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北の地にて

2016年 2月 旭川

この頃の私は 息をするのもひどく億劫で
明日がくるのが誠に辛く
それでも
つぎはぎだらけの心を持って
口を引き結んだまま 舌を甘噛みしていれば
死に背中を預けるように
全てを投げ出すように
生きていけると思っていた
ずるくて 間抜けで 阿呆な考えだった

人間とはいかに愚かなものか
吐き気がするほど辟易していた
誰一人として信じられる気がしなかった
先に待つ別離の恐怖に怯え
私は今の淋しさを選ぶことしかできなかった
こんな身体で、頭で、世間の中で
生きてなどゆけないと
シャワーの音に紛れて大声で泣いた日のことを
未だ鮮明に覚えている

2019年 5月 札幌

時は過ぎ
世渡りの手練によって
容易く人の波を縫っていけるようになるほどに
誰への興味もなくなっていく
誰かに何かを期待することを忘れ
誰にも話せないことばかりが増えてゆくのに
淋しい気持ちは濃くなるばかりなのに
それでも生きてゆけると 思えてしまった
かつて 自分と手を繋げなくなった人間から
生きることが地獄になっていくと
私に教えた人がいた
地獄に変わりはないけれど
自分の中のどうしようもない部分を
愛嬌程度に笑えるくらいにはなってきた
永らく私が囚われてきたもの
それを許せない自分自身を
私はようやく許せたのかもしれない

結局人間なんぞは
皆 ずるく間抜けで阿呆であって
愚かで罪深いのだ
けれども それでいいのだ
それが、いいのだと思う