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『負債論 貨幣と暴力の5000年 』 急死したデヴィッド・グレーバーの主著と言えば、やっぱりこれ。読書記録、アップし忘れていたので。超ヘビー級(分厚い)の、必読書。読まずに死ねない本です。

『負債論 貨幣と暴力の5000年 』(日本語) 単行本 – 2016/11/22
デヴィッド・グレーバー (著), 酒井 隆史 (翻訳), 高祖 岩三郎 (翻訳), 佐々木 夏子 (翻訳)

Amazon内容紹介
「『負債論』は21世紀の『資本論』か?
重厚な書として異例の旋風を巻き起こした世界的ベストセラーがついに登場。
現代人の首をしめあげる負債の秘密を、貨幣と暴力の5000年史の壮大な展望のもとに解き明かす。資本主義と文明総体の危機を測定し、いまだ書かれざる未来の諸可能性に賭ける、21世紀の幕開けを告知する革命的書物。

人類にとって貨幣は、交換という利便性の反面、バブルなどの破局に向かう幻想の源泉でもある。人類史的な視座から、このような貨幣の本質からリーマン・ショックやギリシア・デフォルト問題などの国際的金融的危機を解明する壮大な構想を展開する。産業資本が衰退し、金融資本が質的、かつ量的に拡大する今日、現代資本主義を理解する上で必読の文献である。」

 ここから僕の感想。かつての電通の仕事仲間の中でも、ピカイチの教養人 Tさんから、かなり昔に勧められ、(購入日付を見ると2018年8月21日に買っている)、あまりの分厚さ(本文580ページ+あとがき解説脚注凡例で計800ページくらいある)に、積読状態で二年近く放置してあった。

 コロナ禍の中の、例の「ブックカバーチャレンジ」で、Tさんが、この本を挙げていたので、「積読状態です」とコメントしたら、「原さんなら、面白いはず」と、またまた勧められたので、よーし今度こそと読んだら、あらまあ、これは必読書でした。面白かった、というか、読まずにあれこれ言っていた自分が恥ずかしい、それくらい必読度の高い本でした。そして、この、今、読むべき本でもありました。

 人類学者である著者が、経済学のスタートラインにある「物々交換」「金属貨幣の起源」を説明する神話に、「嘘だあ、物々交換はそんなふうには起きないし、貨幣はそんな風には発生しないぞ」、と疑問を投げかけるところから始まり、では、人類学的には、交換とか信用とか貨幣とかは、どのように考えられるかを、人類学的事実知見と、歴史に関する洞察を交えて、ぐいぐいと、人類五千年の、洋の東西すべてを網羅した視点で考察していく、超・スリリングな展開です。西洋に先行、対照的な展開をする文明、宗教圏における社会・政治・経済のシステムも、ひとつではなく、特にイスラムと中国が対照的な展開をしている分析部分など、もう本当に面白い。中国の官僚システム、イスラムの、国家に対し、宗教と商業が結託して対抗しているシステム、なるほど、眼から鱗が百枚くらいはげ落ちます。

 洋の東西と宗教、そして、世界で共時的に起きる、時系列での波、変化を交えて、人類史を貨幣、負債、信用、暴力の視点で解き明かすという、「全人類史」ものの傑作です。

 僕は、経済学が苦手で、どう考えても、インチキくさいなあと思っていて、単に数学が苦手で数式が嫌いだから、ではなくて、前提が間違っているぽいもんなあ、という、その根源のところについて、ものすごくクリアに書いてある本です。アダムスミスの書いたのは彼がこうだったらいいのにな、と書いた「モデル」なのに、それが事実であるかのように扱われて、今でも経済学の教科書の初めに必ず登場してしまう。そこから疑い、解き明かしていく面白さ。

 あと、「中央銀行とは何か」というのが、これは高校生の時から、ずーーーっと分からなかった謎だったのが、MMTまわりの本を読んで、なんとなくわかってきたけれど、まだやっぱりよく分からなかったのが、この本で、ようやく、スッキリした。「何をするところなのか」が分からなかったのではなく、「なぜ、そんなややこしいものがあるのか」が分からなかったのが、この本を読むと、できた経緯が、よくわかる。高校の同級生に、Wさんという、お父様が日銀の有名な幹部だった女子がいて、無知な僕が「日銀でお役人なの?」と聞いたら、「うーん、役人、公務員じゃないんだけどーー」と困った顔をされてしまい、それ以来、日銀て何?っていうのが、ずっと心と頭に、魚の小骨みたいに刺さって気になり続けて40年、やっと小骨が抜けました。 

 それからそれから、さとなおくんが、旧約聖書についてのnoteの連載をこの前完結したのだが、あれの中に出てくる、様々なエピソードも、これとすごく関係があった。さとなおくん、ありがとう。

 ここんところずーっと言っている中野剛志『富国と強兵』も、遡るとこの本がひとつの動機だったんじゃないのかなあ。前後関係はどうなんだろう。いや、でもこの本、MMTの本じゃないですよ。その前提となる貨幣論について、この本を読むとさらに理解が深まる。

分厚いし、高いけれど、これは、読んで。読まねばですよ。

 



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