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民具のデータベース化と活用について(試案)

先日、「空き家の文化財」に関するシンポジウムに参加した。空き家に放置された民具の保存活用について、それが使われていた環境やどのように使われていたかなど聞き取りの重要性が指摘されていた。しかし、実際には空き家になっている段階で、その記憶を語る住人は既に居なくなっている可能性が多い。そういう点で言えば、市町村の小さな資料館に集められ、放置された民具に通じるものがあると考えた。

昨年、M町の資料館から県の担当者に連絡があり、そこから民具の件で私の方に声がかかり、民具のデータベースの相談に行ったことがある。事前には200点ほどと聞いていたが、現場に着いてみると、教室4つ分以上ありそうな大きな空間が資料館として使用され、1000点以上はあるかと思われる資料が、収蔵庫の無い、収蔵展示の状態で、歴史・民俗が混在していた。入口付近には、紙資料がガラス展示ケースに入れてあり、壁面には資料が固定してあった。

5人ほどの臨時職員だけが集まっており、正規職員は不在だった。誰も名刺を持っていなかったため、その後、こちらから連絡はできていない。

資料番号は付されており、それを管理するエクセルデータはあるようだったが、それをベースにデータベースができないかと考えているとのことであった。データベースの為には、写真撮影が必要だが、そのデータベースの活用の目的によって、写真の精度が変わるので、目的を確認した。

すると、その町では、役場全体のインターネット環境が進んでおらず、アーカイブ公開を前提には考えられないとのことであった。更に、当然ではあるが、予算は全くないとのこと。

いろいろ世間話をしながら、民具の参考文献が知りたいということだったので、民具事典を何冊か紹介したが、おそらくその町の資料についてピンポイントで紹介される文献は無く、地元の人々の方が詳しいはずと伝えた。

いろいろと情報交換した結果、次のような計画を立てることとした。

①歴史資料については同行した歴史担当に相談し、近世期の歌舞伎台本については、表紙の写真を私に送ってもらえれば知り合いの専門家にその重要性を聞いてみる。
②歴史資料と民俗資料が混在しているので、歴史資料コーナーを決めて、そこに歴史資料を集めていく。
③Excelデータを確認し、漏れがないか確認しながら、メモ的に撮影していく。とりあえず、固定されているものはその位置で可能な範囲で、その資料をクローズアップして撮影する。
④資料の説明は時間がかかるし、知識がないとなかなか難しい。

おおよそ、データベース化の作業としては、上記のことが可能だが、時間がかかり、予算がなければできることは限られてくる。さらにそのデータベース化の重要性はなかなか役場には理解されないため、徒労感にさいなまれる可能性があるのではないかと感じた。
そこで上記の作業で日常できることを進めつつ、聞き取りを行うことが重要と提案した。

民具の聞き取りをデータベース化する

・週に一回、あるいは月に一度、定期的に民具について一般の方々から説明を聞く会を行う。民具を使ったことがある方や使い方を聞いたことがある方など、その民具にまつわる情報を提供してもらう。
・「昔の道具について教えて下さい!」のような企画で、毎回、いくつか民具を決めて、それを事前に写真などで周知し、それについて詳しい人に集まってもらう。福祉施設などにも協力を依頼する。
・民具に付随する思い出話などを語ってもらう。あるいは後日文章に書いてもらう。
・その様子は一般公開し、来場者にみてもらう。その際にクローズアップの映像を場内のプロジェクターで拡大して見られるようにする。
・その民具の説明を映像と写真で記録する。その際に、写真撮影している様子も含めて、記録し、作業の途中でも、写真撮影のための中断をお願いする。写真と映像を弊校に進めるためにはやむを得ない。
・映像について、民具の使っている様子が分かるように撮影を心がける。
・事前に、撮影した写真、映像の公開の許可を取り、ライブ中継、編集後の映像アップロード、アーカイブなどとして活用する。

こうした活動で下記のような効果が期待できる。
①民具の理解を深め、その重要性、収集することの重要性を周知することができる。
②聞き取りによる高齢者への回想法的効果が期待できる。
③民具のみならず、それに付随する個人的な思い出、地域情報を収集することができる。

以上の作業を定期的に実施することで、役場の理解を取り付け、データベース化の予算を検討して貰う可能性が出てくるのではないかという提案を行った。

シンポジウムでもそうだったが、予算のある組織にとっては、通常、データベース構築にまず取りかかるが、予算のない組織では、なかなかデータベース構築には理解が得られない。

それであれば、逆にデータベース構築は後回しにして、まずは民具や歴史資料の重要性と、利用価値があることを周知することが先決ではないかと考えた次第である。

上記のような活動は、①福祉、②生涯教育、③自治会・公民館活動、④学校教育(特に小学4年生の暮らしの道具)など分野は多岐にわたる。そのなかから分割でも予算を持ち寄り、分割してデータベース化を図る。

そう遠くない時期にその町役場にもインターネット環境が整うことがあるだろうから、その時期までは町内でのデータ活用に専念し、その活動のなかで収集した情報を、満を持して、公開活用するという計画を夢想してみた。

上記に記したことはM町での議論を踏まえ、後日、考えたことであり、当日、担当者に説明してはいない。未だ、その方々からは連絡がないので伝えられていない。シンポジウムの帰途、つらつら考えてきたことをメモ書きしておく。

※写真は、都農町の山本健治さんから釣り針の作り方を教えて頂いた際の写真。宮崎県総合博物館の常設展示室リニューアルの際に、海の民具を収集した際に、釣り針の製作道具を寄贈して頂く前に再現していただき、その様子を映像と写真で記録し、展示に活用した。25年前のレーザーディスク映像機器が現在でも使用されているため、画質が劣化している。miniDVをデジタル化し、youtubeで限定公開し、そのURLのQRコードをキャプションに貼れば、お金を掛けずに、きれいな映像を来館者に見てもらえるのだが・・・。

専任の学芸員のいない博物館・資料館だけでなく、もっと市民に頼る活動をすべきかと。解らないので教えて下さいという姿勢は、民俗調査でも重要だと教えられましたし、それが有効だと実感しています。丁度、こんな記事を見つけました。

何所でも可能なこうした活動が各地で頻繁に行われないのでしょうか?ある程度システム化するのが良いのでしょうか?

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