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番外編 キャラクタービルド

 オンラインゲームはフィールドやダンジョンで敵と戦うばかりではない。他のプレイヤーとの会話も楽しみの一つだ。
 その日、ピジョンブラッドとスティールフィストはギルドホームにある談話室で雑談をしていた。

「ところで、みんなは技能や魔法をどんなふうに取得しているの?」

 プラネットソーサラーオンラインを初めてはや1週間。今はレベル30で、レベルアップで手に入った強化ポイントをそろそろ使うつもりだ。
 そこで、他人の取得状況を聞いて参考にしようと思ったのだ。
 
「技能に関しては『格闘技』や『自動防御』など、プレイヤーの動きを補佐してくれる動作補正系技能、それからステータスが上昇する技能を優先して取得するのが主流だな」

 スティールフィストが答える。いつもアドバイスをくれてとても助かっている。
 
「とはいえ、自力で戦えるピジョンブラッドに動作補正系技能は関係ないから、ステータス強化技能の話からしよう」
 
 プレイヤーのステータスは以下の通りだ。
 
 HP
 MP
 身体能力
 知覚精度
 防御力
 魔力発生量
 魔法制御力
 MP回復速度(魔法発生量から消費魔力合計を引いた値)

「今の環境だと、どんなプレイスタイルでもまず魔力発生量を上げる『魔力活性呼吸法』を取っている。魔力発生量が多いほど強力な魔法装備を使え、MPがすぐに自動回復するからな」

 魔法装備はピジョンブラッドが使ってるマジックセーバーやパワードスーツのような装備だ。極めて強力な反面、魔力を必要とするので魔力発生量を超えて装備はできない。
 基本的にプレイヤーは魔法装備を使う。
 例えば、ハイカラのファイアリンドウ軽機関銃は弾丸に魔力を宿して威力を上げる機能を持つので魔力を消費する。権兵衛のローブも魔力を通すことで優れた防御性能を発揮する。
 一応、魔力消費しない装備もあるが、それらは無いよりはまし程度の性能でしか無い。
 そのため、攻撃魔法や回復魔法を使わないプレイスタイルであっても魔力発生量は極めて重要なのだ。

「それ以外の能力値はどんなプレイスタイルと関係しているの?」
「接近型だと身体能力が重要だな。これが高いほど素早く動け、敵に与える接近ダメージが上がる。だから俺は身体能力値を上げる『強靭』を取ってる」
「他の人はどんな感じ?」

 スティールフィストはまずハイカラの技能について答える。
 
「ハイカラさんは知覚精度を上げる『鷹の目』を取っている。知覚精度が高いと敵の残りHPが見えたり、敵が危険な攻撃をしてくる時に予兆が見えるようになるから、ダメージに無関係でもかなり大事さ」

 次は権兵衛だった。

「権兵衛さんは『魔法知識』を取って魔法制御力を強化している。魔法制御力が高ければ、魔法の効果は上がり、消費MPも軽減される」

 ピジョンブラッドは更に訪ねた。
 
「技能にはレベルがあるけど、最大のレベル10まで取ったほうが良いの?」
「いや、必ずしもそうじゃない」

 スティールフィストは理由を説明する。
 
「例えば剣と魔法両方で戦うなら、『強靭』と『魔法知識』が必要になるが、両方レベル10まで取ると、強化ポイントが足りなくなって他に必要な技能が取れないから、レベル5までにしておくことがある」
「広く万遍なくって場合もあるのね」
「あと、必要ないかもしれないが、生産系も説明しておこうか?」
「お願いするわ」
 
 必要なのはまず知る事だとピジョンブラッドは思っている。知って不都合が生じるわけでもない。

「例えばクラフターのステンレスは作る装備の性能に影響する『魔法科学』、『武器工学』、『防具工学』、『全盛時代知識』を全部レベル10まで取ってる。後は必要素材が少なくなる『コストダウン』と、後は自分の作ったアイテムを装備した時にその効果が上昇する『装備運用精通』を取っていると言っていたな」
「生産系でも戦いで有利になる技能もあるのね」

 しかしピジョンブラッドの言葉にスティールフィストは肩をすくめる。
 
「そうでもない。戦闘で活躍したかったら、始めから戦闘系を取ったほうが効率的だ。『装備運用精通』は、クラフターが多少はマシに戦えるようになるためのものでしか無いからな。実際、ステンレスは余った強化ポイントを消化するために取っただけと言っていた」
「なるほどね。次は魔法について聞きたいんだけど」
「わかった」

 スティールフィストは魔法について説明する。
 
「魔法は攻撃、回復、特殊の三種類があり、攻撃魔法は更に殺傷属性、高熱属性、電撃属性、冷凍属性の四つがある」
「細かく別れているのね」
「そのとおり。殺傷属性はMP消費が軽い。高熱属性は威力重視。電撃属性は誘導性能が高い。冷凍属性は氷で動きを封じる事ができる」
「使い分けるのが大変そう」
「いや、そうでもない。大抵の人は一つの属性に特化している。権兵衛さんは高熱属性、俺は電撃属性に特化している。特性の属性が通用しない敵は実装されてないからあまり気にしなくていい。」

 そこでピジョンブラッドは疑問が一つ浮かんだので尋ねる。
 
「そういえば風の魔法とか土の魔法とかは無いの? 子供の頃に見ていたアニメではそれらで戦う魔法使いがいたけど」
「そこはこのゲームの世界観設定ってやつだ。風の魔法で吹き飛ばすのも、土の魔法で操った岩をぶつけるのも、結局は運動エネルギーによる殺傷力だ。だったら銃を撃ったほうがシンプルかつ手軽なので廃れてしまった設定らしい」
「確かに、言われてみれば」

 より手軽な手段があればそちらの方が広く使われるのは当然だ。
 
「回復はその名の通り、HPと状態異常の回復だ。これに特化すれば、味方全員を一瞬で全回復することも出来るけど、回復特化型《ヒーラー》以外なら同じ効果を持つアイテムを使ったほうがいい」
「最後の特殊魔法というのは?」

 ピジョンブラッドは特殊の二文字だけで何の魔法か想像ができない。
 
「攻撃でも回復でもない魔法だ。いろんな効果がある。例えば遠くの物を引き寄せたり、あるいは敵を突き飛ばす念動の魔法、明かりを呼び出す光の魔法、敵の詳しい能力値を見られる看破の魔法なんかがある」
「なるほど、よくわかったわ」

 技能と魔法に関してだいぶ理解できた。
 
「教えてもらったことを踏まえて、取得する技能と魔法を考えてみる」

 それからピジョンブラッドはじっくりと考えた。なかなか悩ましい。
 専用アイテムを使えばいつでもリセットできるので、適当に取得しても取り戻しは効く。それでもしっかりと考えているのは、自分で最適解を探っていくこと自体が一つのゲームとして楽しいのだ。
 
「決まったわ」
「どういう構成にしたんだ?」

 スティールフィストにピジョンブラッドは自分のメニューデバイスを見せた。
 
●技能
『魔力活性呼吸法』レベル10:魔力発生量上昇。
『強靭』レベル10:身体能力上昇。
『免疫強化』レベル7:状態異常耐性上昇
『魔法返し』:敵の魔法に武器攻撃を当てた時、それを跳ね返す。
『スラスター運用最適化』:スラスターの消費MPを軽減。

●魔法
炎の魔法レベル1
念動の魔法レベル1

 レベルが存在する技能と魔法はレベル1に付き強化ポイントを1消費し、レベルが存在しないものは取得に3ポイント消費する。
 また、ピジョンブラッドは取得していないが、『剣術』や『格闘技』といったプレイヤーの動きを補助する動作補正系技能は5ポイントも要求される。
 強化ポイントはレベル1の時に5ポイント与えられ、以降はレベルアップするたびに1ポイント手に入る。ピジョンブラッドは今レベル30なので手持ちの強化ポイントは34だ。
 ピジョンブラッドは最優先で必要だと思った技能を取得し、余った強化ポイントは『免疫強化』と念動の魔法の取得に使った。
 炎の魔法はキャラを作った時に最初から取得されていたものだが、レベルアップする必要は感じなかったので初期値のままだ。
 
「お、『魔法返し』を取ったんだな」
「うん。剣で戦うから、遠くから魔法で攻撃された時の対策にね」
「魔法を跳ね返すタイミングはかなりシビアだが、ピジョンブラッドなら大丈夫だな」

 上級者のスティールフィストに太鼓判を押されて少し誇らしい気分になった。
 
「魔法の方は、最初から取得していた炎の魔法と念動の魔法だけにしたわ。私のプレイスタイルを考えればこれでいいと思う」
「そうだな。パワードスーツのスラスターを使えば、間合いは詰めやすいから無理して遠距離攻撃を使う必要はない。念動の魔法は使う場面が結構多いから、レベル1でも取っておくのは正解だ」

 スティールフィストは改めてピジョンブラッドの構成を見る。
 
「こうして見ると良い構成だな。動作補正系技能が必要ないから、高レベルのステータス強化技能を序盤から取れるのはかなり強い」

 実際、『魔力活性呼吸法』と『強靭』を最大のレベル10まで取ったおかげで、ピジョンブラッドの魔力発生量と身体能力はレベル30とは思えないほどの数値になっている。

「効果を確かめてみたいからどこかに行こうかしら」
「よし、なら一緒に行くか。ロングライフ海底研究所あたりがちょうどいいかな」
「どんなとこなの?」

 ピジョンブラッドはこれから行く場所について尋ねる。
 
「不老族による魔法と科学の研究所なんだが、倫理にとらわれないことをモットーにしているせいでマッドサイエンティストの巣窟になってる場所だ」

 実際に現地へ行ってみるとスティールフィストの言葉通りの場所であった。出現する敵はMエネミーなどではなく、倫理を無視したおぞましい研究によって怪物化した科学者や実験動物だった。
 出現する敵のレベルは40。ザコ敵でもピジョンブラッドより格上だが、それはレベルという数値のみでしか無い。
 レベル10まで『強靭』を取得し、なおかつパワードスーツの効果でピジョンブラッドの身体能力値は大幅に上昇している。加えて、動作補正系技能ではない本物の剣術を身につけているのだ。プログラムで動く敵キャラなど何ら脅威ではなかった。
 
「キシェー!!」

 体が半分タコとかした科学者マッドタコがタコの足を繰り出してくる。
 ピジョンブラッドは一瞬後退して攻撃を回避した後、すぐさま間合いを詰めて伸び切ったタコ足をまたたく間に切断し、とどめを刺す。
 
「すごいな。前にパーティー組んだ時よりさらに動けているじゃないか」
「ええ! 体がとても軽いわ」

 ピジョンブラッドは自分の体重を感じないほどの軽やかさが心地よかった。
 普通のプレイヤーならば適正レベルを超えるダンジョンは苦戦するが、ピジョンブラッドは軽々と攻略していった。
 一応、高レベルのスティールフィストもいるが。今回はピジョンブラッドが技能を取得した効果を確かめるためなので、あくまでサポートに徹している。
 普通ならば最深部まで1時間近くかかるはずのダンジョンを、ピジョンブラッドは半分の30分で到達した。

「いよいよボス戦ね」
「今のピジョンブラッドならアドバイスなんか無くても、初見で倒せるはずさ」

 スティールフィストが確信のこもった声で言う。油断して情けない姿を見せられないとピジョンブラッドは気を引き締めた。
 進んだ先は円形の広間で、壁は巨大な水槽となっていた。
 待ち構えていたボスは海洋生物のおぞましい集合体であった。15メートルを超える巨大なサメの体をベースにし、そこからタコの足やカニのハサミが生えている。
 これこそがこのダンジョンのボス、ユニゾンシャークだ。
 ユニゾンシャークはタコ足を使って、水槽にいるマグロを掴むとそれを頭からむしゃむしゃと食べた。
 
「ああ、マグロは良い。DHAが脳細胞にしみ渡る。新しい研究のアイデアが浮かびそうだ」

 ユニゾンシャークから人語が放たれる。元は科学者だったのだ!
 
「しかも人体実験に使えそうな魔法使いがノコノコとやってきたではないか。今日は運がいい」

 サメの顔がおぞましい笑みを浮かべる。
 戦闘開始だ。
 
「無敵のサメとなった私の前にひれ伏せ!」

 ユニゾンシャークが巨大なタコ足を振るう。
 巨大な物体を高速で叩きつける。シンプルだが強力な攻撃をピジョンブラッドは軽やかに回避した。
 
「次はコイツを喰らえ!」

 ユニゾンシャークのカニのハサミに火球が発生する。
 露骨な攻撃の予兆!
 ハサミから炎の魔法:火球の型が発射される。
 だがピジョンブラッドは避けようとせず、その場に留まる。
 
「やぁ!」

 マジックセーバーを火球に叩きつける。『魔法返し』の技能の効果で魔法は跳ね返され、ユニゾンシャークは自分の攻撃でダメージを受けた。
 
「オゴー!」

 顔面に火球を受け、よろめくユニゾンシャーク。
 絶好のチャンスだ!
 ピジョンブラッドは地面を蹴ると同時に最大出力でスラスターを噴射し、一瞬でユニゾンシャークの頭部に肉薄する。
 おぞましきサメの怪物と目が合う。
 ユニゾンシャークの脳天にマジックセーバーが突き刺さった!
 
「き、消える! 私の命が、叡智が! オゴゴー!」

 ズシンと重い音を立ててユニゾンシャークの巨体が倒れた。
 適正レベルを大きく超えるはずのボスを相手に、ピジョンブラッドはいともたやすく勝利を手にしたのだ。
 
「やったな。もうこの程度の敵じゃ相手にもならないみたいだ」

 スティールフィストの言う通り、ここの敵はボスを含めてレベルが高いだけで、最終的な戦闘力についてピジョンブラッドは強敵とは感じられなかった。ゲームとして僅かな物足りなさすら感じる。
 
「この様子じゃ、ダンジョンに潜るよりもフィールド上にいる高レベルの敵を狩ったほうが、早くレベルが上がりそうだな」
「エーケンの近くにいたコンボウオオザルみたいな?」

 最初の街であるセーフティ・エーケン周囲の敵レベルは高くても5から7程度に対し、コンボウオオザルだけはレベル50もあった。
 
「そうだ。どこのフィールドにも適正レベルを大きく超える敵キャラが配置される。ちょうどこのダンジョンの近くにもいるから、帰りに倒していこう」
「そうしましょ」

 ボス部屋にあったアイテムボックスの中身を回収した後、ピジョンブラッドとスティールフィストは帰還アイテムを使ってダンジョンから脱出する。
 それからピジョンブラッドは自分より遥かに格上の敵を次々と撃破し、通常プレイならば半年はかかるところを、1ヶ月未満でレベル60以上にまで上げたのだった。
 

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