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クローン楽器の絶妙な商標回避方法5選
クローン楽器
と呼ばれる楽器があります。
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通常、シンセサイザーやエフェクターの内部回路は特許によって法的に保護されています。権利者の許可なく同じ回路の製品を作ることはできません。これのお陰で楽器メーカーは他社から同じものを発売される心配がなくなるわけですね。
しかし特許権の存続期間は20年。つまり発表から20年以上経過した楽器の回路は法的に保護されていないことになります。
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そこに目をつけて作られたのがクローン楽器。歴史に名を残す名機の回路を再現しつつ、価格を抑えた......要はパチモンです。有名メーカーが過去の名機を自ら再現するのは勿論、全く関係ないメーカーから発売されることも珍しくありません。そういった製品は本家本元からは白眼視されていますが、優秀な機材を安価で買えるクローン楽器は初心者や金欠の音楽家にとって大変重宝されています。
そんなクローン楽器のハードルとも言えるのは楽器名。特許は切れても更新可能な商標権は切れません。しかしその一方で、消費者の興味を引くように過去の名機を彷彿とさせる名前を付ける必要もあります。
商標を回避しながら消費者に元ネタを察せさせる、この矛盾クリアしなければならないクローン楽器の名前。今回はその命名方法を見ていきます。
方法1:アルファベット一文字だけ受け継ぐ
最もポピュラーな方法といえるでしょう。冒頭に紹介したminiMoogのクローン製品の名前もPoly Dであり、miniMoog Model Dから一文字だけ受け継いでいます。
単なる楽器名以外にもこの手法はよく使います。筆者が長年愛用しているYAMAHA Reface YCはその好例です。
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Reface YCは幾つかの音色が選べるオルガンです。
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このようなつまみがあって音色を選択できますが、いくつかの音色は他社の名機を明らかに意識したものになっています。Hを選んで出る音は完全にハ〇ンドオルガンですし、Vは絶対V〇Xオルガンの音です。しかしアルファベット一文字ですので商標は一切侵害していません。
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そして取扱説明書でも「60年代の代表的な電気オルガンの音」などとぼかして書いてあります。ぼかさなくてもよい自社製品Yまで遠回しなのは「権利問題のせいでぼかしているわけではないんだからね!」と言い張るためでしょうか?
しかしなぜ正弦波オルガンがHでトランジスタオルガンがVなのか……本当の意味は永遠に謎です。
このように元ネタの社名・型番名から一字だけ取る、というのは大変ポピュラーな方法で、クローン楽器を量産し顰蹙を買っている企業・ベリンガーの多くの製品はこの命名方法になっています。
更に応用編として、数字一文字だけというのもあります。これはTR-808やTR-909などのリズムマシンやTB-303などのベースシンセでよく見る手法です。
アルファベットや数字は(Xを除いて)商標ではないので自由に使えるのが嬉しく、よく使われる手法です。自社の復刻製品であっても、型番の重複を避けるために使われることもあります。
ただ他社のクローン製品や自社の他製品と名称がバッティングする可能性があり、なによりあまりに安易なので面白くないという大きな欠点があります。
方法2:似た感じの別の言葉にする
これはイメージが重要なエフェクターでよく見る手法です。
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例えばケンタウロスという有名なエフェクターがあります。実機が非常に高価なためクローン製品やコピーが沢山あるのですが、それらは大体この手法で名付けられています。
例えば、「馬」の部分に注目したGolden Horse。
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「人」部分に注目したARCHER(弓手)やSAVAGE(野蛮人)。
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更には神話の登場人物ということなのでしょうか、ZEUSまであります。
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またBig Muffのクローン製品にもBigやMuffなどをもじった名前にしている製品が沢山あります。
コピー製品ながらクリエイティビティが必要とされる命名方法ですが、エフェクター製造者のDIY精神と通じるものがあるのかもしれません。
あと完全に余談ですが、本物のケンタウロスエフェクターを製造している会社の名前も「クローン」なのでクローン製品を探しずらいことこの上ないです。
方法3:駄洒落にする
方法2と似たやり方ですが、似た語感の別単語に置き換えるという方法もあります。
ケンタウロスにもCENTAURに引っ掛けたCENTAVOというクローンがあります。
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CENTAVOはスペイン・ポルトガル圏の通貨でセントに当たる単位であり、イラストの人馬とは一切何も関係ないのですが音の響きだけで名付けられたようです。
他にはファズのマニアックな名機Zonkのコピー製品、Honk Machine。
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何故か筐体にZが書いてあるのはご愛敬。
方法4:全然違う名前にしちゃう
元ネタとほとんど関係ない、オリジナルの名前を付けてしまう方法です。
例えば楽器メーカーACIDLABはドラムマシンやベースシンセのコピー製品を作っていますが、元ネタに関係ない名前を頻繁に付けています。
例えばMiami。
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これ、実はTR-808のクローン楽器。名前も見た目もオリジナルとはかなり違っており、すぐに推察できないほどのオリジナリティを放っています。中身は同じだけど。
またTB-303のコピー製品として始まったDark Energyも有名です。
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こちらは元ネタとは似ても似つかない見た目に加え、音もちょっと違います。
既に3回モデルチェンジしているそうですが、代を重ねるごとに音色が変化していき最早TB-303とは別の楽器へと変貌を遂げているそうです。
元ネタの精神を継承しつつ、それとは別の領域を開拓しようと志す一番カッコいい方法と言えるでしょう。
方法5:一般名詞だと言い張る
元ネタの楽器名をそのままつけて「これは一般名詞だからセーフ」と言い張る、パワープレイです。これも諸悪の根源ベリンガーが良くやります。
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冒頭で紹介したminiMoog Model DのクローンPoly Dにはバージョン違いもあり、その名もModel Dです。元ネタとの差は"miniMoog"の部分がないだけです。アリなんでしょうか。
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RSF Kobolのクローン製品としてKobol Expander。「拡張」したので別物扱いせよということなのか。
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極めつけはODYSSEYクローンのODYSSEY。これは訴えられた方がいい。
ベリンガーは建前上リバースエンジニアリングの結果であってクローンじゃないということになっているのですが、その割には大胆不敵なことをします。
コピー楽器メーカーは涙ぐましい努力や言い訳を考えながら日々商品開発に勤しんでいるのを、なんとなく分かっていただけたでしょうか。
そして対する本家本元はというと、関係ない自社製品に過去の名機を彷彿とさせる名前を冠したりしています。
Prophet 12 Moduleが良い例でしょう。Prophet 5と言えば80年代を彩るアナログシンセですが、これは新規開発のデジタルシンセ。全くの別物です。
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クローン楽器は、過去の遺産に胡坐をかいているそんな大手メーカーに喝を入れる役割も担っていそうです。
実際、この記事で諸悪の根源だのなんだのと表現したベリンガーですが、彼らがクローン楽器を多数発表するようになって以降、大手会社も自社の過去の名機を再現する製品を頻繁に出すようになりました。ロストテクノロジー化させない姿勢は彼らから見習わねばなりません。
それはそうとして、リンドラムのクローン製品が全然ないのでどこか早く商品化してください。待っています。
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