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第5回 「言語、通貨、法規のグローバル化の可能性。(TPPから種子法まで、アメリカの法規の世界法規化、治外法権化の危険について) BS1スペシャル「欲望の資本主義2020スピンオフ ジャック・アタリ大いに語る」を7つのテーマに分解・解説

連続投稿、この番組を7パートに分解して、各回ごとに以下のように進めます。

⑴アタリ氏の言葉を、番組字幕を写経しました。アタリさんの言うことだけ興味のある方は、ここだけ、お読みいただければ、と思います。

⑵インタビューがただつながる番組構成上、論理の筋道が⑴だけだと、ちょっと追いづらいので、ざっくりと私がそれを整理します。

⑶そのあとに、私の感想、意見を書きます。個人的なこともあれば、今、日本で問題になっている政治的テーマと、アタリ氏の発言の関係を論じる場合もある予定です。ここは、もし興味があればお読みください、というパートです。

では、第五回は、「言語、通貨、法規のグローバル化の可能性。(僕が語るのは、TPPから種子法まで、アメリカの法規の世界法規化、治外法権化の危険について)です。

今回の話は、日本人の生活から距離が遠そうに思えますし、話題があっちに行きこっちに生きしつつ、アタリ氏の主張の芯がどこにあるのか、アタリ氏と言う人物についての基本理解がないと、難しい部分があるかと思います。
アタリ氏が
①フランス人であり、フランス語話者であり
②EU統合の思想的立役者でもあり、
③通貨ユーロ成立とその価値維持にも、深くかかわってきた人物である。欧州復興開発銀行初代総裁を務めた。
という事実を、まず、押さえておきましょう。
つまり国をまたがる法規、国際通貨、そして多言語が話される国際環境について、その課題に向き合って何十年も、現実政治の中で生きてきた人です。その立場から、世界のこれからを捉える基本要素を確認する回です。「わかりやすく共感できる!」というようなことは少ないかと思いますが、日本にも深く関係することなので、おつきあい、お願いします。

⑴番組中継 文字起こし

「今はグローバル資本主義やグローバル市場が存在するためにグローバル企業が必要だという明確な見解もあります。これらのグローバル企業は、均一化された市場を形成して、市場で使える新たな通貨さえ発行しています。政府は小さく弱くなり、政府が発行する通過でなく、市場の通貨が使われるようになるという見方もあり、これは、ありえないことではありません。だから、今、その実現が試みられているのです。ですが、私は実現するとは思いません。

興味深いことに、2つのトレンド間での戦いでもあります。1つめのトレンドはグローバル化で、GAFAや中国版GAFAヨーロッパ版GAFAにつながるもので、世界統一通貨や1つの世界統一言語が生まれるというものです。例として言語を見てみましょう。統一言語や統一通貨が考えられますが、言語です。世界中が1つの言語に統一言されるというトレンドがあります。

ですが、私はそうなるとは思いません。真逆になる もう1つのトレンドもあるのです。これは新しいテクノロジーのおかげです。テレビ局を作るのは、今では非常に簡単で、少額で作れます。ですから、方言を話す日本の農村の人がテレビ局を作ることもできるのです。アフリカの村の人が自分の言葉でテレビ局を作ることもできます。そうなると世界中で使われている共通語である英語フランス語中国語などの言語は話者が少ない言語からの挑戦を受けることになるのです。これらの方言等の話者が新たなテクノロジーの恩恵を最も受けられることになります。そうなると言語が1つに統一されるのでなく、これまで以上に言語が増えることになるでしょう。消えたとされる言語も復活します。自動翻訳関連の新たなテクノロジーにより、いくつもの言語を話すことも容易になります。異なる個々人の数だけ言語ができるかもしれませんね。

本当に危険なのは、グローバル化による一意化ではなく、世界のマイクロ・バルカニゼーション(ある地域や国家が互いに対立するような小さな地域・国家に分裂していく様子)です。保護主義の出現によっても始まった現象ですが、とんでもなく危険な現象です。世界が分断され、新たなナショナリズムが台頭するのは非常に危険です。GAFAによる支配のリスクを誇張すべきではありません。リスクではありますが、それ以外にもリスクはあるのです。

ですから、人類が作るグローバルな法規が必要です。アメリカの法規でも日本の法規でも中国の法規でもなく、ですが、ボトムアップで法規を作るのはとても難しい。大抵、法規は独裁者か侵略者が定めるものです。侵略者が国を支配する際に法規を定めるのです。全人類のための新た共通の法規をボトムアップで作るのは非常に困難です。ヨーロッパもそうでした。ボトムアップで法規を作ろうとしましたが、とても困難でした。」

インタビュアー質問
「グローバルな法規の実現にあたっては、具体的にどのような方法があるとお考えでしょうか。」

アタリ氏
「まず、アメリカの法規をグローバルな法規にする方法があります。既に試されていて、ある程度成功しました。アメリカの法規はどこででも適用できるとアメリカ人が考えているという事実があって、不思議なことに多くの外国政府が、これを受け入れたのです。「米国法の治外法権」です。実際には完全に違法です。ノーと言いたければ簡単に言えるのに、我々は言いませんでした。ですから、アメリカの法規が世界の法規になる可能性はあります。アメリカ人が自国に閉じこもりつつある今、おかしなことではありますがね。世界レベルで考えても良いことではありません。もし米国法の治外法権が確立すれば、世界を利することはなく、アメリカ企業等を利するだけで、良い方向に行くとは思えないからです。

次に、中国の法規ですが、個人的には、中国は自国の法規を世界の法規にすることには興味がないと思います。

3番目には国際機関に任せる方法。うまくいっている部分もあります。たとえば、最も有効な国際機関の1つはOECD経済協力開発機構ですが、OECDは財政政策の協調という点において世界規模で大きな成果を上げつつあります。国際機関の効率性をランク付けしなければならないとしたら、私は間違いなくOECDを1位にします。

もう1つは業界団体が採ってきた方法です。銀行や保険、観光、砂糖メーカーなどのセクターは世界規模で独自のルールを定めています。「私法」です。安全管理や製造に関するルールです。グローバルなルールを企業が定めて、それが結果的にグローバルな法規の枠組みとなり、民間で生まれたものがグローバルな法規のベースとなるかもしれません。


⑵論理の筋道整理

 冒頭にも書きましたが、ちょいと抽象的で難しい回です。

①言語 ②通貨 ③法規 この三つについて、「国や地域ごとのもの」と「グローバルなもの」の関係について、重ねたりずらしたりしながら論じていきます。

その背景には、冒頭にも言いましたがアタリさんが
①言語について。フランス人であり、母国語という意味では、フランス語話者である。フランス語は世界言語としては英語より劣勢(植民地分布から、アフリカ方面にだけ強い)、そのアフリカ諸国も、今、経済的影響と言う意味では中国に圧倒されている。

EU統合にあたっては、EUは多言語主義を取っており、「EUの公用語はこれ」というのは決まっていない。加盟国の言葉全部が公用語。むしろブレクジットによって、EU公用語から英語がはずれんじゃないの問題、というのが生じている。しかし一方、現実には母国語以外の言葉で外交官同士が話すときにいちばん使われるのは英語、というのが現実。つまり、「世界統一言語」問題と言うのは、EUに深く変わってきたフランス人、アタリさんにとっては、きわめて重大かつ悩ましい問題なのです。
②通貨については、EUは「バスケット方式」という方式で、段階的に各国通貨からユーロへの統合を果たしてきた。そのプロセスにずっと関わってきたのがアタリさんな。アタリさんは、欧州共通通貨ユーロへの思い入れがひときわ強い人である。
③法について。EUの運営の中で、各国法律と、EU法の関係と言うのは、日本人から見るとよく分からないですよね。それでも、EUでは、各国の法体系は維持されつつも、EU法が、各国内法や憲法より優越することに、一応、なっているんです。ただ、実際運営上はいろいろ難しい問題が生じているわけです。だからこそ、それに不満を抱く英国は、EUから出て行ってしまったわけで。そのEUに深くかかわり続けたアタリさんとして、世界共通法規については、いろいろ考えるところがあるわけ。

という、アタリさんとEU、ユーロの関係を理解して、言語(多言語主義)、ユーロ(通過は統一)、法規(EU法が優越しつつ運用で苦労)という、それぞれについての関りの中で、今回の、パートは語られている。EUを超えるグローバル、を考えるときには、米国と中国の力、関りが重要になるのです。

 という前提を整理した上で、

 まず、言語も通貨も法規も超えて、グローバル化というものが、GAFAのようなグローバル企業によって、統一されていく流れ、可能性があるということを、基本認識として確認しています。世界政府というものが存在しない中、各国政府よりもGAFAが強大になり、言語、通貨、法規のグローバル化に影響を持つということをひとつの可能性、またはリスクとして念頭においておくのが、議論のスタートです。

 そして、まずは言語ですが、言語は統一方向よりも、多言語化が進行する、という方向がより強い、と語ります。これはEUも多言語主義でないと落ち着かなかった経験があるのでしょう。言語は各民族、国家の統合、文化の源のひとつですから、これはそう簡単に否定できない上に、むしろテクノロジーの進化は、個別的言語に有利に働くと考えています。
 欧州でも、カタルーニャ(バルセロナ中心とする地域)が、スペインからの独立をしようとする動き、紛争や、スコットランドの独立への動きはじめ、「言語、民族がより自立性を強めよう」という動きが強くなっています。これが政治的紛争の元になるのを「マイクロ・バルカニゼーション」として、警戒しなさい、と言っています。言語についてはGAFAによる統一より、マイクロ・バルカニゼーションによる紛争多発、激化の方が、リスクが大きいと警鐘を鳴らしています。

 通貨については、語るか、と思いきや、ほとんど語っていません。

 法規ですが、ここがひとつの肝です。
A アメリカ法規の世界法規化。なぜ、そうなるかのポイント
①アメリカの法規はどこででも適用できるとアメリカ人が考えているという事実 があって、
②不思議なことに多くの外国政府が、これを受け入れたのです。「米国法の治外法権」です。

 これ、トランプの登場で突然、アメリカはやめちゃいましたが、TPPって、まさにこれだったんですね。アメリカの国内法規的通商ルールを、世界みんなで飲む。飲む必要ないのに、なんだか、みんなOKって言っちゃう。

 TPPではなく、二国間貿易協定FTAで、アメリカは、せっせと、アメリカ法規を、相手国にも飲ませる交渉を続けています。ISD条項とか、種苗法の改正とか、全部この流れです。興味のある人は調べてくださいね。

これは、アタリさんは真っ向、反対、否定です。引用します。
「『米国法の治外法権』です。実際には完全に違法です。ノーと言いたければ簡単に言えるのに、我々は言いませんでした。ですから、アメリカの法規が世界の法規になる可能性はあります。アメリカ人が自国に閉じこもりつつある今、おかしなことではありますがね。世界レベルで考えても良いことではありません。もし米国法の治外法権が確立すれば、世界を利することはなく、アメリカ企業等を利するだけで、良い方向に行くとは思えないからです。」

これ以外には、
B 中国は中国国内法規の世界法規化は興味がないと言っています。正しいでしょう。
C 国際機関の活動が、実質、国際法規として機能するもの。OECDはその役割を果たしていると評価しています。
D 各業界団体の「私法」、安全管理や製造に関するルールが、各分野固有のグローバルなルールになり、それがグローバル法規のベースになっていく、というものです。

法規について、そもそもアタリさんは哲学者的に、興味深いことを言っています。
「大抵、法規は独裁者か侵略者が定めるものです。侵略者が国を支配する際に法規を定めるのです。全人類のための新た共通の法規をボトムアップで作るのは非常に困難です。」
中国の抬頭で、アメリカの覇権国家としての相対的地位は低下しているが、アメリカは、その力が残存しているうちに、自国法を世界法規にしようととている。一方、普通はボトムアップでは法規はできないのだが、世界法規に関しては、世界政府がない以上、各業界団体の私法の集合体が、世界法規のように組みあがっていく可能性もなくはない。アタリさんは、そんなことを語っています。

⑶僕の感想、意見


 前パートでも、だいぶ書いてしまったのですが、日本に関係することといえば、「アメリカ法規の世界法規化、治外法権化」の押し付けと、どう戦うか、というのが、非常に重大な問題として、常に存在します。

 まだアメリカが中心で進んでいた頃の、TPP問題で、いちばん危惧されていたのがISD条項。これを種苗法改正との関係で「例えば」ということで、説明していきましょう。

 まず、昨年度末国会で承認されてしまった、種苗法の改正。これは、農家が、前の年の作物から取れた種を、またとって使う「自家採種・増殖」に、今までより強く制限がかかったんですね。毎回、種会社から、種買うこと。昔から作っている種はもう使っちゃだめよ、基本的には種会社から、種買えよ、という法律です。簡単に言うと。

 これら、いわば「国際法規」に、日本国内法を合わせる、ということなんですが、何よりモンサントなど、アメリカのアグリビジネス・グローバル企業に配慮し、その支配力を強めるための法改正なわけです。これ、農家の皆さんの間では、大問題化しているんですが、知らない人、多いですよね。

 さらに、ISD条項というのは、国内法規を新たに作って、国内の農家保護みたいなことを日本政府がしたとします。そうすると、それは、国際条約に違反して、アメリカの企業やその株主に損害を与えた、として、裁判が起こされちゃう。日本政府が賠償しなくちゃいけなくなる、という決まりを定めたのがISD条項です。韓国はアメリカとの二国間貿易協定でISD条項を結んでいるために、実際に何度も訴訟を起こされて、国が賠償金を払うハメになっているんです。

 ね、アタリさんの言う「ノーと言いたければ簡単に言えるのに、我々は言いませんでした。ですから、アメリカの法規が世界の法規になる可能性はあります。世界レベルで考えても良いことではありません。もし米国法の治外法権が確立すれば、世界を利することはなく、アメリカ企業等を利するだけで、良い方向に行くとは思えないからです」の意味がわかりましたか?こういう法律は、森林法改正とか、水道法改正とか、ものすごくたくさんあって、米国企業の得になるように、日本の法律を「それが国際法だ、国内法を国際法に合わせろ」といって、どんどん改正しちゃうということが進行しています。安倍政権、麻生副総理は、そういう法律をどんどん推し進める、グローバル大企業の代理人のような政治家だと思って、ほぼ間違いないです。麻生さんの娘婿は、グローバルな水道民営会社(アメリカの会社ではなく、フランスの会社だけど)の幹部ですよね、たしか。

 スキャンダル追及みたいなことに国会が費やされている裏で、こういう「米国法規の日本への押し付け。米国法規治外法権化」がどんどん進んでいることは、みんな、ちゃんと知っておいた方が良い。TPPからアメリカが脱退した後の、アメリカとの二国間協議でも、こういう話は、これからもどんどん出てきます。

 最後にもうひとつ。

 失われた言語の再生、と言う意味では、アイヌ語の再生、復活というトレンドがあります。これが、アイヌ民族、文化の復興から、政治的権利の見直し、自治みたいなことにまで発展しないように、実は日本政府は非常に神経を使っている、ということも、触れておきましょう。

 北海道と、沖縄については、「言語、民族、自治」ということについては、世界のこうした流れと呼応して、今後20年くらいの間に、「マイクロ・バルカニゼーションによる紛争多発、激化の方が、リスク」が無視できない形で存在します。

 私の父親は北海道開発庁という弱小官庁(とはいえ国家公務員)の官僚でしたが、北海道と沖縄にだけ「開発庁」があるのは、「経済的に遅れていたから」ではなく、そもそもに地域の成り立ちとして「異民族征服」した土地だからです。アイヌは「国家」にはなっていなかったですが、あきらかに先住民の土地でした。アメリカがインディアンをほぼ滅ぼしちゃったのと、オーストラリアがアボリジニをほぼ絶滅させちゃったのと、おんなじことを、日本もしたわけです。琉球は、日中に両属していた国家ですよね、もともと。これは、スコットランドとか、カタルーニャのパターンが近いのではないでしょうか。独立運動や自治政府要求が起きても、世界的トレンドの中では、何の不思議もないですよね。沖縄は基地問題を通じて、日本政府との対立は深まっていますし、マイクロ・バルカニゼーションのリスクは、日本国内にもあるということも、最後に確認しておきます。

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