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最強パーティを追放された超絶スキル持ち勇者、異世界召喚される


 世界は闇に包まれていた。魔王ブラックモアの進軍は、もはや誰にも止められない。
 勝ち目など皆無。いや、絶無。それが我々人類の置かれた状況だった。
 これを覆せるかどうかはわからないが、万策が尽きた訳ではない。たったひとつだけ、残された手がある。
 神官である僕に課せられた任務は、その一縷の望みだ。
 「異世界から伝説の勇者を召喚する」
 僕、いや、私は戦死した大神官の後を継ぐことになった未熟者である。偉大なる先輩方が神官兵として戦地に赴くも、ことごとく魔王軍に敗北し、棚ぼた的に大神官の地位を引き継ぐことになったが、そこに喜びなどない。
 あるのはただ、悲しみと屈辱と不安。いや、絶望とも言える。
 しかし、私は王や教徒、国民、人類のために絶望などしている暇はない。
 だからこそ、何としても異世界への扉を開いて、伝説の勇者を召喚しなければならないのだ。
 私の持つ全魔力を注いで、光の魔法陣を作る。
 どうか、成功してくれ。
 私は神に祈った。そして、祈りは通じたのだ。
 魔法陣の中から、光と共に人らしきシルエットが浮かび上がる。
 現れたのだ。異世界から、伝説の勇者が。私は涙で視界が滲むのを感じた。
 光が涙で滲んで、シルエットがぼやける。
 ぼやけているせいだろう。勇者のシルエットも妙にぼやけて見える。いや、違う。思っていたより少し、いや、少しばかり、ふくよかな体型だったのだ。年齢も決して若くはない。少なくとも私よりは随分と年上だ。
 しかし、その出で立ちは煌びやかで、神々しさを感じる。
 ウェーブのかかった長髪に、切れ長の眼。堂々とした王者の風格は本物だ。
 そして、リュート、いや、キタラに似た形をした武器を持っている。
 「何だ、ここは? 一体何が起きたんだ?」
 勇者の御声が聞こえる。突然召喚されたのだ、無理もない。私はすぐさま勇者の前に跪いた。
 「伝説の勇者よ! 突然の召喚に驚かれた事でしょう。我が国は、いえ、我が世界は滅亡の危機に瀕しています! 何とぞ伝説の勇者の御力をお貸し頂きたくーーー」
 私の言葉を遮るようにして、伝説の勇者は言った。
 「事情はサッパリわからないが、そうだな。悪くない。俺を伝説の勇者と呼ぶのは悪くない響きだと思わないか? まぁ、ちょっと古臭さが抜けないと言うか、ディオっぽいのは気に入らないが」
 勇者は、力と自信に満ちた声で笑う。
 「我々を御救いください、勇者どの!」
 私は更にこうべを垂れた。
 「心配するな。乞われれば期待に応えるのが俺だ。とりあえず訊きたい事が山ほどある。まずは、そうだな。お前の名前だ」
 勇者は暖かい声で私に問うた。
 「マルムと申します。勇者どの」

 「マルムか。『銀』と言う意味だな。良い名前だ。俺のファミリーネームにも銀が付いている。俺の場合はただの銀じゃなく、銀の鉱石だがな。俺の先祖が銀の鉱山を発見した事に由来する。俺の名前は、

 イングヴェイ。


 イングヴェイ・マルムスティーンだ」

 勇者はイングヴェイと名乗った。
 異世界に来たばかりで、色々と尋ねられる事かと思ったが、むしろ勇者は私を気遣ってか、色々と御自分についてのお話をして下さった。
 先祖が貴族である事や、元の世界でも伝説的な人物であらせられる事や、伝説的な勇者パーティを結成されるも、魂の友と呼ぶべき人物から、何度も裏切りにあった事などを話された。
 謙虚にも、パーティのメンバーを全員解雇したと仰られているが、そのとんでもない才能に嫉妬した仲間が追放したであろう事は想像に難くない。
 そして、勇者は異世界に置いてきた愛馬「フェラーリ」(全身が真紅の鉄騎馬らしい)や、ご自身の持つ伝説の武器「フェンダー・ストラトキャスター」についても丁寧に説明して下さった。
 武器、いや、楽器と言うべきか。リュートにもキタラにも似たそれが、一体どんな力を秘めているのか、私にはわからない。
 残念な事に、伝説の武器「フェンダー・ストラトキャスター」の能力を最大限に引き出す魔法増幅器「マーシャル・アンプ」は召喚の際に失われてしまったようだ。
 これでは伝説の武器が真の力を発揮する事はできないと言う。
 だが、偶然にも我が国の大魔導士の一番弟子の名が、マーシャル・アンプだったのである。雷と音の魔法を得意とする男だ。これも何かの思し召しであろう。
 私は勇者とマーシャルを引き合わせた。
 マーシャルと勇者は一目会ったその時から意気投合し、勇者はマーシャルを「ソウル・メイト」と呼んだ。引き合わせて正解だった。
 その素晴らしき出会いが忘れさせてくれた束の間の不安を、魔王軍が吹き飛ばした。
 警笛が敵の襲来を知らせる。
 街が慌ただしくなるが、勇者は不機嫌そうな表情を隠さずに言った。
 「この不愉快なラッパを止めろ。ラッパなんだぞ、ただのラッパ。主役じゃないんだ」
 私は、勇者路の言葉の意味が飲み込めないまま、直ちに警笛の停止を命じたが、まさか勇者は兵を使わず魔王軍と戦おうと言うのか。
 勇者がマーシャルを従えて、街の中央広場に出る。
 そして、迫り来る魔王軍は、幸いな事に、単騎であった。
 だが、それを帳消しにするほど最悪な事に、その単騎は飛竜だったのだ。
 緑の鱗に覆われた、人間の5倍はあろう巨躯に、巨大な羽根。そして、三つ首。
 100匹の小鬼より、10体の大鬼よりも恐ろしい存在。
 よもや勇者の初陣が、魔王軍の中でも最悪の敵のひとつ、飛竜相手になろうとは。
 これまで幾つもの町や砦、城が飛竜に蹂躙された。
 バリスタ(大型弩砲)やカタパルト(大型投石機)を直撃させて、ようやく倒せるかどうかの怪物である。しかも、高速で飛行しているから当てる事さえ困難だ。
 しかし、勇者は臆する事なく、飛竜の視界に悠然と立ち塞がった。
 「マーシャル!」
 呼び声に答えるように、マーシャルが稲妻の魔法を放つ。
 飛竜ではなく、勇者イングヴェイに向けて。いや、彼の持つ伝説の武器「フェンダー・ストラトキャスター」に向けて。
 勇者の武器が閃くと同時に、ズギュウウウウウウゥン!と言う、耳慣れない音が解放される。

 デデデデーン、デデデデーン、デデデデン、デデデデンデデデデンズキャロキュズキャリキュ…

胸が高鳴る旋律を奏でる勇者。飛竜がその音に怯んで滞空する。勇者の武器は帯びた稲妻ではなく、音なのだろうか。
 「マーシャル!」
 更なる勇者の声に呼応し、マーシャルが音の魔法を掛けると、勇者の周囲の空間が歪む。
 勇者は、両手で抱えるようにして「フェンダー・ストラトキャスター」を爪弾いた。

 ティロティロリロピロピロピロリリーン…

 その瞬間、稲妻と音の魔法を掛けた筈の「フェンダー・ストラトキャスター」の先端から、

 炎が吹き出したのだ。

 勇者が左脚のスタンスを広く取って、低く構えて「フェンダー・ストラトキャスター」を振り回す。
 その軌道に、炎の残像が美しく弧を描いてついて行く。その神々しい姿に見惚れる間もなく、勇者は飛竜に向けて、「フェンダー・ストラトキャスター」を突き出した。

 放出される業火。

 その炎は瞬く間に飛竜を覆い尽くした。
 空中で踠きながら、黒い塊となって墜落する飛竜。
 伝説の勇者の力は本物だった。救世主が降臨したのだ。

 「伝説の勇者の御降臨だ! 皆の者! 讃えよ! イングヴェイ・マルムスティーン様だ!」

 私は声の限りに叫んだ。
 何処からともなく、勇者の名を呼ぶ民の声が聞こえ始める。

 「イングヴェイ!」「イングヴェイ!」「「イングヴェイ!」」

 次第にそれは多くなり、大きくなり、そして、重なっていった。

 「「「イングヴェイ! イングヴェイ! イングヴェイ! イングヴェイ!」」」

 彼が更にそれに答えるように、「フェンダー・ストラトキャスター」を高らかに掲げた。

これは、王者イングヴェイ・マルムスティーンが、異世界を救う伝説の始まりに過ぎない。
 イングヴェイ・マルムスティーン。彼の先祖は貴族。正確には伯爵である。

 次回「俺が好きなのは色情狂だ」



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 なお、この先には「あとがき」のようなものが書かれています。あと、何の話かわからない人に向けての解説があります。


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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。