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ドーナツは天の光輪


ラノベ的な何か。その②

前回。



 ドクターから、眼球の動きや反応などの軽い診察を受けた後、身分証を渡され、僕は病室から連れ出された。
 金髪碧眼の美少女、ティナは得意げに僕の腕を引く。記憶を失う前の僕と彼女の関係は不明だが、失われたのが記憶だけで、性格や好みに変化がないと言うのなら、控えめに言って得意なタイプではない。
 「さて? どこから話せばいいのかわからないけど」
 僕の腕を引っ張りながら、振り返って笑うティナ。この娘は、自分の美貌を自覚している。そして、その効果的な使い方も。
 「まずは敵だと言うオブスキュアについて、だ」
 病室を出て、メディカルブロックと思しきエリアを抜ける。
 どうやら相当に金の掛かった施設らしい。要所に武装した兵が配備されている。おそらくは軍施設だろう。
 「オブスキュアは文字通り見えない敵よ。何者なのかも、何が目的なのかも、何処から来たのか、生態、所在、何を食べてるのか、そもそも生きてるのか、何もかもが不明」
 「生態? 宇宙人だとでも?」

 正体不明のテロ組織か何かかと思えば、あまりにも突拍子のない言葉に、苦笑いが浮かぶ。
 「その可能性は捨て切れないけど、異次元生物ってのが研究者の有力な見解」
 「異次元生物だと?」

 馬鹿な。僕は記憶が失われたのではなく、異世界にでも飛ばされたのだろうか。異次元生物だと? だが、冗談にしては手が混みすぎているし、ティナの口調も淡々としていて、冗談でも、真剣な演技でもない事を匂わせた。
 「着いたわ」
 施設の構造上、正確に何階かはわからない。高さにして2階分は上階に来たものの、これまでに一度も窓を見ていない。考えられるのは地階だ。確信はないが、真上が地上ではない雰囲気を感じる。
 「我らがD.o.n.u.t作戦本部へようこそ」
 「ドーナツ?」

 ずいぶん間の抜けた名前だ。
 「通称ドーナツ。オブスキュア対策司令本部よ。事態は甘くないけどね」

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 ティナがそう言うと、本部作戦室の巨大な扉が開く。まるで映画のワンシーンだ。いや、何かの映画を観た記憶はないが、それこそSF映画に出てくる戦艦のブリッジだ。
 そして、困った事に僕は、そんな浮世離れした光景にもまるで驚いていない。それは記憶がない所為なのか、この肉体の持ち主が豪胆なのか、この肉体が記憶しているのかはわからないが、どうやら、苦笑いも「宇賀持京介」特有のものらしい。
 中央の巨大なスクリーンには北半球の平坦なCGで地図が表示されている。おそらくはメルカトル図法だと思われるが、中央はアルジェリア付近だ。気になるのは、割と細かく描かれている地図なのに、海が単調な赤で表示されていることぐらいか。いや、それはさしたる問題じゃない。中央がアルジェリアだと言うことだ。
 「少し聞きたいが…」
 「ここはアルジェリアじゃないわ。単にオブスキュア対策の最も見やすい地図がこの状態なだけ。ここはプレザント島。太平洋上の小さな島よ。答えになったかしら?」

 ティナは得意げにこちらを覗き込む。気があるとかないとか、そういった問題ではなく、美少女が屈託のない笑顔でこちらを覗き込んでくると言うのは、どうしても照れる。そして、ティナはそれをわかった上で実行している。
 「95点だ。プレザント島ってのは何処だ?」
 誤魔化すように、問い返す。
 「そっか、キョースケは知らないのね。元ナウル共和国って言えばわかる?」
 「ナウル? 元ってどういう事だ?」

 ナウル共和国。鳥の糞で出来た小さな島国で、リンが豊富に採れたお陰で楽園となるも、掘り尽くした結果、失楽園になったという、相当特殊な国だ。経済が安定しないとは聞いたような気もするが、元、とはどういう事だ?
 「この四年で消滅した国のひとつ。国民の多くはオーストラリアに引き取られたわ。幸い、完全消失したのは主要都市のヤレンだけで済んだし」
 ナウルがオブスキュアにより消滅させられ、政府機能を失う。これにより国連はナウル共和国を買収解体し、国民をオーストラリアに移住させた。
 国連は取り急ぎ、買い取ったナウルを対オブスキュア用の前線基地として大改造した。今、僕たちがいるのは、その元ナウル、プレザント島だという。つまり、このドーナツは国連が組織したらしい。
 ティナは近くにあったコンピュータにIDを通し、使用する。ピアノでも弾いているかのような、流麗なタイピングに、少し見惚れそうになる。なるほど、天才の美形は何をやってもサマになるという事か。
 「これが、アタシたちのいるプレザント島」
 ティナが示したモニターに、衛星写真と思われる写真が4枚。倍率違いで表示される。この時、僕は、目覚めてから一番の衝撃を受けた。島を中心に映し出される4枚の写真はすべて、
 「海が赤い!?」
 そう。海が、まるでロゼワインのように赤かったのだ。何だコレは。僕は本当に異世界にでも飛ばされたのか。
 「そうね。キョースケはそれも知らない事になるのね。四年前、オブスキュアの存在が知られる切っ掛けになったのは、海が真っ赤に染まり始めた事よ」
 ティナが過去の衛星映像をタイムラプスで表示する。速度倍率は不明だが、世界中の海は恐るべき速度で赤に染まった。一点からではなく、複数の場所から。
 安いSFじゃあるまいし、とは言わなかったが、苦笑いが漏れる。これは僕の知ってる世界じゃない。
 ティナは、その原因を調べている最中に、まずメキシコシティが消滅したと言う。
 「海が赤く染まった原因はわからないわ。生態系に異常は見られない。ただ、考えられている原因はただひとつ。オブスキュアが海面ないしは海中に現れた形跡、とされてるわ」
 地球上の海の面積は70%だ。全くの無作為に、そのオブスキュアが現れたとするなら、70%は海に沈んで消えた。その残骸が海を赤く染めた、というものだ。海水の成分はまるで変わっていない。ただ、海が赤く染まっただけだ。無論、我々では検知できない何かの成分が影響しているのだろう、とは考えられる。それがオブスキュアの血の色なのか何かはわからない。
 「オブスキュアは、ある種の意図を持っていると、我々は考えているわ。最初はこの世界を侵攻しようと大量にオブスキュアを投入した。けれど、海の存在そのものを知らなかった。それでほとんどの勢力を失ったんじゃないかしら。憶測だけれど」
 いよいよもって、オブスキュアの存在が謎である。我々人類が月へ移住しようと何十万人を送り込んだ。生身のまま。そういう事だ。とんでもない馬鹿なのか。それとも、我々の考える思考とは全く別の何かなのか。
 「そして、オブスキュアはようやく陸地に目的を見出した」
 そうだ。人類とオブスキュアは交戦状態にある。自然災害なら意図も目的もない。
 「目的?」
 「消滅よ」
 「連中はどんな兵器を有しているんだ?」

 僕の質問に、ティナは黙ってキーボードを撫でる。
 「本当に一番最初に消失したのは南アフリカのケニアだったんだけど、こっちは情報が遅かった。先に認識されたのはメキシコシティだったわ」
 モニターに映し出されたのは、とんでもなく巨大な「ブランク」だった。わかりやすく言えば、衛星写真が街を映し出したとしよう。その写真の中に、何らかの事情で「表示されていない真っ黒なエリア」がある。それがオブスキュアの仕業だと言うのか。塗り潰されたのか、消されたのか、そもそもデータが読み込めていないのか。不自然な黒い空間。
 「これは、、、?」
 「オブスキュアに侵食されたメキシコシティ。こっちは、元ナウル共和国ヤレン。こっちがナイロビ」
 「衛星写真で盗み撮りはプライバシーの侵害だ、って訳でもなさそうだけど」

 都市そのものが黒く塗り潰されている。
 「軽口が叩けるのは余裕? それともまだ信じてない?」
 ティナがキーに触れると、別の写真と映像が映し出される。
 「何だこれは、、、?」
 地上から、その「黒い空間」を撮影したものであろう。光を99.9%以上も吸収する物質があるが、これは完全に立体感が失われている。陽光の下にあっても黒。100%だ。少なくとも映像の上では完全な黒。その黒い壁が、何キロにも渡って、広がっている。
 比較対象が側にないのでわからないが、高さはビルを飲み込む程ある。
 「美しいまでの立方体。アタシたちは、便宜上"ヌルキューブ"と呼んではいるけど、まるでわからない。何ひとつわからない。オブスキュアに侵食されたエリアは、理解不可能の暗闇になる。オブスキュアの次元と繋がってるって見方が強いけど、アタシの見解は違う」
 オブスキュアがヌルキューブから現れたという報告は一件もないらしい。
 「一番わかりやすく言えば、オブスキュアの排泄物のようなものが、ヌルキューブだと考えてるわ」
 発生したヌルキューブ内に存在していたものは全て消失する。そして、ヌルキューブに触れたものも消失するらしい。例えば、高さは約50メートルらしいが、100メートルの建築物の下にヌルキューブが発生した場合、キューブ内の50メートルは消失し、その上にあった建築物も、だるま落としの要領で消失する。
 ヌルキューブの正体も不明だ。初めての発生から四年。消えたり、風化したりする例は報告されていない。光も音も通さない。触れたものは綺麗さっぱり消えてなくなる。ゼロ。ゼロの立方体。それがヌルキューブ。
 例えば、人間の指がコレに触れると、触れた指先が生ハムスライサーで切断されたように綺麗に消えてなくなる。指先だけならいいが、半身が呑まれたら、半身が消滅する。
 デマを除いて、キューブに呑まれて帰って来た人間はいない。あらゆる兵器を撃ち込んだが、何の効果も得られなかった。
 全く理解は追いつかない。追いつかないが、SF映画みたいに「正体不明のエイリアンが攻めてきた」と脳味噌を切り替えるしかないのだと覚悟を決める。
 「理解に苦しむが、オブスキュアは街を襲い、このヌルキューブで世界を埋め尽くそうとしてる?」
 「わからない。ただ、結果から原因を推測する限り、オブスキュアに人間の常識なんて通じないと思った方が良さそうね」

 ひょっとすると、50億年に一度発生する自然災害なのかも知れない。宇宙規模なら、頻繁に起きている出来事なのかも知れない。ビッグバンで宇宙が誕生した、と言うが、質量保存の法則はどうなる? 何故、無から有が発生したのか。ひょっとすると、ビッグバンはオブスキュアのいる世界から起きたかも知れない。あるいは、もっと他の次元から。人類がそれを観測出来ないとしても、人類にできる事は、観測できる範囲内でそれを科学的に判断する事だけ。
 だが、オブスキュアに関する情報が少な過ぎる。観測するにしても、観測する手段を見つけられない状態なのだ。だとするならば。
 「法則性はあるのか?」
 「いい質問ね。ハッキリ言えば、法則性はないわ。けれど、最初に言ったように、連中は意図を持って目的を見出した」
 「消滅か」
 「ええ。理由はさっぱりわからないけれど、ウミガメが産卵のために砂浜に来るように、ヒマワリが太陽の方を向くように、オブスキュアはこの世界を侵食する事をプログラムされていた」

 誰が教えた訳でもなく、ただ、そうプログラムされていた。そう考えるのが自然だと言うのが超天才児の出した答えなら、救いがなさすぎる。
 「それで夥しい数で攻めてきた」
 「ところが、海面ないしは海中だと、どうやらオブスキュアは活動できない。だから、学習し、陸に現れるようになった」
 「わからんな」
 「あくまで推論よ。海面でオブスキュアを観測できた例はほとんどないわ。今でも海に現れては消えているのかも知れない」
 「これだけやられてるのに、何処から来てるのかもわからないのか」

 相手が異次元生物なら仕方ないかも知れないが、四年もやられて、何の成果もあげられていないのだろうか。
 「天才のアタシが調べまくっても、まだ何もわからないのが現状。突然現れた、消えたって報告はあるけど、来た場所、帰って行く所も目撃されてない」
 「つまり、異次元の世界から突然現れて、突然消える、と」
 「突然消えることはほぼないわ。オブスキュアは基本的に、都市を侵食する。彼らが一定数、一定エリアに居座ると、突然ヌルキューブが発生する。そうしていくつもの都市が消滅したわ」

 オブスキュアは何故か都市を狙う傾向にある。狙いがあるのか、それとも人間の多さや電気エネルギーに吸い寄せられるのか。そして、その傾向は次第に強まっているらしい。
 「オブスキュア自体は攻撃してこないのか?」
 人ないしは都市の何かを目標としているとして、今のところ、オブスキュア自体よりも怖いのは、副産物であるヌルキューブだ。
 「ええ。こちらが攻撃を仕掛けない限り、原則的に攻撃はして来ない。ただし、居座られるとそのエリアはヌルキューブで一瞬にして消滅するから、攻撃されてるも同然ね」
 ただし、オブスキュアに攻撃を仕掛けると反撃される。一応、物理攻撃のみで、光線を撃ったりはしないらしい。ヌルキューブのような理不尽はないらしいのは救いだろう。ただ、突然発生し、突然消滅させられるのでは対処が困難なのも事実だ。
 「居座る時間は?」
 「エリアの広さと数によるけれど、だいたい5時間で50立方メートルのヌルキューブが発生。ヌルキューブの範囲内にいたものは全て消失するわ」

 20体のオブスキュアが現れれば、わずか5時間で、小さな町が消滅する。
 「有効な武器は?」
 「記憶がなくってもキョースケね。飲み込みが早くて助かるわ。基本的に通じない兵器はないと推測されているのよ。報告では60mm以上の砲撃を直撃させれば一撃で倒せるみたい」
 「現代兵器が通じないって言われるのかと思ったよ」

 安いSFみたいな展開でなかった事は救いだ。だが、それならば四年の間に、人類はみすみすとオブスキュアの侵攻を許すだろうか。
 「でも」
 「やっぱりか」

 ビンゴ。ただし、当たって欲しくはないビンゴだ。
 「ええ。最大の難点は、不可視。オブスキュアの姿が見えないってこと」
 ティナの言葉は想像していない方向から来た。 見えない敵が居座ったら、それで都市が消滅するなんて、手の打ちようがない。
 「見えない? さっき、出現や消失が確認されてるって」
 「それは嘘じゃないわ。けど、オブスキュアの姿が見えないのもホントよ。赤外線、サーモグラフィー、音波、電波、あらゆるレーダーや計測器を駆使しても、彼らの姿は目視できない。例外は鳥類」
 「鳥類?」
 「全くその理由は判明していないけど、オブスキュアが半径3キロほどに近寄ると、鳥は一斉に逃げ出したり、暴れ出したりする」
 「炭鉱のカナリアか」

 鉱山で一酸化炭素中毒を避ける警報機として、カナリアが使われた。人間より先に影響を受けるカナリアが倒れれば、そこに一酸化炭素が発生している。無色無臭な毒ガスの検知器としては有用だ。それと似た現象が起きると言うのか。
 「記憶喪失の割に博識ね。葡萄畑の薔薇でもいいけど、鳥類が異常反応をしたら危険信号。それは事実だけど、他の動物は反応しないし、反応する理由も不明」
 不明だらけだ。だが、どうにか戦ってこれたからこそ、人類は滅亡していないはずだ。
 「だけど、見える条件はあるんだろう?」
 「そうね。正確には見える人間がいる、というべきなんだけど」

 ティナが勿体つけた言い方をする。
 「見える人間? それはひょっとして、、、」

 「ご明察。アタシやキョースケがそれに該当するわ。だからアタシたちはオブスキュア"不明瞭"に対してサーテンティ(確かなもの)と呼ばれてる」
 それが全てかはわからないが、二佐なんて役職が若造に充てがわれるのはそれが理由か。どうせ、見える人間が何故見えるのか、その理由も鳥類と同じく不明なのだろう。それは聞くまでもなく想像に難くない。
 「その、サーテンティ以外に奴らを見る方法は?」
 「ない訳ではないけど、ほとんどないわ」

 ティナはサーテンティについての質問が来なかった事を不思議に思ったのか、少しだけ意外そうな顔を見せて、再びモニターに向き直った。
 「ない訳じゃないんだろ?」
 「ペイント弾は有効よ。まず当てられれば、だけど。あと、ペイント弾の効果時間は約15秒。理屈はわからないけど、マーカーが消えるのよ」

 またも「わからない」だ。理屈が通じないとはこれほどに厄介なのか。
 「発信機を撃ち込む事は?」
 「有効。ただし、効果時間は40秒」
 「ペイント弾よりはマシか。発煙筒や信号弾のような物は?」

  要するに「そこにいる」事さえわかれば、見えない事は脅威ではなくなる。
 「同様ね。オブスキュアに一定時間以上触れると、異次元にでも飛ばされる、と考えるのがスジね」
 ヌルキューブのような何かの力が働いているって事か。だが、触れたら最後のヌルキューブとは違って、オブスキュアにはまだ対抗できるかも知れない。
 「他に方法は?」
 「放水車。水を浴びせ続ければ、"そこにいる"事はわかるわ」

 なるほど。水が透過しなきゃ、そこにいる訳だ。しかしつまりは、弾幕を張ってさえしまえば、倒す事は可能。打つ手のないヌルキューブよりはマシだ。
 「中途半端にこっちの物理は通じるのか」
 「見えないって事は脅威よ。いる事が確認されれば、ヌルキューブの侵食を黙って見過ごすか、必死の抵抗をするしかない」
 「待て。つまり絨毯爆撃なら有効か?」

 複数、多数のオブスキュアが確認できたら、弾幕どころか絨毯爆撃で倒せる道理だ。そして、それはつまり、
 「もちろん有効よ。ただし、自分達の街を焦土にする事になるわ。そうやって消えた都市がいくつあるか、、、」
 ヌルキューブは初めての発生からまるで変わらないまま存在している。このまま消えないかも知れない。国土を使用不可能なレベルで完全に消失させられるよりは、焼け野原にした方が、まだ再建の可能性がある訳だが、最悪の決断としか言いようがない。
 だがもし、オブスキュアが世界をヌルキューブで埋め尽くしたらどうなる? それを観測する人類は死滅しているだろうが、オブスキュア自身も行き場をなくすのではないか。
 「一体、オブスキュアは何をしようとしている?」
 「酵母は糖を餌に、自分達の王国を作ろうとアルコールを生み出す。けれど、糖を食い尽くすか、アルコール濃度が高まれば、酵母は自滅するしかない。それでも、そうするようにプログラムされている」
 「オブスキュアもそんなモンだと」

 確かに、人類だって緩やかではあっても資源を食い尽くして自滅の道に向かっていると、ずいぶん昔から言われてきた。酵母やオブスキュアとは生きる速度が違うだけなのかも知れない。
 「ええ。どこから来たのかもわからない。何をしようとしているのかも。彼らの資源や兵力は有限なのか無尽蔵なのかも。アタシたちの抵抗で連中の兵力を削れてるのか、それとも、こっちが削られてるだけなのか」
 わからない。わからないだらけだ。だが、わからなくても、僕はそれをどうにかしなきゃならない立場らしい。そう。状況がどんなであっても、『やれる事をやるしかない』
 思考に嫌な感触がある。『やれる事をやるしかない』 さっきもあった既視感。僕の過去に関係があるのか。いいや。今はそれより、記憶を戻すか、戻らないなら対応するしかない。
 「つまり、どうにかして奴らの根本を見つけて倒さなきゃ、いずれはジリ貧」
 発生しているのかどうかもわからないが、発生源を叩く。こっちの世界に来られなくする。なんだっていい。やれる事をやるしかないのだから。
 「そうね。そして手掛かりはほぼゼロ」
 「なかなか絶望的だね」

 苦笑いとともに、次第にざわめいていた司令室が明らかに騒がしくなる。この空気は、知っている。記憶はないけれど、知っているのだ。そう。始まる。残念ながら、僕の肉体はこのピリピリした空気が嫌いではないらしい。片唇の端に浮かんだ苦笑が、両方に伝染した。
 「それはそうとして。モニター繋いで。通信は良好? 始まるわよ、キョースケ」
 「攻めてきたのか」

 中央の巨大なモニターは、まだ北半球の地図と赤い海を写している。だが、それは一瞬にして別の画像に切り替わった。職員たちが慌ただしく動いている。
 「攻めてきてるのよ、常に。アタシたちはそれを迎撃するためのスペシャルチームD.o.n.u.t。そして、あなたはその実働部隊のチーフよ。宇賀持キョースケ」
 今の僕に何ができるのかはわからない。だが、逃げ出せる状況ではないらしい。
 「接敵まで5分を切りました!」
 オペレーターの声が、騒がしい司令室に轟いた。


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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。