サイバーセキュリティ経営ガイドラインVer3.0をまとめてみた
2015年に初版が公表されたサイバーセキュリティ経営ガイドラインは、企業が経営者主導で組織的なサイバーセキュリティ対策を実践するための指針として普及しています。
今回はサイバーセキュリティ経営ガイドラインの第三版を要約しましたので、ご参照ください。
1.はじめに サイバーセキュリティ経営ガイドラインの進化と企業への影響
環境の変化とVer3.0の策定
2017年のVer2.0公開以降、サイバーセキュリティを取り巻く環境には以下の変化が見られます。
テレワークなどデジタル環境を活用した多様な働き方の普及
サイバー空間とフィジカル空間の密接な連携とリスクの顕在化
情報資産に加え、制御系を含むデジタル基盤を守る必要性の高まり
ランサムウェアの被害の増加により、事業活動への影響が拡大
国内外のサプライチェーンを通じたサイバーリスクの増加
ESG投資の拡大に伴う企業ガバナンスへの関心の高まり
これらの背景を受けて、Ver3.0では、経営者が認識すべき三原則と重要十項目を維持しつつ、最新の状況に即した内容に見直されました。また、関連ツールやガイドラインとの関係性を整理し、企業の利便性を高める改良も施されています。
サイバーセキュリティをリスクマネジメントの一部に
企業活動がデジタル環境に依存する現代において、サイバーセキュリティはエンタープライズリスクマネジメントの一環として位置づけられています。経営者は、サイバー攻撃によるリスクを適切に把握し、組織全体でのリスク対策を講じる必要があります。
経営者が認識すべき三原則
リーダーシップの確立:経営者はサイバーセキュリティリスクを重要課題として認識し、対策を進める必要があります。
サプライチェーン全体の考慮:自社だけでなく、ビジネスパートナーや委託先も含めた全体的な対策が求められます。
積極的なコミュニケーション:関係者とのコミュニケーションを重視し、信頼関係を構築することで、インシデント発生時にもスムーズな対応が可能となります。
重要な十項目
経営者は以下の十項目を指示し、組織におけるサイバーセキュリティ対策を確実に実施させる必要があります。
サイバーセキュリティリスクの認識と対応方針の策定
リスク管理体制の構築
資源(予算、人材等)の確保
リスク対応計画の策定
効果的な対応の仕組みの構築
継続的改善の実施
インシデント発生時の緊急対応体制の整備
事業継続・復旧体制の整備
サプライチェーン全体の状況把握と対策
情報の収集、共有、開示の促進
本ガイドラインは、経営者が自らのリーダーシップを発揮し、サイバーセキュリティに関わるリスクを適切に管理し、実践するための重要な指針となります。
2.経営者が認識すべき3つのサイバーセキュリティ原則
サイバーセキュリティは、企業のリスクマネジメントにおいて非常に重要な課題です。経営者は、以下の3つの原則を認識し、対策を進める必要があります。
サイバーセキュリティリスクの認識とリーダーシップの必要性
経営者は、サイバーセキュリティリスクが自社にとっての重大な課題であることを認識し、自らのリーダーシップのもとで対策を講じる必要があります。デジタル環境への依存度が高まる中、サイバー攻撃の影響が企業活動に及ぶ可能性も増大しています。これに対処するためには、サイバーセキュリティを企業活動における重要な投資として位置づけ、担当幹部(CISOなど)を任命し、リスクを把握した上で適切な対策を進めることが求められます。
サプライチェーン全体のセキュリティ対策
サイバーセキュリティの確保には、自社だけでなく、国内外の拠点やビジネスパートナー、委託先など、サプライチェーン全体に目を向ける必要があります。サプライチェーンのどこかでセキュリティが不十分であれば、そこを踏み台にしたサイバー攻撃によって重要情報が流出するリスクがあります。このため、全ての企業がサプライチェーンの一端を担う意識を持ち、総合的なセキュリティ対策を徹底することが重要です。
コミュニケーションの重要性
平時及び緊急時において、サイバーセキュリティ対策を実施するためには、関係者との積極的なコミュニケーションが不可欠です。万が一サイバー攻撃が発生した場合、事前に適切なリスクコミュニケーションを行っていれば、関係者の不信感を軽減できます。これには、社内外の関係者とリスクや対策について情報を共有する仕組みを作り、インシデント発生時には迅速な対応を可能にすることが求められます。
3.1サイバーセキュリティ経営の重要性と10項目の指示
サイバーセキュリティ経営は、組織全体のリスク管理の一環として非常に重要です。経営者は、CISOなどの責任者に指示を出し、組織に合った形で具体的な対策を確実に実施する必要があります。以下に示す10項目は、経営者がリーダーシップを発揮し、サイバーセキュリティを推進するための重要な指示です。
1. サイバーセキュリティリスクの認識と対応方針の策定
経営者は、サイバーセキュリティリスクを認識し、全体的な対応方針を策定する必要があります。この方針は対外的に公表し、組織全体の一貫性を確保することが求められます。
2. リスク管理体制の構築
サイバーセキュリティリスクの管理に関する役割と責任を明確にし、組織内のガバナンスや内部統制と整合させたリスク管理体制を構築します。
3. 資源の確保
サイバーセキュリティ対策を実施するための予算や人材を確保し、全職員がセキュリティ意識を持つように教育を行います。
4. リスク把握と計画策定
デジタル環境におけるサイバー攻撃の脅威を識別し、それに基づいたリスク対応計画を策定します。
5. 効果的なリスク対応の仕組みの構築
サイバーセキュリティリスクに対して効果的に対応するための仕組みを構築します。
6. 継続的改善
PDCAサイクルを活用し、サイバーセキュリティ対策を継続的に改善していきます。
7. インシデント対応体制の整備
インシデント発生時の緊急対応体制を整え、迅速に対応できる体制を確保します。
8. 事業継続・復旧体制の整備
インシデントによる被害に備えて、事業継続と復旧の体制を整備します。
9. サプライチェーンセキュリティ
ビジネスパートナーや委託先を含むサプライチェーン全体の状況を把握し、対策を講じます。
10. コミュニケーションの推進
ステークホルダーとサイバーセキュリティに関する情報を収集し、共有、開示することで、透明性を確保します。
これらの10項目を実施することで、経営者はサイバーセキュリティ対策の重要性を認識し、組織全体のリスクマネジメントの責任を果たすことが求められます。適切な体制を整えることが、企業の信頼性とブランド価値の向上につながるでしょう。
3.2インシデント発生に備えた体制構築
1. 緊急対応体制の整備
インシデントが発生した際の影響を最小限に抑えるため、企業は全サプライチェーンにわたる緊急対応体制(CSIRTなど)の整備を求められています。初動対応として、影響範囲や損害を特定し、再発防止策を適宜検討することが重要です。また、被害発覚後には迅速な情報開示が求められ、経営者が外部への説明責任を果たせる体制も整える必要があります。さらに、実践的な演習を通じて、緊急時の対応手順を確認し、備えを強化します。
対策を怠った場合のリスク
緊急時に適切な対応ができない場合、組織内外の関係者とのコミュニケーション不足や情報開示の遅延により、顧客や取引先に対する損害賠償請求などの責任が生じる可能性があります。また、法的義務がある場合は罰則を受けるリスクも伴います。
効果的な対策
CSIRTの構築: サプライチェーン全体に対応できる体制を整備し、社外との連携を強化。
迅速な報告体制: インシデント発生時に経営者や関係者へ速やかに報告。
証拠保全の体制整備: 速やかなログの保全や感染端末の確保を実施。
再発防止策の策定: インシデント収束後に再発防止策を練り、演習を通じて実行確認。
2. 事業継続・復旧体制の整備
業務が停止した際には、復旧に向けた手順書を策定し、適切な復旧体制を整えることが求められます。制御系を含むBCPとの連携も重要であり、サプライチェーン全体にわたる実践的な演習を定期的に行うべきです。
リスクと対策
業務復旧が遅れると顧客に重大な影響を及ぼし、組織自体に致命的な打撃を与える可能性があります。また、IT環境への依存度が増す中で、業務復旧プロセスと整合した復旧計画を策定する必要があります。定期的な演習を通じて、関係者がその手順を理解し、緊急時の行動に備えます。
3. サプライチェーンセキュリティ対策の推進
企業は自社だけでなく、ビジネスパートナーや委託先を含むサプライチェーン全体のセキュリティ対策を把握し、強化する必要があります。契約においては、サイバーセキュリティリスクへの対応について明確な役割分担を設定し、実効性の高い対策を検討します。
対策と推奨事項
対策の合意形成: サプライチェーンに参加する企業間で必要な対策を合意し、実施状況を監査。
リスク評価: 委託先選定時には地政学リスクや自然災害リスクを考慮。
情報共有: サプライチェーン内での情報共有を促進し、対策を統一。
第三者評価の活用: 認証制度を利用して、サプライチェーンのサイバーセキュリティ対策の有効性を評価。
これらの取り組みを通じて、企業はインシデント発生時の迅速な対応と事業の持続性を確保し、サプライチェーン全体のセキュリティを高めることが期待されます。
最後に
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