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子どもが喜んだ親が楽しかった絵本 その3 『みんなおやすみ―アルメニアの子守歌より』ミラ・ギンズバーグ (著), ポール・ゼリンスキー (イラスト)/おおばみなこ (訳)   子供が寝ない、寝てくれないのときの、静かな、しかし切実な祈りのような絵本です。

みんなおやすみ―アルメニアの子守歌より 大型本 – 1985/7/1
ミラ・ギンズバーグ (著), ポール・ゼリンスキー (イラスト), & 1 その他

 僕がこの連載を始めたと思ったら、ツイッターで、若い、子育て真っ最中のお父さんなのかお母さんなのかが、実際に育児してみて、本当につらいことのひとつとして、「同じ絵本を何度も何度も何度も繰り返し読むこと」を挙げているツイートが1万以上のイイネをもらっていて、返信スレッドを見てみても、現役子育て中の人たちから共感する声が見られる。

 赤ちゃんって、ある時期、本当に夜中まで寝ないでぐずる、もうすこし大きくなると、なんか興奮して寝ない、みたいなことがあって、同じ絵本を5時間くらい読み続ける、なんていうことも、我が家の子育てでも、まあ、わりとよくあったのである。誇張じゃなく、お風呂に入っておっぱいのませて、夜の九時過ぎくらいにまず妻が添い寝しながら絵本を読んで寝かしつける、というのを始めるが全然寝ない、抱っこして子守唄歌って、全然寝ない。もう、無理、パパ、タッチ交替。はい。そこでもう10時半とかになっている。で、僕が絵本を読み始める。何度も何度も何度も読む。ふと気がつくと夜中の0時を過ぎて日付が変わっている。泣いたりぐずったりしているわけではないが、寝ない。さらに読み続ける。寝ない。ママ、疲れ果ててて寝ている。だっこして子守唄歌って、家の中をぐるぐる歩き回る。寝ない。また絵本に戻る。もう無理。「ママ、タッチ」ここでもう夜中の二時過ぎ。ママ、またおっぱい飲ませながら絵本読む、夜中の三時過ぎ、やっと寝る。

 みたいなことはある。僕が仕事で深夜残業だったり出張だったりすると、この事態に妻が一人で対応する。申し訳ない。妻が二人目三人目・・の出産で入院、というときにも起きるので、そういうときは僕が一人で対応する。

 話はちょっとズレるけれど、人間、よりつらいときの記憶が印象に強いから、妻のイメージでは、僕はほとんど育児に協力せず、仕事で帰ってこなかった、一人で育児大変だった、今でいうワンオペ育児の期間時間が長かった、と認識されているんですね。

 たしかに育児負担は妻の方が何倍も何十倍も大きかったのはたしかだけれど。でも子どもが六人いて、常に赤ちゃんの上に3歳児5歳児、もうすこしすると小学校低学年くらいのがいつもいる状態が20年近く続いたので、誰か一人に妻が集中しなきゃいけないときは他の誰かのことを僕が見ていたのだから、それは妻に比べれば何分の一かもしれないけれど、総量でいうと、尋常じゃない時間と量、子育てに費やしてきたのだよ、僕も。と思うのです。読み聞かせも、妻のほうが何倍もしてきたけれど、僕も、尋常でない量の読み聞かせをしてきたと思うのだよなあ。夫婦どちらかが、子育て期間、一番下の子が小学校3年生になるくらいまで、一晩も欠かさずしてきたのだけは、本当のことです。25年間くらい。

 話は戻って。なので、「絵本三冊読むくらいで子どもがすやすやと寝てくれる」というのは、もう、子育て家庭ではそれだけで幸せなことなのである。「寝た子の可愛さ。起きて泣く子のねんころろ、面憎さ」という子守歌がありますね。本当にそう。

 と言う親の願いを受けて、「子守歌、絵本版、赤ちゃん、寝ろ」というカテゴリーの絵本がたくさんある。松谷みよ子の初めに買う「赤ちゃんの本」シリーズにも「もう、ねんね」というのがあるし、もうすこし大きくなった子供がなかなか寝ないことを描く名作ホーバンの「おやすみなさい、フランシス」(これはいつか別の回で取り上げる予定、我が家で最も読まれた本のひとつ)だったり、まあそれは、絵本界の一大勢力なんだな。

 そんな中で、絵も、文章も本当に素敵なのが、この『みんな おやすみ』。

「おひさまは いちにちじゅう 
そらにいて つかれました 」

これで一見開き

「やまのむこうで おやすみ」

これで一見開き。

このパターンで、そよかぜも、と続いた後で

「わたしも ねむる じかん です」

はっぱ、かぜ、ことり、りす、いろんなものがいちにちじゅういろんなことをして、つかれて おやすみするので

「だから わたしも ねむります」
「だから あなたも ねんねのじかん」

そう、おかあさんの気持ちが、さいごにちゃんと出てくるのですね。

そして、おつきさまただけが、ひとり、みんなをみまもってくれる。

 これを20回くらい繰り返し読んであげても、まあ、寝てくれない時は、寝てくれないんだけど。若いお父さんお母さん、寝られないし意識は朦朧とするしつらいですが、がんばれ。そういうお父さんお母さんのことも優しく慰撫するような絵本です。

 そういう苦しみも、子どもはすぐ大きくなって、小さくて柔らかくてモニモニと動き回って温かい、小さな赤ちゃん、幼児から、あんまり触らせてくれない小学三年生くらいになっちゃうから。

 何度も何度も何度も何度も何度も読んだ絵本だけが手元に残って、子どもたちは大人になって巣立っていった後に、今、そういう絵本を並べて、育児時代を思い出しているのです。

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