【特別公開】幸野健一×隅田翔×東北全県ゲスト/新時代サッカー育成対談「震災から10年目の“東北力”」
東日本を、東北全土を襲った未曾有の大震災から10年の月日が流れた。
あの日から、日本中が「がんばろう東北」を合言葉に被災者と寄り添い、当事者はかつての生活を取り戻すため懸命に取り組んできた。蹴る場所を失った人たちもそうだ。サッカーができる日常を──。
そんな想いをつないできた場所で、大会が行われる。
7月31日〜8月1日、宮城県女川町で開催されるプレミアリーグU-11東北大会だ。
本当であれば1年前、全国31都道府県リーグの代表チームがこの地に集結し、日本一を決める「U-11チャンピオンシップ2020」が行われるはずだった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により延期となり、最終的には中止を余儀なくされた。
あれから1年が経った。
コロナの脅威がすべて解消したわけではないものの、少しでも希望の火を灯すために「東北大会」として開催することを決定した。
プレミアリーグU-11における東北地方は、これまで青森県、宮城県、福島県で行われてきたが、次年度からは新たに岩手県、秋田県、山形県が加盟。満を持して東北6県がそろった。
サッカーを取り巻く環境が“あの日以前”に戻れたわけではないだろう。それでも、グラウンドには少しずつ子どもたちの笑顔と情熱があふれるようになった。だからこそ、今、この場所からパワーを発信していきたい──。
今回、プレミアリーグU-11実行委員長・幸野健一氏とともにメッセージを届けるのは、プレミアリーグ宮城U-11実行委員長兼プレミアリーグ東北U-11実行委員長であり、東北の舵取り役・隅田翔氏だ。
女川町議会議員でもある隅田氏は、東北全体のレベルアップを目指して活動してきた。さらに、青森県、岩手県、秋田県、山形県、福島県の代表者もゲスト参戦する。“東北力”を携え、突き進んできた彼らは、どんな想いを語るのか。震災から10年の節目に、プレミアリーグを軸に据え、この場所から日本サッカーを盛り上げていく!
※東北大会は3月27〜28日に開催予定でしたが延期となって、7月31日〜8月1日に開催されます。この座談会は3月の大会前に収録したものです。
■登壇者
・幸野健一|プレミアリーグU-11実行委員長/FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント
・隅田翔|プレミアリーグ宮城U-11実行委員長兼プレミアリーグ東北U-11実行委員長/女川町議会議員/コバルトーレ女川スタッフ
・住谷学|プレミアリーグ青森U-11実行委員長/リベロ津軽SC アカデミーダイレクター
・帷子直樹|プレミアリーグ秋田U-11実行委員長/RENUOVENS OGASA FCジュニア コーチ
・仲塚輝美|プレミアリーグ秋田U-11実行委員長/グロースFCジュニアユース 監督
・横山彰|プレミアリーグ山形U-11実行委員長/山形FCジュニア 監督
・高田泰樹|プレミアリーグ福島U-11実行委員/アストロンFC 監督
・ファシリテーター:
北健一郎|サッカーライター/ホワイトボードスポーツ編集長
東北全県が揃うのは悲願だった
──今年からプレミアリーグU-11が東北の全県で開催されることになったことを受けて「是非東北の皆さんと一緒にイベントをやりたい」ということでプレミアリーグU-11全体の実行委員長でもある幸野さんからの発案でこのトークイベントが実現しました。
幸野 プレミアリーグU-11は6年前からスタートして、日本サッカー協会がU-12リーグを整備している中でそれ以下の年代のリーグ戦というのは日本サッカー協会ではグラウンド確保の観点からもなかなか難しいという話でした。それを日本サッカー協会に頼らずとも自分たちでリーグ戦を組織していこうという同士が立ち上がって、最初は7つの県からスタートしました。リーグ戦化をどんどん進めていくということと3ピリオド制ですべての選手が試合に出られるという価値観も合わせて進めていくということで、7県からスタートしたものが年々拡大してとうとう一昨年には33都道府県で開催されるまでになりました。
その中で東北は福島と宮城と青森県の3県で開催していただいていましたけど今年の4月からさらに岩手県、山形県と秋田県の3つの県が加わって東北6県全部が勢揃いするという非常に僕としては喜ばしいことになりました。長年各県を揃えることをずっと一生懸命やってきた僕からすると自分の中で苦労して上手くいかなかったことを隅田さんの尽力で全て揃うということは僕の中ですごく嬉しいことだった。それとたまたまそういうタイミングで本来、プレミアリーグの全国大会が去年の4月に開催予定でしたけどコロナのせいで開催できなくなってしまった。今年も全国大会という形はやはり無理だということで各8つの地域に分かれて地域大会を開催する。
その中でも東北大会を震災から10年という節目の年に宮城県の女川町で開催することも決まったものですから、東北の6県が揃ったということと女川町で開催してそれをきっかけにプレミアリーグというものが一般の方が知る機会を作りたかった。その延長線上の中で今回のzoom企画もせっかく2つのイベントがあることをなるべく多くの人に知ってもらいたいなと思って企画させていただきました。是非よろしくお願いします。
──今お名前が出た隅田さんはプレミアリーグ宮城U-11の実行委員長でもあるとともに東北の実行委員長も務められているというわけですが隅田さん、簡単に自己紹介をお願いしてもいいでしょうか。
隅田 プレミアリーグ宮城U-11と東北の実行委員長をしている隅田と申します。プレミアリーグの方は昨年度から開催して、今年度はコロナ禍でしたけども年間104試合を予定している中で今、102試合までは無事に消化しました。あと、東北大会の方を今月の27、28日に女川町で開催することが決定しました。今はその大会の準備を粛々と進めています。ただ今年はコロナ禍なのでどうなるかわからないというのが正直なところ。もちろん常にいろいろなイベントが中止になっていることも隣り合わせではあるのでそこら辺も常に気にしながらやっている状況です。
個人の自己紹介としては宮城の人間ではなくて元々は千葉県出身で大学まで関東でサッカーをしてコバルトーレ女川というサッカークラブに入るためこちら(東北)に来ました。それが16年前になりますがそこから選手を4シーズンしてそのあとは10年間くらい指導者をして、今は女川の町議会議員という職も務めながらサッカーの普及だったりプレミアリーグの整備で何か貢献できないかと思い活動しています。
──議員先生ということでかなり偉いのでは……?
隅田 いやいや(笑)。皆さんからからかわれるように「先生」と言われますけど、まだ1年半くらいしかたっていないのでなかなか貢献できていることは少ないです。サッカーだLINEでじゃなくて、東北の課題というのが人口減少かだったり高齢化だったりとか様々なことがあるのでそういったことにもトライしながらサッカーの方と寮で頑張っていきたいなと活動しています。
──続きましてプレミアリーグ青森U-11の実行委員長、住谷さんです。よろしくお願いします。
住谷 こんばんは。青森県実行委員長の住谷です。青森県は3年前からプレミアリーグを始めまして、最初は10チームでスタートしました。今年度でに関してはコロナの影響で思ったよりチーム数は集まらなくて、それでも12チームで各チーム11試合こなして一回りで終わるという結果でしたけどそこまではできました。2021と2022年の来年度は16チームで開催します。2020年度が始まる前に来年度もコロナの影響で集まるのかどうかわからないというのもあって、どこも降格させないと言ってしまったものですから16チームで2ブロックに分けて来年から10チームずつの2部制にしてやりたいなと思っています。最終的にはチャンピオンシップにつながるものでもありますし、みんなのいい経験につながればいいなと思いながら開催しています。
──住谷さんは青森県の実行委員長であるとともに個人としてはリベロ津軽SCのアカデミーダイレクターとして活動されているんですよね。
住谷 そうですね。それも去年からなんですけど、去年はまではU-12の監督も兼任していたものですから来年度はU-12から外れてアカデミーダイレクターと今は女子チームの監督も兼任しながらやるような形です。
──ありがとうございます。続きましてプレミアリーグ岩手U-11の事務局で担当されています帷子さんです。よろしくお願いします。
帷子 こんばんは。グラウンドではないこういう形で皆さんの顔を見られることは嬉しいですけど、是非またグラウンドでお会いしたいなと改めて思いました。私は代表の中村()の方が参加できないので代理という形での参加にはなりますけども、プレミアリーグ時代は一昨年からお話はいただいていましたけどその段階ではなかなか実行に移せなくて、昨年についてはコロナの影響もあったりして活動のスタートを切れませんでしたが改めて今年、コロナも少しずつ落ち着いてきたこともありますし子どもたちにとってもいい機会だと思いましたので参加させていただく形になりました。
──プレミアリーグU-11を開催するためにチームを集めなければいけなかったり、越えなければいけない壁がありやはり大変でしたか?
帷子 チームを集めることはそこまで大変なことではないですけど、環境ですね。岩手自体がクレイのグラウンドはいくつもあるんですけど、人工芝のグラウンドが各年代の取り合いになっていますのでそういった整備だったり、岩手県はかなり広いので移動の問題とかも考えてなかなか「よし、じゃあやろう!」と二言返事でできなかったところはあると思います。
──帷子さんはRENUOVENS OGASA FCジュニアでコーチを務めていますが「OGASA」というのは小笠原満男さんの名前が入っているのでしょうか。
帷子 そうですね。アドバイザーとして関わっていただいております。
──RENUOVENSさんはどのような活動をされているチームなんですか?
帷子 元々、別の組織からの独立という形でジュニアユースの方から立ち上がりましてその後ジュニアの活動もスタートして今はジュニアとジュニアユースという形で活動させていただいております。
──ありがとうございます。続きましてプレミアリーグ山形U-11実行委員長の横山さんです。よろしくお願いします。
横山 こんばんは。横山です。山形は2年前からU-11の山形チャンピオンズリーグという形でリーグ戦をしていましたが、今回住谷さんからお話をいただいてプレミアリーグへ移行することになりました。プレミアリーグのことは幸野さんのFacebookをよく見ていたので「面白そうだなと」個人では興味を持っていて、今回皆さんの同意を得て来年度から実行することになりました。
──別の母体となるリーグ戦をされていてプレミアリーグへ移行するというのは珍しいパターンですかね。
横山 そうですね。5年生の試合環境がないというのは前々からずっと思っていましたので、知り合いの10チームくらいで集まって「試合をやろう」となったのが始まりですけど移行するのは皆さん賛成してくれたので結構早かったです。
──なぜ賛成してくれたんでしょうか。
横山 皆さんプレミアリーグに興味あったんじゃないですかね。
──ケンさんのFacebookを読んで興味を持ってくれていたんですね。
幸野 それは役に立ってくれて嬉しいです。
──横山さんは山形FCジュニアの監督も務められていますがこちらのチームについても紹介していただけますか?
横山 うちのクラブは元々、西小けやきスポーツ少年団がスタートで、最初はスポーツ少年団とうちのクラブのジュニアユースがあったんです。それでそこから地域に根ざしたクラブを作ろうということでいろいろな方の協力もあって今はジュニアクラブとジュニアユース、あとは社会人チームもあります。
──いわゆるトップチームのような形であるんですか?
横山 分かれたような感じであるんですがそんなに強化とかはしていない社会人です。昔はユースもあったのですがなかなか東北の町クラブで裏部のユースをやるというのは厳しくて、今はユースはあまりやっていないですがそんな感じです。
──ありがとうございます。そしてプレミアリーグ秋田U-11の実行委員長を務めている仲塚さんです。よろしくお願いします。
仲塚 秋田県の実行委員長の仲塚です。今年に入って1月の中旬くらいに隅田さんの方から「是非秋田の方で実行委員を引き受けていただきたい」というご連絡をいただいて、今募集を各チームにしまして1部が10チーム、2部が8チームの合計18チームで4月から新しくシーズンを迎える状況で今、進めております。それと来週、代表者会議を行いまして4月から始める準備を現状しています。
──1年目から18チームが集まるというのはすごいですね。
仲塚 そうですね。各チームにお声がけをさせていただいて「是非出たい」というところで集まっていただいた状況ですね。
──仲塚さんはグロースFCジュニアユースの監督も務められていますけどこちらのチームの紹介もしていただけたらと思います。
仲塚 秋田県のグロースFCというチームはジュニアからスタートしまして、その後ジュニアユースを立ち上げて今現在はジュニアとジュニアユース、2つのカテゴリーで活動をしております。
──全日本少年大会にも出場されていますよね。
仲塚 はい。2年前、全国大会に出場させていただきました。
──今日はいろいろとお話しよろしくお願いします。最後に、プレミアリーグ福島U-11の実行委員を務めている高田さん、自己紹介をお願いします。
高田 よろしくお願いします。名ばかりですけど福島県の実行委員長をやっている高田と言います。今、アストロンFCというチームで活動しています。プレミアリーグにも何回か出させていただいて4年前くらいに全国大会という形で出させてもらって、なんと4位になっていると思います。それをきっかけにうちはプレミアにずっと出場して価値観が変わってきました。やはりリーグ戦ということは大切な要素で、我々は全日本少年大会を目指しますがその一つ下となるとなかなか手が行き届かない状況。ですがこの大会があることで(U-11の選手は)非常にモチベーションが高くて助かっています。
地域的にも東北でも一番南にあるということで茨城県や千葉県といった関東に近いチームとの交流が多いということで、このプレミアリーグに関しても当初から出ているんだなと思います。ただし今年は4チームだけでの参加でした。これはやはりコロナの影響もあって、どうしても人数が福島の場合少ないということで6年生の方に5年生が引っ張られ、5年生の大会も4年生と合同じゃないといけないというところでリーグ戦の回数が今年は本当に少なくて申し訳ないなと思っています。
──高田さんはS級ライセンスもお持ちなんですよね。
高田 そうですね。第2回目のS級なので取りやすかった時期なのは間違いないです。
──ケンさんは昔から高田さんと繋がりがあるんですか?
幸野 存じ上げています。福島で一番有名な方なので。チャンピオンシップのときにうちのグラウンドにも来ていただことがあります。
──全国大会にもアストロンFCは出られているんですね。
高田 そうですね。全日本に関しては6回出させてもらっていまして、かなり古い方ですね。
東北の悩みは「切磋琢磨しやすい環境」がないこと
──ありがとうございます。今日はケンさんと東北6県の合計7人の皆さんでいろいろ語っていけたらと思っています。東北のサッカーについて考えていきたいのですが隅田さんは育成年代の事情はどういうものだと感じていますか? 関東や関西、他県に比べてどんな特性があるか教えていただきたいです。
隅田 自分が東北全ての地域委員ではありますが代表して全てを語るのは難しい部分がありますね。小さい頃から東北で育ってずっとその環境にいたわけではないですがここ10年で自分が携わっている中ではお伝えできるかなと思います。東北は本土の中でも北部に位置していて、関東に移動するには地理的にどうしても距離がある。そこが一つ大きな要因。日常的に関東のように競合チームがすぐ近くにいて埼玉、千葉、神奈川みたいに切磋琢磨しやすい環境がなかなかないというのがあるかなと。各県の広さもあるので県を移動するだけでも何時間もかかったりしますし、そういう地理的なところがまずあります。
それに東北で強豪と呼ばれているチームはなんだかんだ関東に行って強化していくというのが傾向として強い。ただそこまで移動できないチームも現実的にはある。そういったチームが日常的に強化できる環境は必要かなという中でこのプレミアリーグが普及の面、強化の面の両方ですごく大きな役割を東北でも果たしているのかなと思います。個人、個人ではいい選手がいろいろな県から輩出されていると思いますがやはりJリーガーになる選手は他地域に比べてはそんなに多くないかなという印象があります。裾野をどんどん広くしていく活動は重要になってくるんじゃないかなと思います。
──プレミアリーグ全体の実行委員長としてケンさんは東北にどんな印象を持っていますか?
幸野 僕自身も息子がJFAアカデミー福島の一期生だったので4年間福島にいました。その4年間は東北の各地で行われる大会にも帯同したりして自分なりに福島を中心に東北の環境は見てきました。やはり今、隅田くんが言ったように地理的な距離はあると思います。福島のいわきからジュニアユースの大会で安比高原に行くだけでも1日では生き切れないくらいの距離を移動しなくてはいけない。環境の面でそういうのがハンデになるかと思ったら「確かにそうだな」とつくづく思うし、どうしても人口も少ないですからそんなに競合チームがたくさんあるわけでもないので切磋琢磨できる環境がなかなかないというのはよくわかっているつもりです。そういうこともわかっていたので私がスタートしたプレミアリーグというものは東北の方たちには絶対に役に立っていただけると前から思っていました。今回6県全部揃ってやっていただけるというのは東北の発展のためにもすごく良かったことだと思うし、これを契機に東北のサッカーが発展することを強く願っています。
──移動の話のとき、高田さんが「まさに」という表情をされていましたがやはりそこは感じますか?
高田 そうですね。東北大会となるといつも安比高原というところになるんです。特に中学生年代は試合となれば金曜日の4時ごろに入ってその日に入って土曜日の午後にやっと試合ができるといったハンディがありますね。ですから安比でやられると「1試合目は無理だな」とか計算ができてしまう。ですから近県でできるような環境ができるといいですね。
冬場はまともに練習ができないことも……
──今「ハンディ」という言葉が出ましたけど東北でサッカーの育成をやるにあたってハンディを感じるか伺いたいのですが、隅田さんはどうですか?
隅田 今聞けば確かにそういうのはすごくハンディで難しい部分はたくさんありますけど、要は東北は東北の良さだったり、どういう選手が育つか楽しみにやっている部分もあるので関東、関西に負けている、劣っている部分はたくさんありますけどじゃあそれを何で補って何で戦っていくか。どうやって育てていくかが楽しみでもある部分でもあるのでハンディと感じる部分はないですね。
──逆に青森といえば高校サッカーで最強のチームがありますしね。
隅田 青森県民は少ないですがそれこそ今年キャプテンを務めていた藤原優大はうち(青森)出身の選手。そういう選手が出てきたり、高校からは関東へ進学する子も多いのでここで輝かなくても高校年代で輝いてくれたりとか。大学に行って輝いてくれたりとか。今までうちもプロ選手はほとんど出ていないですが今年2人出てJ3のヴァンラーレ八戸に佐々木快という子が大学を出てプロになったような子もいます。ここでできる限りのことは頑張りますけども、ハンディというよりはそういう選手も出てくるいろいろな楽しみがあるのかなというのはあります。
──藤原優大選手(7月よりSC相模原に育成型期限付き移籍中)は高卒で浦和レッズに入団するという最近は珍しいケースだと思います。どういう選手か伺いたいのですが隅田さんは直接指導はされましたか?
隅田 いえ、僕は直接は指導してないです。見てはいましたけど、サッカーが上手いとかそういうのよりも心の面で非常に強く逞しい選手でしたね。昔から体格が非常に大きかったので身長でも頭一つ飛び抜けているような選手でした。
──なるほど。横山さんにお伺いしたいのですが東北といえば積雪があると思いますが東北の中でも積雪に違いがありますよね。
横山 ありますね。山形県内でも山の方はすごく降りますし、僕が住んでいる山形市内は積もるときは積もりますけど山形県内の中でもそんなに多くはないです。
──そうなんですね。
横山 多くはないと言っても関東の人から見られたら全然多いですけど。冬場は屋内での練習が多くなりますが僕らは山形の人工芝を持っているグラウンドをお借りしましてそこを除雪して年間外で練習している。積もったときも30cmくらい積もったときは雪上サッカーをしているので一応練習はできるんです。でも他のチームは体育館とかの練習になりますが山形県内にそんなにいっぱい使う施設がないので毎月抽選会があって体育施設を取らなければいけないんです。それに他のスポーツ団体も殺到してしまって、冬場はまともに練習できないと思います。
──そういう問題があるんですね。
横山 はい。そういう中でも工夫して周りを走ったりとか施設上でやったりしていますし、他のチームもそうしているんじゃないかと思います。
仲塚 秋田での一番の問題は少子化ですね。それがすごく顕著に現れているような話でして、今回リーグを立ち上げるにあたって各チームに募集をさせていただいたのですが「人数がいないので難しい」というチームが結構ありました。それが一つ、秋田の中での課題なのかなと感じます。あとは今、冬季間のトレーニングのお話がありましたが秋田に関しましても県の南部であれば今年結構な大雪が降って1日が160cmが積もったこともありました。5月の連休が明けても雪がグラウンドに残っているという話も聞きますし、雪がなくても冬季間は体育館で練習をする形になっている。先ほど山形FCさんからも話があったようにいろいろな競技が施設を使いたい中で体育館の予約が取れないと練習ができないということを聞いたことがあります。人工芝もありますが人工芝の施設の管理者によっては雪かきを禁止しているところもあります。
──雪かき禁止もあるんですね。
仲塚 そうです。雪かきしてできるところもありますが2時間くらいやってやっとフットサルコート一面分の緑色が出るかなという中でやっている状況です。
──北海道でも雪の時期はどう工夫するかというのは育成においてはすごくキーになっているそうです。今回のトークイベントでも地域によって抱えている問題が違うんだなと改めて感じますね。あとは先ほど岩手の安比高原で大会を開催されているという話がありましたが帷子さん、岩手のチームにはホームアドバンテージのようなものがあるんでしょうか。
帷子 距離的な部分で言うとアドバンテージかもしれませんがそもそも天然芝で試合をすることが少ないですし、ピッチもかなり芝ならめというところもあるので土地、環境についてはフラットなのかなと思います。ただ、その中でも先ほどの雪の環境の問題もありましたけどいかに環境を味方につけるかというところは、例えば全日本に出れば鹿児島へ行かなければいけないですし、そうなってくると暑さの問題とかいろいろ環境の変化とかどう味方につけるかというところは子どもたちには「準備から始まるよ」ということは伝えている。そういうことも含めて環境対策じゃないですけどいい準備をする習慣を今後も継続して伝えていかなければいけないなと思っています。
10年経った今も復興していない場所がある
──今回のイベントでも一つテーマにしたいことがありまして、3月11日で東日本大震災から10年目を迎えました。東日本大震災は東北地域を中心にものすごく被害が大きくてサッカークラブの活動においても様々な影響があったと思います。現在進行形の話だと思いますがそこを皆さんがどのように乗り越えたかという話もお聞きしたいのですが岩手は東日本大震災で大きな被害を受けたと思いますが帷子さんからそのときのこと、その後のことを各チームどうしてきたか教えていただきたいです。
帷子 当時私は指導者の方に関わっていない時期だったので実際、育成年代のところが震災でリアルに見たわけじゃないですが今のコロナとはまた違って、活動できないだけじゃなくて人の生き死にだったり心身的な影響もあったと思います。グラウンドが潰れてしまったりしておそらく隅田さんもそうですがやりたくてもやれないチームもあった。
盛岡自体は内陸なので津波の大きな影響はありませんでしたが、その中でも一緒に活動していた仲間に被害はありましたのでそれに向けてうちのチームもジュニアユースの年代で復興フェスティバルというのをずっと続けさせていただいて、続けることで風化させたくないというチームと代表の念もある。アドバイザーの小笠原満男もそこは継続したいという思いがある。
今年で10年という区切りにはなっていますけど、そういったところは忘れずに。今、コロナで子どもたちも思うような活動ができていない部分がありますけどその中で乗り越えてプロの選手が出てきているので全てをネガティブに捉えないように。そういった部分をケアしながら指導していきたいと思っています。
──高田さんは福島県の実行委員長としてずっとサッカーに関わってきていますが2011年3月11日は大きなポイントになっていますか?
高田 そうですね。そこが起点になって一度みんないろいろなところに避難して、また集まって始めたのが5月の連休後。たまたまうちのチームからですがその年に全日本少年大会をやってくれまして、条件としては雨が降ったら内部被曝するので15分でやめようという中でやっていました。
うちのチームも練習不足で当然「一週間後に試合だ!」といってもなかなか練習できない状況で試合に臨んで、なんとかPK勝ちとかで勝ってきましたが決勝戦に関してはうちよりも強かったビアンコーネ(福島)さんと戦って、前半0-0、後半0-0、延長戦でさらにこれからPK戦というときに土砂降りの雨になりましてそのとき行った処置がテントにみんなを集めてこれ以上できないからとトスで決まったんです。それはそれとしてその年に勝ててその後も3年連続で全日本を取れたんです。
──それで福島県代表になったと。
高田 はい。震災以降、みんなの気持ちが「復興しなきゃいけない!」という気持ちでサッカーで少年育成とかそういうことをすることによって自分たちもちゃんと復興してるんだよという気持ちが福島ではすごく強いですね。ですから10年経ったとしても大熊町は高速道路を通ったときに周りを見てもまだ何も帰ってきていないという状況があるんですよ。ですからJビレッジという施設があるんですけど実際にその周りには人がいないような状況がずっと続いています。今回女川さんのところで大会をすると思うんですけど、是非周りの環境を見てもらって実際には今のU-11子どもたちは震災当時の経験を知らない子どもたちなのでそういう経験をしてもらってその上でサッカーを楽しんでもらえたらなと思います。
──なるほど。あのタイミングで活動をやめてしまったチームもありましたか?
高田 実際にはあまりありませんでした。大会をやってくれるといったらそこで集まって試合だけはやったんですよ。ただチームとしてちゃんと活動する上ではやはり半年とか1年かかって徐々にチームが増えてきたという形です。
──ケンさんも志有人くんがJFAアカデミー福島に通っていたので思い入れはあると思いますけど震災後の東北サッカーの変化をどう感じていますか?
幸野 女川町とか震災で多くの方が亡くなったエリアはたくさんありますけど、福島は特殊で原発という目に見えないものがあるから短期間で終わったものではなく、ある今も続いているわけですよね。それが一番大変なことだと思うし、風化できない話。ただやはり前を向いていかないといけないと思うし、サッカー界のできることはプレミアリーグのトーク大会を女川町で開くのも決して風化した事実ではなくて、東北は今まで大きな大会がなかったと思いますけど、プレミアリーグを被災地である女川町でやることによって多くの情報発信だったり日本中の人にそういう事実を見てもらってサッカーができる力を示したかった。
去年最初に女川町長にお会いしたときも目に涙を浮かべてすごく喜んでいただいて、そういったことを地元の方たちが臨まれてサッカーの力によって多くの人を幸せにできる力がある。日本でスポーツがまだ文化になっていない中でそういうことをやることがスポーツの価値を世の中のサッカー以外の人たちに見てもらうことによって感じてもらうことによって僕はサッカーが、スポーツが文化の一つになっていく過程の役に立つと思う。そういうことをやることがプレミアリーグだけでなくサッカーというスポーツが一般の方にも価値を持ってみられることなのですごく大事なことだと僕は感じています。
“アクセスが悪い”女川町で開催する意味
──隅田さん、今ちょうど全国大会の話も出ましたがこれは本来なら昨年2020年の4月に開催する予定だったんですよね。
隅田 そうですね。31の都道府県が集まって大会をするということで、ちょうど大会の準備の佳境に入ったところでコロナが蔓延してきて、中止にはしないで一度延期して夏くらいに開催できればと判断しましたけど到底やれる状況ではなかったので中止という判断にせざるを得なかった状況ですね。
──少し意地悪な言い方をすると関東とかでやった方が全国大会はアクセスがいいと思いますが女川で開催する意味はどこにありますか?
隅田 おっしゃる通りで他の県からも「アクセスが悪い」とか「遠い」という意見も正直ありました。そういうハンデを抱えている場所があるということは十分認識していますけど、震災で女川町に限らず被災した3県については世界中から支援をいただいたんです。そういった中でそれに対して何ができるか。それを受けてどういった町づくりになっているか。どういった成長を遂げているかというのを世界中に発信したいという地域ではありますし、その中で大会が来てくれるとなれば発信する絶好のチャンスでもある。地域経済だったり町内の一体感を出すためにも大会というのは町を一つにする大きなイベントになってくるので、そういった意味で町長含め是非女川で開催していただきたいと幸野さんの方にパッションで伝えました。
──パッションで伝えたんですね。
隅田 パッション返ししました(笑)。
幸野 準備に一緒にかなり時間を割いてやりましたね。
隅田 そうですね。
幸野 めちゃくちゃ準備に時間をかけたので全国大会が流れてしまったことは忸怩たる思いが隅田くんにもあるんですよ。大変な思いをしてアクセスの面とかかなり手配していた挙句に中止になってしまったので。ただなんとか東北大会という形で少しでも還元できればと思ったので。
隅田 そうですね。悔しいですね。ただ、震災があって思うようにいかないことはたくさんありました。理想と現実が全然違うということを突きつけられると、今回全国大会ができなかったという事実がありますけど、それも受け入れるしかなくて、その次に何ができるかというので切り替えて今回トーク大会を開催していただけるということでそこにつながったのでトーク大会に向けてしっかり準備する。万が一トーク大会も中止になる可能性もありますけどそうしたらまた次に向かっていく。常に現実的なところで悲観的にならずに進んでいきたいなと思っています。
幸野 実は2年前までは僕のグラウンドで全国大会をやっていたんですよ。それで年々チーム数が増えて31チームまで増えたものですからグラウンド一面じゃ来年はできないとなったときに「じゃあどこでやるんだ?」となって、時之栖に「是非うちでやってほしい」と言われましたけどそこでやることに意味がある場所でやった方がいいと思っていたのでたまたまそのときに隅田くんから話を聞いて結果的に女川町で手を挙げていただいてやりたいという希望があったときに一番、僕が思っていた通りの場所と言いますか本当に意味がある場所だった。被災地であって、復興というもののお手伝いがサッカーを通じてできるという意味では運命の巡り合わせと僕は思っていたし、どうせやるんだったらすごく望まれる場所で地元の方がみんな応援してくれる形でこの大会が育っていって、U-12は鹿児島を目指しU-11は東北を目指すというのが日本中の育成年代の指導者の中にそういうコンセーサスが育っていくことがサッカー界としていいことなんじゃないかと思ったので僕としてはコロナがおさまったその先に東北で全国大会をやりたいなという強い思いがあります。
東北大会はあくまでもリーグ戦のご褒美の大会
──最後にプレミアリーグU-11実行委員長の幸野さんからメッセージをいただけますか。
幸野 僕自身は大会廃止論者なわけです。全小とか選手権とか甲子園とかやめろとたくさん記事を書いて、「なんでお前こんな大会やってるんだ?」と批判されるわけなんです。そこを一言ちゃんと言っておきたいのですが、僕はなんで大会をやめろと言ってるかというと結局毎年、全日本少年サッカー大会で一昨年も810人の選手が参加しながら157人だったか、1試合も出られない選手が5分の1。5人1人が1分も出られないまま鹿児島から帰るわけになったわけですけど、そういう状況は僕はあってはいけないと思っています。
特に小学生はうまいか下手かは早熟かどうかで決まるわけなのである程度その年齢になればできるだけ全員を試合に出すことが大切だと思うし、日本の場合の問題点はサッカーをプレーしている子どもたちが途中で高校生にまでの間にみんな辞めていって大人にまで生涯スポーツにつながらないというのが一番の課題なわけだから、サッカー選手にとって一番大事なことは試合に出ることだし、それがなかったらどうしても辞めてしまう子が出てくるわけだからなんとかしたいとずっと思っていたわけです。
東北大会はあくまでも1年間リーグ戦を戦った後のご褒美の大会。この大会が決して主役ではないんです。1年の中でこの大会だけが飛び抜けてあるわけじゃなくて、一番大事なのは年間を通したリーグ戦こそが一番大事なもの。これより最後まで戦った意味のご褒美なのdせどちらかといえばフェスティバルな意味合い。もちろん出るからには皆さん勝利求めてやりますけど、それはあくまでも前提として最後に1年間戦った選手へのご褒美という意味合いが僕の中では強い。それを踏まえた上で皆さんに臨んでほしいなというのが正直な気持ちです。
「矛盾している」とか言われますけど僕の中では全く矛盾していないんです。大会が悪いのではなくて、大会が主役になりすぎて勝つために全てを犠牲にしてでも、さっき行ったように鹿児島まで行っているのに150人の選手が1分も出られないというのは僕の中では異常な状態だと思うし、毎年毎年ずっと同じ状況を繰り返してやっているにも関わらず変わっていかないというのは、テクニカルニュースに毎回そのレポートが載っているのに指導者の皆さんが「これおかしいだろ。ふざけるなよ」と言ったら変わるはずなのに結局記事に書くのは僕ばかり。そういうものに問題意識を持ってほしいなと思って。そういう反発をもってこのプレミアリーグを開催している部分があるんですよ。
大会名:アイリスオーヤマ第6回プレミアリーグU-11チャンピオンシップ2021 東北大会
主 催:プレミアリーグU-11実行委員会
後 援:女川町 石巻サッカー協会 女川町観光協会
特別協賛:アイリスオーヤマ株式会社
期 日:2021年 7月31日(土) 予選リーグ / 8月1日(日) 決勝ラウンド
会 場:女川町総合運動公園 町民多目的運動場および町民第二多目的運動場
(宮城県牡鹿郡女川町女川浜大原190)
出場チーム:東北4県から計9チーム
宮城県: ベガルタ仙台ジュニア、岩沼西サッカースポーツ少年団、FCアルコ、ACジュニオール、COPAMUNDIAL FC SENDAI jr
青森県: リベロ津軽SC、青森福田SSS、FCトゥリオーニ
山形県: 鶴岡Jr Football Club
女川町長 須田 善明 様 コメント
「『アイリスオーヤマ プレミアリーグU-11チャンピオンシップ2021 東北大会』を女川町で開催させていただけることを心より喜んでおります。昨年は全国大会が新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止となってしまいました。未だ収束が見えない中、本大会は幸野委員長を筆頭に、サッカーやスポーツを愛する皆さんが理念と熱量をもってこのコロナ禍でも頑張ってこられたと思います。競技スポーツ・生涯スポーツのどちらの面でも、参加した若きプレイヤーにとって自身のキャリアに「女川」という場所での経験がポジティブなものとして刻まれるよう、開催地としてしっかりお支えし、盛り上げていけるよう取り組んでまいります。」