはもちろん、思わず笑ってしまうほど豪快なビッグサーブを連発しては観客の度肝を抜いていた宮浦。
実は代表初選出となった21年開催のアジア選手権以降、世界大会の出場経験はそこまで多くなかった。
九州の名門・鎮西高校出身で、大学時代は早稲田の全日本インカレ4連覇に大きく貢献。
だが21年に入団したVリーグのジェイテクトSTINGSでは、同じ左利きのオポジットである1学年下の西田のイタリア移籍後、なかなか勝ち星を上げられないチームの再建に苦悩。
普段はあまり感情を表に出さないクールな印象があったが、1ゲーム21得点を叩き出した久しぶりの勝利後には、コートに寝転がって天を仰ぎ、感極まって涙を見せるシーンもあった。
他の代表選手と比べてSNSでの発信も少なく、声を聞く機会があるとすれば公式のインタビューの場だけ。
チームメイトでもスタッフでもない私たちが、彼の人となりを知る機会はほとんどない。
だが無口な彼が全身全霊のパフォーマンスを通して伝えてくれる「バレーボールは面白い」というメッセージは、どんな雄弁より私たちの心を打つ。
それは紛れもない事実である。
OQT振り返り:強豪チームとしての心得
そして今シーズンの龍神NIPPONに確実に備わっていたのは、今更ながら、「自分たちは強い」という自覚だったのだと思う。
今年10月8日時点での日本はなんと世界ランク4位。
世界ランク2位のアメリカとの試合であれだけレベルの高い戦いができたのは、決して偶然などではない。
これまでは『最強の挑戦者たち』として、目の前に立ちはだかる強豪国に、果敢に勝負を挑んできた。
しかしもっと上を目指すためには、いつしか『勝負を挑まれる側』『築き上げた地位を守る側』としての姿勢を持たなくてはならないのだ、ということにふと気付かされる。
かつて数々の強豪国にそうされたように、日本もこれからは「ひょっとしたら勝てるかも」と希望をちらつかせ、「そうはさせないよ」と格の違いを見せつけ、下位のチームを完封していく。
そんな強さを常に持ち続けている必要がある。
それが可能なのだと日本中に、世界中に知らしめたのが、今回のOQTだった。
その立役者となったのは、髙橋藍。
かつて憧れだったはずの石川祐希に追いつくだけでなく、時にはその不調を庇うかのように細やかなフォローに入り、もう1人のエースとして、チームの大事なポイントゲッターとして活躍し続けた。
この日の試合では、練習の時に遊びでやっていたという華麗な背面トスを決め、クールにガッツポーズ。
謙虚でストイックな姿勢は変わらぬまま、得点時のリアクションは、これまで以上に自信とプライドに満ち溢れている。
個人的に、「自分たちは強い」という自覚や強豪チームとしての心得を持つという点において、今シーズン最も説得力を感じさせた選手は彼だった。
18歳で代表入りしてから、今年でもう5年目。
これまでは先輩たちの背中を見てよく学び、よく吸収する賢いルーキーという印象だったが、東京五輪での全試合スタメン出場やセリエA所属チームへの2シーズン連続在籍など、過去に例のない特別な経験をしっかりと積み上げてきた今の彼には、立派なキャプテンシーが備わりつつある。
「勝ちたい」ではなく、「勝たせなければならない」。
湧き立つ闘志と強い責任感が、今大会総得点90点(全7試合中6試合スタメン出場)という高い数字にも現れていると思う。
また端正なルックスと眩しい笑顔で、ここ最近はSNSをはじめ地上波のテレビ番組や雑誌などメディアの露出も増え、世間での知名度も上がり始めている。
そんな中、彼を取り巻くファンの中でよく議論になるのは、『アスリートをアイドル扱いしていいのか』問題。
アイドルのコンサートに持ち込むようなファンシーな応援グッズを掲げて盛り上がったり、バレーに関係のない、出所の不明確なプライベートの情報を一方的に調べては、勝手に喜んだり悲しんだり。
基本的には個人の自由だと思われるが、マナーの悪い一部のファンたちが、SNSでの度を超えた追跡や会場周辺でのしつこいファンサービスの要求をするなどして、大会期間中に物議を醸したのも事実だ。
しかし彼は、以前のインタビューでこのように答えていた。
なんと爽やかでスマートな回答だろう、と感心し、ほっとしたファンも多かったに違いない。
そうだ。私たちが言い争うまでもなく、たとえどんな活動をしていたとしても、彼にとってはバレーボールが常に最優先。
彼がこう答えている以上、私たちはその言葉を第一に信じ、最低限のルールさえしっかり守っていれば、あとは純粋に応援し続けるだけでよいのだ。
これまでもアイドル的人気を博していた男子バレーボールだが、ファンからの反応や応援のあり方について、公の場でここまで明言した選手はいなかったように思う。
たくさんの努力と、類稀なるセンスと、誇り高き才能。
これらをすべて持ち合わせ、多くの人に求められ続けても、決して擦り減らない強靭なメンタル。
選手としても、1人の人間としても器の広い彼なら、今後もますます逞しい成長を見せてくれることだろう。
さて、次に日本代表メンバーが招集されるのは、来年6月に開幕するVNL2024。
そこでは今回のOQTでパリ五輪出場権を勝ち取った6カ国(ドイツ、ブラジル、アメリカ、日本、ポーランド、カナダ)と開催国フランスに加え、残り5カ国の出場が決まる(※2)。
また、長期間に複数の開催国を転々としながら、主力および若手のメンバー調整を行う最後の機会となる。同時に、より有利な条件でオリンピック予選に臨めるよう、世界ランキングの維持向上も不可欠だ。
ここ40年で最も強いと言っても過言ではない今の龍神NIPPONなら、VNL2024で今年以上の躍進を見せ、またパリ五輪においても、『悲願のメダル獲得』をきっと現実のものにしてくれるに違いない。
※出典1:https://en.volleyballworld.com/volleyball/competitions/vnl-2023/statistics/
※出典2:https://news.yahoo.co.jp/articles/ce6c97fa19e5111d42686bc03d1af2a21487d2a9?page=2
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