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『灰色の輝ける贈り物 』アリステア マクラウド (著), 中野 恵津子 (翻訳) カナダの東はじの、小さな島の、貧しく地味な生活の中での、鮮烈、切実な感情を切り取った、短編集でした。

『灰色の輝ける贈り物 』(新潮クレスト・ブックス) (日本語) 単行本 – 2002/11/1 アリステア マクラウド (著), Alistair MacLeod (原著), 中野 恵津子 (翻訳)

Amazon内容紹介

「舞台は、スコットランド高地からの移民の島カナダ、ケープ・ブレトン。美しく苛酷な自然の中で、漁師や坑夫を生業とし、脈々と流れる“血”への思いを胸に人々は生きている。祖父母、親、そしてこれからの道を探す子の、世代間の相克と絆、孤独、別れ、死の様を、語りつぐ物語として静かに鮮明に紡いだ、寡作の名手による最初の8篇。」

ここから僕の感想。

 この前、感想を書いた『彼方なる歌に耳を澄ませよ』、あれは長編だったのだが、あれが大ヒットしたことで、それ以前の短編をまとめて出版となった本国の短編集『Island』の中の、前半八篇を日本で出したのが、この本。後半は『冬の犬』という別の本で出ているというので、そっちも買ってある。

 短編小説と言うのは、長編小説と較べると、一篇の中での、死とか、諍いとか、そういう強い出来事の印象が、相対的に強くなる。なんというか、ドラマチックな構成の強度が強くなる。僕はどちらかというと、いつまでも終わらないような、長編小説の流れに身をゆだねる、という読書体験の方が好きなのだな。と改めて確認する。いや、そのことを改めて確認されるくらい、一篇ごとの印象が鮮烈である。地味な、島の生活、島に暮らす家族と、そこから出ていく子供たち、そういう、一見、地味な舞台の中で、切り出される瞬間の、印象が、強く美しい。

 これは、短編小説集の前半戦で、創作発表順に並べてあるようなので、若い時の作品が多い。そのせいか、(あの長編では、作品内出来事、展開から「母」の記述が少ない。出てくる女性の大半はおばあちゃん、そして妹だったのだが)、この短編集では、「母」がたくさん出てくる。同一家族の連作ではなく、一篇ごとに異なる設定なのだが、どの「母」もよく似た印象の、美しく、強い女性である。島の暮らしを愛している女性で、島から出て行ってしまう息子や娘、それを止められない夫への不満を隠さない。そんな「母」が繰り返し描かれる。

 子だくさん夫婦としての自分の人生をここまで振り返っても、今、およそ子供たちが独立していってしまうと、妻のことを大切にしなくちゃという気持ちも強くなるし、向き合って話し合う時間も長くなる、全体として、今までの人生の中でも、いちばん夫婦仲良しな感じがする。一方、子育て真っただ中というのは、お互いに必死で、別に喧嘩をしているつもりはなくても、子どもたちから見た印象としては、私と妻は、よく大声で言い合ったりしていたような印象が残っているようである。子供時代の作者が、「父と母」と言うものを、何か、そういう印象で記憶しているのだろうかなあ。そんなことが、小説の感想と言うよりも、自分達夫婦が子供らに与えた印象について、とても気になりながら読んた。

 僕は都会で生まれ育った人間で、しかも転勤族で、こういう「絶対的な愛着のある故郷」とか、「濃密な一族のつながり」とか、「自然の中での厳しい肉体労働」とか「家畜たちとのつながり」、どれも全く無縁な世界なのだが、それでも、そこで紡がれる、家族の感情の、どうしようもない切なさのようなものは、どうしてだが、身に覚えのあることなのだよなあ。

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