むしろ積極的に「妥協」しろ..?! 事業企画者のための社内交渉術
自分もしくは自分のチームが考えた企画を実行に移す際には、社内の関係者と合意形成を行い、連携・協力関係をつくっていくことになります。
新商品・新規事業をはじめる際には、同じ社内で近しい事業を行っている場合や、自分たちが進める事業によって不利益を被る(可能性がある)部署、いわゆる社内競合にあたる事業を行っているケースなどがあり得ます。
また、オペレーション部門や管理部門の方々は、新たに業務が発生することを懸念し、積極的に賛成してくれないこともあります。
「自分は交渉が得意ではない、苦手だ、相手から反対意見を言われるのが苦痛だ」など、交渉に苦手意識がある方も多いと思います。私もその一人です。今回は、そんな人のための交渉についての「考え方」や「手法」をお伝えします。
ビジネス交渉の着地は5パターン
一般的にビジネス交渉の場面では、「コラボレーション(Win-Win)」「打ち負かし(Win-Lose)」「完全譲歩(Lose-Win)」「結論先延ばし(Lose-Lose)」「妥協(Lose-Loes)」の5つの着地があると言われています。
1、コラボレーション(Win-Win)
両者のメリットがある最大の交渉成果。
2、打ち負かし(Win-Lose)
自分の得たい成果を最大化し、相手の主張を最小限とする。その後の両者の関係性は悪くなる。
3、完全譲歩(lose-Win)
相手の主張を受けれることで関係性は(相手にとって)良好に保てるが、得たい成果には程遠い。
4、結論先延ばし(Lose-Lose)
交渉した結果結論が出ないことで、関係も成果も悪くなる。
5、妥協(Lose-Lose)
自分と相手双方が痛み分けを行い中間の成果を得る。
世間的には、図右上の「コラボレーション(Win-Win)」が最も良い着地で、
次に右下の「打ち負かし(Win-Lose)」が良いとされていますが、私は社内交渉でこの2つを目指すのは得策ではないと考える派です。
もちろんWin-Winは、成立すれば非常に美しいのですが、補完関係にある場合を除いてそもそも交渉をしなければいけない時点で利害関係が一致しない場合はほとんどですし、
Win-Winは合理的な経済条件とは別に信頼関係も必要ですので、交渉成立に時間がかかります。
よくあるのは、「Win-Winでいきましょう!」と一見最初は合意されたかにみえて、進めていくうちに相違点が発生し、Win-Winが掛け言葉になってしまいプロジェクトが暗転するパターンです。
思い当たる方多いのではないでしょうか...?
「打ち負かし」については、短期的にはWinかもしれませんが、ねじ伏せられた側は不満に思うのが世の常です。
ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)にあてはめると、不満に思った300人が一人当たり9〜10人が 不満情報を伝播させることで約3,000人が不満を知ることになる計算になってしまいます。
「打ち負かし」は社内に敵を量産させる行動です。
実績を上げ続ければよいですが、順調でない時に助けてもらえなくなってしまいます。。
交渉で大事なことその1:「最低限」を決める
交渉術というと、論理や心理術を使って相手より優位に立って説き伏せる術・テクニックとして語られがちですが、企画を推進する上で自分が最低限得たいもの、守りたいものが何かを決めて、それを実現していくことが大事です。
これを別の言葉では「留保価値(Reservation Value)」といいます。
たとえば、事業企画を他部署に話す場合、Win-Win(コラボレーション)の状態を「共同販売かつ売上目標を先方部署にも持ってもらう」だとすると、
留保価値=最低ラインは「反対意見はあっても企画をSTOPされないこと」となります。
交渉で大事なことその2:自分の相手からの人物評価(パーセプション)を理解する
「何を言うかではなく、誰が言うかだ」という言葉があるように、誰がその交渉をしているのかは重要なポイントです。
自分が相手にとってどのような人物として認識されているのかを把握しておきましょう。
測り方は、交渉相手から「○○さんの言うことであれば信じましょう!」と言ってもらえるかです。この○○さんなら、を貯めていくことを「信頼貯金」と言う人もいますね。
また、自分の「誰が」が交渉相手より低いと判断した場合は無理せず相手にとって影響力のある人に協力を得て交渉の際の選択肢、
「この企画は○○さん(部門長や経営陣など)から承認されている」という状態をつくっておきましょう。
この選択肢は、「BATNA(Best Altenative To a Negotiated Agreement)」と言われるものです。
交渉相手との交渉が決裂した時の対処策として事前に持っておく最も良い案で、交渉相手と話す前に選択肢を持っておくで交渉が骨太になります。
交渉で大事なことその3:どう伝えるのか
交渉というと肩肘が張りますが、打ち負かすのではなく自分が考えていることを上手く伝えると考えると、少し気が楽になりますね。
おすすめしたいのは「DESC法」です。
最初に、事実情報(Describe)を伝えましょう。
事業の概要や目的、現在の状況等、交渉相手がフラットに判断できる手助けとなる前提情報、事実情報をバイアスを入れずにきちんと伝えましょう。
次に、自分の気持ちを表現(Express/Explain)しましょう。
他部署に説明する例で言いますと、たとえば「この企画は自分が進めたいという気持ちももちろんあるが、会社のため、あるいは業界を良い方向に変えるためはこの事業が絶対に必要で、ぜひ一緒に推進したい!」という表現とかでしょうか。
アツい想いってやつですね。
そして、提案(Specify)です。
先ほどの例であれば、「自部署だけではなく交渉相手の部署も共同販売かつ売上目標を持ってもらう」が強気な提案、ハイボール提案ですね。
強気な提案は、誰の言うかが強固な場合やタイミングが良い場合には上手くいくことがありますが、打ち負かすことがゴールではないので、強気な提案を先に入れなきゃいけないというわけではありません。
最後に、上記では着地しない場合を想定して、次善の選択肢(Choose)をいくつか用意しておきます。次善の提案は自分が最低限得たい成果を得られるものになります。
たとえば、自部署の商品を他部署でも売って欲しい場合でいいますと
「B2B事業として外部の企業様にご迷惑をおかけしないように、この商品について問い合わせが入った際の連絡手段や双方の担当者、更新情報のアップデートの共有方法を構築しておきましょう」
が次善の提案となります。
積極的な妥協は、決して負け(Lose) ではない
事業企画者は、社内での勝ち負けにこだわってはいけません。
大切なことは企画を前に進めることです。
その意味では、最低限守りたい成果を意識しつつ、積極的な妥協は行ってよいと考えます。
それは、ネガティブな意味での妥協ではなく、ポジティブな妥協であり、Lose-Loseではなく、前進(Drive)です。
まとめ
事業企画では、その商品・事業を社外の利害関係者に説明しパートナーとなってもらうこと、お客様に説明して受注をもらうことももちろん大変ですが、社内で合意形成や協力関係を築くことも場合によっては難しいことが多いものです。
社内交渉に苦手意識がある人は、この交渉の「考え方」や「手法」を参考にしてみてください。
サポートもとても嬉しいですが、記事へのスキ(ハートマークをクリック)や、アカウントのフォローももっと嬉しいです。