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じいちゃんの左手 その58

学校から帰ってくると 
縁側には いつも 群青色の市場帽子を斜にかぶった じいちゃんがいた 
右手にワンカップ 左手には “わかば” 
田んぼの案山子のように 僕の問いに 何でも答えてくれた じいちゃん
今思えば ほとんど 的外れだったけど 心は いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと あの縁側が 今もあったら・・・ 
きっとこんな 会話になっただろう・・・

『三名園』

今にも雨が降りそうな
どんよりした雲の下
蒸し暑さに負けず 今日も有線の黒電話から 元気にニュースが流れてきた

『いよいよ夏休みです 
 円安の今年は 日本を再発見する旅に出てはいかがでしょうか?
 それでは ここで問題です 日本の三名園を御存じですか?』

カブトムシと一緒に 
井戸水で キンキンに冷やしたスイカを頬張る じいちゃんと僕

「公園だったら・・・」

やっぱり 物知りのじいちゃん 黙ってない!!

「お主と よく遊びに行った ”駅前公園” じゃろう! 
 思い出が いっぱいで 今でも 楽しくなるしな!」

Pufaaaaaaaaaaaaa
と わかばを 一服したあと 再び じいちゃん  

「次に ”防災公園” だな
 盆踊り会場や 爺さんたちのゲートボール場 ばあさまたちのバザー会場 
 少年野球場 村中の人が集まる防災訓練 そして・・・煙草祭り
 この街の 六つの大きな行事に いつも使われる大事な公園じゃ!」

 あと もう一つは・・・ 
 五分に刈られた頭をポリポリしていた じいちゃん 

「そうだ! 
 あれだ! この間 街にはじめてできた 
 ファミリーレストランの横! 
 みんなが ”ふぁみれす公園” って 呼ぶ公園じゃな これで3つ!」

「へぇー 日本を代表する公園が 全部僕たちの街にあるんだね! 
 じいちゃん また勉強になったよ!」

感動する僕を見ながら 
仕事をやり切ったように ワンカップを飲み干す じいちゃん

そのとき・・・ 
天空を覆った分厚い雲の中で 雷鳴が響いた

「日本の三名園・・・
 後楽園の語源は 楽しみは後に・・・ 
 じいさんの言う 駅前公園も 昔の楽しい思い出がいっぱい
 
 兼六園の語源は 六つの異なった景観が楽しめる庭園・・・ 
 防災公園は 毎年六つの大きな催しで賑わっている

 最後に 偕楽園
 語源は みんなが集う公園という意味だが・・・
 なにより じいさんの街の『ふぁみれす公園』の横には 
 ” す・かいらーく ” が あるではないか!
 こりゃ 愉快! 愉快!」

Ho! Ho! Ho!

天界から二人を 眺める神様の笑い聲が 
地上の二人には ゴロ ゴロ ゴロ と 聴こえていた


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