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日比谷躁躁曲_2日め

フリーアドレスなど許されなかった

一の矢、二の矢、三のソワソワ。

代理店の6階に造られたフォトスタジオは、一言で言うとこの制作部の身の丈には合わないという感想だ。
社員は総勢36名、内制作部は5名の小所帯ながらも6階のフロアの半分を占めるスタジオを有していた。
役員は総勢8名、経理が4名、残りの19名は営業マンと言う絵に描いたような昭和の世界が広がっていた。

昭和の世界では、お金と仕事を持ってくる営業が幅を利かせている。クリエイティブをちまちまやっている我ら制作部とは犬猿の仲だった。
週に一度、朝礼が行われる。
全員で神棚と、今は引退された創業者のレリーフに一礼して始まる。神棚とレリーフは同じ高さに掲げられている。
そして全員で体操、ラジオ体操をしっかり第二までフルでやる徹底ぶり。

面接では気づかなかったあ!面接を行った会議室は普通だったからあ!
ワクワクが止まらない。営業マンたちは目をギラつかせながら朝会に突入。各部門の粗利や営業利益を社長と会長に報告する。
目に見えるお金を生み出しにくい制作部は針のむしろだ。予算の消化率や粗利目標と週ごとの目標数字について、チクチクとやられ続ける。
部門トップの東さんは不服そうに、部長の昴さんは常に平謝りしていた。

営業マンたちは、今時のフリーアドレス風にレイアウトされたオフィスの定位置に座り始める。始まる電話合戦、部下を叱責する者、会議室へ移動する者、新宿駅西口地下の雑踏が脳裏によぎった。
一見現代風にレイアウトされたオフィスだったが、細かなルールで縛られているように感じた。席も営業マン各々の荷物で占められている。

制作部の納品のため、昴さんに帯同する。
永田町のホームで乗り換えをするためエスカレーターへ歩いていると、向こうから階段を降りてきたおっちゃんが足を滑らしペタンと尻餅をついた。
おっちゃんは唐突に顔を押さえて涙を流し始めた。トリガーになってしまったんだね。
後から降りてきた30代くらいの男性が声をかける。

クライアント先の昴さんは、制作部内と打って変わって強気の部長を演じている。恰幅が良く、愛嬌の良い顔で声のでかい昴さんは取引先と仲が良いらしいと言葉の端端から伝わってくる。
彼が会社の関係先を教えようとここに連れ出してきてくれたことは理解していた。ありがたいと感じつつも、僕は永田町のおっちゃんが立ち上がった姿をずっと妄想していた。

>続く






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