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第6回 「『我々は独りだ。敵から日本を守るためには誰も駆けつけない』という確実な未来をどう引き受けるか。」(日本人は、何を考えることを避けているか) BS1スペシャル「欲望の資本主義2020スピンオフ ジャック・アタリ大いに語る」を7つのテーマに分解・解説

連続投稿、この番組を7パートに分解して、各回ごとに以下のように進めます。

⑴アタリ氏の言葉を、番組字幕を写経しました。アタリさんの言うことだけ興味のある方は、ここだけ、お読みいただければ、と思います。

⑵インタビューがただつながる番組構成上、論理の筋道が⑴だけだと、ちょっと追いづらいので、ざっくりと私がそれを整理します。

⑶そのあとに、私の感想、意見を書きます。個人的なこともあれば、今、日本で問題になっている政治的テーマと、アタリ氏の発言の関係を論じる場合もある予定です。ここは、もし興味があればお読みください、というパートです。

では、第六回は、「『我々は独りだ。敵から日本を守るためには誰も駆けつけない』という確実な未来をどう引き受けるか。」(日本人は、何を考えることを避けているか)

中国とアメリカというふたつの超大国に挟まれた日本に、今後20年間で、確実に起きる未来。それを考えようとしない日本人に対する、痛烈な批判を、ニコニコしながらするアタリさん。笑いながら怒る竹中直人のようでした。

⑴番組中継 文字起こし

◆経済で結ばれた国々 平和は維持できる?

番組VTR ナレーション 「秩序を保つ方法は一つではない。経済的相互依存で、平和は維持できるのか。競争を戦争に発展させないための力学とは。」

アタリ氏
「言うまでもなく、今は危険な状況です。ご承知の通り、国と国は密接に絡み合っていますからね。もしアメリカ人が「もう中国に頼るのはやめてすべて国内で生産しよう」と言い出したら、それが真の保護主義の始まりで本当に危険です。世界経済の真の脅威はこれです。分業に抗うことです。もし国家が分業に抗えば、インフレが起きるでしょう。とても危険です。とてつもなく危険です。しかし、起きうることです。なぜなら、経済の融合が国家間の争いを止めることはありません。たとえば1914年にはイギリスとドイツの経済は非常に緊密でした。あまりにも緊密なので、この二国が戦争することはありえないと皆が言っていました。経済に関してドイツとイギリスが当時の緊密度に戻ったのは2年前のことです。大きく低下した後、再び高まりました。経済的融合だけでは、戦争は回避できないのです。とはいえ、分業に抗おうとするのは困難です。なぜならiPhoneは部分的に中国で作られていますが、私の記憶が確かならば、パーツの製造は50か国以上で行われているからです。それを組み立てているのです。ですから、世界はとんでもなく融合していて、それを解体するのは非常に困難です。」

番組VTR、トランプの「アメリカ ファースト」の映像。ナレーション「大国、アメリカと中国。両者のはざまで、日本はこれまでの関係性を維持できるのか。

◆大国の間で、日本は。
アタリ氏
「確かに危険はあります。脅威を感じると思います。他の国々の例を見てから、日本について考えてみましょう。

たとえば東欧ですが、ブルガリアやルーマニアは人口が減少しています。少子化も1つの原因ですが、多くの人々が国を離れているのが、人口減少の主な原因です。このまま国民が国を離れ続ければ、ルーマニアとブルガリアの人口は今後20年間で20%減少するとみられています。

とすると、日本の人口減少も、出生率の低下のみならず、外国への移住が原因になるのではないかとの考えもよぎります。ですがそんなことにはならないでしょう。ポイントは国内の活力です。中国の活気は日本にとってプラスに働きます。中国に活気があることで日本製品の市場も広がり、中国人が何を欲しがっているかが分かれば、日本がそれを売れるのです。商品を製造して大きな市場に出すことが出来ます。

例としては、フランスもドイツも中国と日本と同じような関係で、中国と日本の違いとは異なりますが、我々も違いのある2国で、ドイツに移住するフランス人はいませんでした。両国とも頑張って働き、かつての敵同士ではありますが、今は友人です。お互いに助け合って発展していますが、それでもフランスを離れてドイツに住もうという人はいません。フランスに来たドイツ人と、ドイツに来たフランス人、何人かはいるかもしれませんがね。良い友はお互いの国で働けるものですが、大移動にはなりません。

人間の大移動が起きるのは、違い(経済格差)が大きなときだけです。ですが、中国の1人当たりGDPが日本の1人当たりGDPよりもずいぶん低い状態は今後も続くでしょう。ですから、若い日本人が、中国で日本より良い生活水準を保てる理由は無いのです。

問題は政治的意志。市場に応えてイノベーションを続けるのみです。客をよく理解して、外国人を惹きつけ、中国人を日本に惹きつけることです。中国からの労働者に門戸を開き、彼らを見て中国市場の真のニーズを理解するのです。それが成功への道です。

未来を恐れてはなりません。未来を恐れないように。未来を恐れれば必ず失敗します。

自己暗示のようなものです。未来を恐れれば、良くない未来が訪れるでしょう。

短期的に見れば未来は不確実です。地震や台風等に襲われることもあるでしょう。我々のうちの誰かが0.5秒後には死ぬかもしれません。不確実です。

何事もないかのように前進して、将来のビジョンを持たねばなりません。もちろん不確実性はあります。妙な知らせが舞い込んできて、驚きのあまり反応してしまうこともある。びっくりするような出来事です。ですが、トレンドは変わりません。トレンドとは今後15年20年で、何が変化するかということです。

最も重要な変化の1つはアフリカが世界で1番になるということです。21世紀はアジアの世紀ではなく、アフリカの世紀になります。それは確実です。

2番目に分かっているのは、中国が統一と現状を維持しようとしても、大きな壁に直面するということです。統一を保って立場を維持するのは今より困難になります。なぜなら共産党は20年後には限界を迎えるからです。

アメリカは衰退しつつあり、今後は大統領が誰であっても、もっと内向きになるでしょう。我々ヨーロッパ人も日本人も、非常にシンプルな一文に適応しなければなりません。

「我々は独りだ」という文です。

我々は独り

アメリカが敵から日本を守るために米軍を送ることなどありえません。

このように確実なことのリストは作れます。予測不可能な未来の事のように思えても、これらは確実に起きるのです。確実な枠組みの中に、予測不能なことを置いて進めばいいのです。なのに、多くの人が予測不能なことを口実にして、確実なことを考えるのを避けようとします。

たとえば私が「我々は独り。敵から日本を守るためには誰も駆けつけない」と言っても、それをきちんと考えて受け容れる日本人はいません。「世界は不確実だ。いろいろ予測不能なことが起きかねない。だから何もできない」 と言わずにきちんと考えて行動すべきです。どんなに予測不能なことが起きようとも、日本は独りになるのです。

これは単なる1つの例ですが、予測不能なことが妨げられているせいにして、我々は行動することを拒んでいるのです。」

⑵論理の流れの整理

 グローバル経済で、世界が強く結びついていることが、戦争を避ける根拠となるか。ならない、とアタリ氏は言います。
 アメリカと中国が、現在の経済的結びつきを否定して、それぞれが保護主義に走ったら、それは非常に危険だ。だが、だからといって、その(論理学的に言って)裏、「超大国アメリカと中国は経済的に結びついているから戦争は起きない」は間違っている。
 
「1914年にはイギリスとドイツの経済は非常に緊密でした。あまりにも緊密なので、この二国が戦争することはありえないと皆が言っていました。」「経済的融合だけでは、戦争は回避できないのです。」

 つまり、アメリカと中国が、どれだけ深く経済的に結びついていても、戦争のリスクは減らない。一台のiPhoneを作るのに、50か国以上が関わっているからと言って、それは、それら多くの国の間の戦争を防ぐ根拠とならない。
 
 経済的に、もし対立して保護主義に走ったら確実に戦争のリスクが高まるだけでなく、経済的にきわめて深く結びついていても、紛争のリスクは存在する中国とアメリカ。(という話をするための、ここまでが枕)
その二つの超大国に挟まれた日本は、つまり、常に紛争のリスクの間にいるということである。

 では、日本は、中国とどう付き合うのか。
①まず、ルーマニアやブルガリアのように、衰退する日本を見限って、若者が中国にどんどん流出してしまう、ということが起きるかと言うと、起きないでしょう。一人当たりGDPはまだしばらく日本の方が大きいから。

 さらに中国がどんどん成長したとしても、ドイツとフランスがそうであるように、ビジネスで行きかう人は多く、「かつての敵だがよき隣人、友人になった」という関係にはなっても、大きな人口移動がどちらか方向に起きるような関係にはならないだろう、と予言します。

 これは、中国の経済成長が進んでも、「文化的差異や歴史的経緯はあっても、経済的格差がそれほど大きくない隣人」という関係はしばらく続くので、そのような関係では、日本の人口の中国への流出は起きないということです。

 一方、日本にとって、中国は、成長する巨大市場ですから、
①まだ、今のところ、日本で働こうとする中国人も多く存在し、また豊かになり日本に旅行する中国人が非常に増えている今(というコロナ前の状況で収録された番組ですから)、そういう人たちから中国人のニーズを学んで、中国本国の巨大市場で売れる商品サービスを開発していくことが、日本と中国の関係の未来た゛、とアタリ氏は語ります。(コロナ前の分析としては、妥当ですが、コロナ後の二国間関係はどう変化するのでしょうね。)

短期的な予測はここでいっんアタリ氏はやめて、より長期のトレンド、20年くらいの間に起きることを予測します。
 短期的な変動はいろいろ起きるが、20年スパンのトレンドは「確実に起きること」だとアタリ氏は言います。「未来は予測できないから、何もできない」という態度をアタリ氏はたしなめます。天災など予測不能なものはあっても、20年スパンでのトレンドは、確実なことだと言います。

①21世紀はアフリカの世紀になる。(アジアの世紀ではない。)
②中国は20年以内に、共産党の支配に揺らぎが生じ、分裂などの大きな変化が起きる。
③アメリカは衰退し、内向きになる。これはトランプのような特殊な大統領のせいではなく、誰が大統領になろうと、民主共和の間で政権が行ったり来たりしようと、換らない確実なトレンドだとアタリ氏は考えているようです。

そうすると、論理的必然として、アタリ氏ははっきりとは語りませんが、こういうことを「言うまでもないことでしょう」として、その先、飛躍して話を進めます。が、僕は、親切でおせっかいなので、アタリ氏が「当然だろう」と飛ばした部分を補足しますね。

世界の中では、重要性をやや失うアジアで、中国が内部崩壊して不安定化する。アメリカが弱体化して内向き化する。分裂した中国内のある勢力が、アメリカが撤退して米国による抑止力の低下した台湾、沖縄、日本本土の一部などに、軍事的圧力や、内政への介入などを強め、紛争が起きる。これはかなり高い蓋然性で起きる。

アタリ氏が上げた条件から推論すれば、こうなります。刺激的なので、アタリ氏は直接的には語りませんでしたが、「論理的思考ができるなら、当然わかるだろう」という顔をしています。しかし、日本人はこういう思考に慣れていないので、この番組を見ても、これだけ辛辣な批判をされたと自覚していない人が大半だと思います。

そこで、アタリ氏は言います。

「日本人も、非常にシンプルな一文に適応しなければなりません。
「我々は独りだ」という文です。

我々は独り

アメリカが敵から日本を守るために米軍を送ることなどありえません。
このように確実なことのリストは作れます。予測不可能な未来の事のように思えても、これらは確実に起きるのです。確実な枠組みの中に、予測不能なことを置いて進めばいいのです。なのに、多くの人が予測不能なことを口実にして、確実なことを考えるのを避けようとします。」

僕の説明を読んでから、アタリ氏の、この言葉を読めば、意味ははっきり分かるでしょう。

「たとえば私が「我々は独り。敵から日本を守るためには誰も駆けつけない」と言っても、それをきちんと考えて受け容れる日本人はいません。「世界は不確実だ。いろいろ予測不能なことが起きかねない。だから何もできない」 と言わずにきちんと考えて行動すべきです。どんなに予測不能なことが起きようとも、日本は独りになるのです。

これは単なる1つの例ですが、予測不能なことが妨げられているせいにして、我々は行動することを拒んでいるのです。」」

アタリさん、ニコニコしながら、日本人に「バーカバーカ、バカは死ななきゃ治らない」と言っていると思いました。インタビューの聞き手日本人ディレクター、「バーカ」と言われたことに、気が付いていない様子でした。

⑶僕の意見、感想。

意見、感想、書いちゃいましたね。長期的に確実に起きる、米軍の東アジアからの撤退、中国の内部崩壊、台湾、香港、沖縄。朝鮮半島などがその影響を受けて激変する中で、日本だけ無傷でいられるわけがありません。

そして、中国との米国についてアタリ氏が語った「経済的結びつきをどれだけ深くても、戦争がさけられるわけではない」は、日本と中国の関係についても同様です。

一方、アメリカが内向き化する中で、アメリカとの関係は、今の安倍・自民党政権の方針をそのまま進めていくと、「世界で米軍下請け代行業として自衛隊が使われる」です。中国への脅威に対抗しようと米国に、直接的戦力でも、兵器についても、依存すればするほど、その引き換えとして。世界中(これから世界の中心となるアフリカや、紛争の中心となる中東地域での)での、米軍活動の下請け業務を断れなくなっていきます。

これは「確実に起きる」「すでに起きつつあること」ことです。

昨日は、父親のことを書きましたが、今日は私の子供のことを書きますが、1人は自衛官です。この確実に起きる未来のままに任せると、私の子供が、アメリカの下請けとして、世界のどこかに出ていくこと。それは避けたいが、起きうる未来です。

日本近辺での、中国内部崩壊に伴う紛争。アフリカや中東を舞台とした、経済成長と宗教・民族の問題が絡み合った紛争。こうしたものに、日本がどう対処するか。確実に起きる事態への対応シナリオを、議論することすらできないのが、日本の政治の現状です。

 さらに、コロナ危機による「各国の鎖国化」「発展途上国の経済・社会崩壊を支援する形での、中国の存在感拡大のさらなる加速」など、変動要素が増える中、日本は、どのような産業に、限られた資源を投じて、生き残りを図るべきなのか。その話は、最終回にしようと思います。


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