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【ショートショート】        映画と車が紡ぐ世界 chapter3

セント・エルモス・ファイアー ~Zeroクラウン200系 2011年式~
St. Elmo's Fire ~Zero CROWN 2011~

200系Zeroクラウンタクシーは、今夜もお気に入りの場所いた
日本の三大怨霊といわれる首塚前
都会の中心にありながら 
千鳥足のサラリーマンは通らない 静かな場所
特に今夜は霧雨が降る 
人の姿もほとんどない
タクシードライバーは スタバのキャラメルマキアートでカフェブレイク DVDのスィッチを押した

スカイウォーカーがラーズ夫妻を失い 
タトゥイーンの 二つの夕日が沈むとき・・・
「いいですか?」
撫子色のトレンチコートをまとった女性が 
傘もささずに佇んでいた
肩まで伸びるストレートの髪は 微雨で白いベールに覆われている
そして ウィンドウ越しにもわかるほど 涙いっぱいの瞳は 
街の灯がきれいに写っていた

「もちろんです どうぞ・・・」
スカイウォーカーが
フォースを身に付けるのは明日に伸びた

Zeroクラウンタクシーは 乗客の心に触れる映画を流す 
今宵の映画は・・・「セント・エルモス・ファイアー」

カノジョの行先は 
1854年にペリー提督が上陸した街 約一時間のロードショー

「別れたくない  約束したじゃない」
携帯電話の相手は 
カノジョが車に乗るとき 遠くから見ていた男か・・・
「奥さんとは別れるって・・・」

ドラマによくあるシーンは、現実世界でもよくあることだ・・・
「もう死にたい・・・」
そういってカノジョは携帯の電源を切った 
映画の中では恋につかれた 
ジュールズ(Demi Moore)が「死にたい」とつぶやいていた 

外は大工業地帯 
ハイテックな工場には天の川のように無数のライトが輝いていた

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「セントエルモの灯とは 船のマストにともる伝説の灯です」
ドライバーは 南風のように暖かく さりげない口調で語る

「悪天候の海で 
 進むべき道を失い途方に暮れた船乗りを 
 優しく導く光です
 この映画では 社会という外洋に出た主人公たちの苦悩を
 St. Elmo's Barに集う友人が お互いに灯となり癒しあうのです 
 あなたにも セントエルモの灯がともされますように」

タクシードライバーは 
車のエンジンを止め すべてのライトをOFFにした
マリンタワーの優しい灯りが カノジョの瞳に映っていた



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