剣と魔法と義体の世界
王の忠臣、義体騎士ジョンが乱心した。
ジョンは腕に内蔵した杖を王に向け、魔法の火球を撃つ。
近衛兵が王を庇う。火球が炸裂し彼の義体を粉砕する。
「様子が変だと思ったが、やはりか」
人が死ぬと魂が光と共に昇天するが、粉々となった兵からは何も出ない。
「お前たちは人形が化けた偽物か!」
王、大臣、兵士たち。魂なき視線がジョンを射抜く。
「本物の陛下はどこだ!」
ジョンは腰の剣を抜いて構える。
「私は本物だ」
「なら魔法を使ってみせろ!」
人と人形の明確な違い、それは魂の有無だ。そして、魔法は魂がなければ使えない。
騙せないと悟った偽王は氷より冷たく語った。
「王は殺した」
親友の死にジョンの心は折れかける。だが、心の炉に怒りの薪をくべて耐えた。
ジョンは吠えながら偽王に斬りかかる。
「我々に魂はない。だが」
偽王が加速する。
たった一度、瞬きした間に、偽王はジョンの背後に回って片腕を破壊した。
「自分の意志で生きている」
義体と結びついたジョンの魂に激痛が走る。
魔力は感じなかった。偽王の力は魔法ではない。
ジョンは振り向きながら剣を振るおうとする。
偽王は腕に内蔵した筒をジョンに向ける。
至近で榴弾が爆ぜた。ジョンは窓の外に吹き飛ばされ、城の裏手にある崖に落ちる。
大地に叩きつけられた義体は大破し、ジョンは指一本動かせなくなる。このまま放置されたら遠からず魂が昇天するだろう。あるいは城を乗っ取った人形どもがとどめを刺しに来るかもしれない。
「陛下、申し訳ありません」
ジョンは泣いた。だが義体は涙を流せない。
「諦めるのは早いぞ」
王がいた。服はボロボロで体のあちこちに擦り傷を作って血が滲んでいるが、それが本物の証となった。
「陛下!」
「まずはお前を直さないとな。俺たちで国を取り戻すぞ」
王はジョンを背負う。
「私を背負わせて申し訳ありません」
「友を背負えぬ者に、国など背負えないさ」
【続く】
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