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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter14

炎のランナー ~ スバル インプレッサ WRX GC8G 1999年式
Chariots of Fire ~ Subaru Impreza GC8G 1999 ~

”Cafe old movie”にて・・・
「僕は学生時代 短距離でインターハイの優勝候補だった・・・」

どこかで聞いたフレーズに振り返ると 
そこには1年前に別れた彼がいた
向かいには あの女性・・・
ROYAL CHIE のムートンジャケットを着た
ララ・クロフト似の風の女性が
カフェ・ショコラチーノをかき混ぜながら微笑んでいる
 
文学賞の最終候補に残ったこと・・・ 
野球でスカウトされたこと・・・ 
海でおぼれた人を助けたこと・・・
そしてラリー選手権で優勝寸前に エンジントラブルを起こしたこと etc・・・

スバル インプレッサWRX GC8G 1999

証明されたことのない
彼の武勇伝は 今もハートの思い出BOXに詰まっている
スティングのポスターの下に座る彼を見て 呟いた
「ビックマウス健在・・・」 

ユーモアたっぷりの彼は
私にとって ハリウッドスター以上に輝ける存在だった
おせっかいな友人は 彼のことを”ウルフボーイ”と呼んで 
騙されないようにと心配したが 私は幸せだった 
仮に話が嘘であっても 
私を喜ばせるための話なら それは愛の証だっと思った

でも・・・

あの雨の日 
仕事のはずの彼が ララと一緒にいるところを目撃した 
バーバリーチェックの折りたたみ傘の中で 
涙するララを彼は抱きしめていた
胸がきつくなる想いの中 その夜 私は言った
「雨・・・ひどかったけど大丈夫だった?・・・」 
「そうだったんだ・・・  今日は会議で缶詰だったからなぁ・・・」
ナルニアを永遠の冬に変えた
白魔女ジェイディスの魔法にかかったように 私は凍りついた
どうして隠すの・・・ 
その日から 彼のstoryに愛を感じることができなくなった
そして私たちは別れた

「インターハイ予選で 
 隣を走っていた選手の転倒に巻き込まれて ねん挫したんだ
 あの怪我さえなければ 今頃オリンピック選手さ」

彼の顔を見ながら アフレコした・・・
一字一句 私の記憶と同じフレーズだった  
カプチーノを半分残して店を出ると
外はいつの間にか霙(みぞれ)が降りはじめていた

傘を持っていなかった私は 
駐車場まで走るための勇気を充電していた
すると 後ろから 見覚えのあるバーバリーチェックが頭を覆った
「久しぶりだね・・・」
彼の無邪気な笑顔に 私は つい口を滑らせてしまった
「この傘をさしながら カノジョと歩いているところを見たわ」
1/4呼吸おいて 彼が言った
「君が笑わなくなった あの日のことだね・・・ 
 カノジョは ラリー中に死んだ友人のフィアンセだ
 僕はWRX、彼はランエボ 良きライバルであり 親友だった 
 彼をラリーの世界に引き込んだのは僕だった 
 だから彼の死は僕の責任なんだ・・・
 贖罪のため 毎年彼の命日に カノジョと一緒に泣くのさ・・・
 君には 僕の弱い部分を 知られたくなかった・・・」

Francois Klark - Always

これも嘘?・・・
半信半疑の私は 彼から目をそむけた・・・
その時! 目の前の国道を横切る 真っ赤な傘の女の子が見えた
向かいからは・・・トラック!!
 「あぶないっ!」
私は 思わず叫んだ
 
その時 風が流れた 
宙を舞ったバーバリーチェックが 
私の視線を横切り 再び視界が開ける刹那 
少女は 彼の腕の中にいた 
私の中で Chariots of Fireが流れた

初めから嘘なんてなかった 
100%等身大の彼を信じきれなかったのは 私だった
つぅと涙が頬をつたう
「よかったら 私がフルートで賞を取った話を聞いてくれる?」
彼が戻ってきたら そう言おうと思った


 

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