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陸自の魔女

 現代の魔女は箒を使わない。浮力を生むマントと魔力噴射式スラスターで空を飛ぶ。

 陸上自衛隊の魔女科連隊に所属する一ノ瀬魔美は、富士樹海の上空で敵と対峙していた。

 満月を背にしたその敵は、古めかしい軍服に身を包んだ男だ。

 男には羊のような角と、蝙蝠のような翼があった。

「まさか、人型が現れるなんて」

「この世界を征服するには知恵なき魔物ではなく、悪魔が出撃すべきと判断された。誇るが良い。おまえたちは我々を本気にさせた」

 魔美は陸自の魔女として異世界の魔物を数多く駆除した。怪獣のようなドラゴンすら倒した。だが、目の前の悪魔は今までとは別格であると瞬時に悟る。

 直後、魔美は20式5.56mm小銃の引き金を引く。退魔弾が悪魔めがけて放たれるが、相手は避ける素振りすら見せない。魔なる存在に十分な殺傷力を持つはずの弾丸はあっけなく弾かれた。

「炎よ、太陽よ!」

 魔美は99式魔法杖に持ち替えて詠唱を開始する。

「万物に宿る数多の熱よ。我の元に集え! ほむらおおとりよ、暗闇に立ち向かう力を示せ!」

 杖から炎の鳥が発射される。直後、悪魔が短剣状の光を放った。

 炎の鳥が爆散する。魔美の魔法は迎撃された。

「無詠唱で魔法を!?」

「当然だ。悪魔の魔法は人間より2歩も3歩も先をゆく」

 悪魔が無言で魔法を連射する。握りこぶし大の火球が雨のように降り注いだ。銃は通用しない。魔法は即座に迎撃される。有効打を持たない魔美は防戦を強いられた。

 その時、銃声が轟いたかと思うと悪魔の右腕が吹っ飛んだ。

「純銀弾だと!? なんと強力な祝福か!」

 はっと魔美が後ろを振り向くと、月光で輝くほど純白な衣をまとう魔女がいた。右手に持つ銃はトンプソン・コンテンダー。ライフル弾を撃つための拳銃だ。

「あなたは?」

 魔美の問いに、白の魔女は首に下げた十字架を指しながら答える。

「教会公認の魔女よ」

【続く】

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