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思いは必ず手から伝わる

2年前の2月に見た夢の話をします。

その頃 学業もバイトもかなり忙しく、よく追いかけられたり殺されそうになる夢を見ていたのですが、その日の夢ではずっと学校にいて何かの講義の準備をしていました。
グループメンバーが見つからず学校内をあちらこちらと探し回っているうちに、私は教員に呼び出されていたことを思い出して教務室へと足を向けました。光のよく集まるエントランスを通り抜け、いつもより大きな扉を開けるとそこには2つ上の先輩が何人か、教員と何やら話をしているようでした。私はその後ろ、少し離れたところで静かに待っていることにしました。

話が終わる頃、私が足を前に踏み出すと同時にその場を去ろうとしていた先輩の口から、ある種の、よくある暴言が私に向けられ飛び出してきたのでした。やられた、と思いました。白い白い光に包まれた夢の中、既にほつれていた私の心は一瞬にして木端微塵になりました。

何もかもがもううんざりで、投げられた悪意を避けることもそれになにかを返そうとすることもできず、ただ粉々になった心だけを抱えてその場を去りました。そして次に気がつくと、私はもう帰りの電車に乗っているのでした。

虚ろにゆらゆらと、白昼夢のような白さの車内に揺られて目を細めていたのですが、その時ふと、目の前に立っていた学校で一人だけ最寄り駅の同じ女の子が、気づけば私の後ろに立っていて、私の白髪が多くごわごわして硬い 決して触り心地なんて良くない髪を、優しく撫でるように手で梳いてくれたのでした。

そうしたら私は嬉しいのか哀しいのか 何も分からないまま ただ一縷の温かさのようなものが胸の中に流れ込んでくるような、沁み渡るようなものを感じて、そうして水面に顔を出すような錯覚と共に静かに覚醒しました。とうに堰を切って溢れ出していた涙に逆らわず嗚咽しながら、拭いもせずにしばし自室の天井を焦点の合わない目で眺めていました。
少し冴えた頭で時計を見ると確か時刻は4時を回ったところでした。起きようか迷って、もう一度寝ることにして布団を被り直しました。今度は何の夢も見ずに朝まで眠りました。

そこからの毎日もそれまでと何ら変わらないものでした。強いて言えば悪夢は減ったような気がしないでもないですが、それも今では定かではない記憶です。何せ、その日見た夢以外は殆ど欠片も覚えていないのです。
ただ一つ言えることは、あの夢が私を此方に引き戻したような気がする、ということです。

「思いは必ず手から伝わる」と、いつか読んだ小説に書かれていたのを覚えています。その手から言葉が、息遣いがきこえたような気がしました。
あの日私はあの夢に救われていたのかもしれません。