【六本木ホラーショーケース-ARTICLE-】 #018 作品世界の歴史を辿り、恐怖が浮かび上がる『オーメン:ザ・ファースト』
【六本木ホラーショーケース】
六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。
今回ご紹介するのは、『オーメン:ザ・ファースト』です。
『オーメン:ザ・ファースト』
2024 | 監督:アルカシャ・スティーブンソン
かつて1970年代に『エクソシスト』と共にオカルトブームを巻き起こした『オーメン』の前日譚となる作品です。
ホラーアイコンとなった悪魔の子ダミアンですが、既に『オーメン』でその幼少期は語られています。
なので前日譚ではさらに遡り、母親となる人物とその出産の秘密に焦点を当てた物語となっています。
ジャンル映画では、しばしばフランチャイズとして続編や前日譚、スピンオフはたまたリメイクやリブートという形で人気作品のアイデアやキャラクターを継承していくことがあります。
不思議とそれらは一作品だけでなく、流行りのようにポコポコと複数生まれます。
例えばホラージャンルでは、2000年代に古典ホラーのリメイクブームがありました。
マイケル・ベイ監督の製作会社プラチナム・デューンズは『テキサス・チェーンソー』『13日の金曜日』『エルム街の悪夢』『悪魔の棲む家』『ヒッチャー』など立て続けにスマッシュヒットを放ち、ブームを牽引しました。
2010年代後半から2020年代はそれらに次ぐムーブメントを感じさせます。
ここ最近の特徴としては、リメイクやリブートではなく、オリジナルからの正当な繋がりの強調が挙げられます。
『ハロウィン』からの『ハロウィン』(2018)『ハロウィン KILLS』『ハロウィン THE END』。
『エクソシスト』からの『エクソシスト 信じる者』。
これらではジェイミー・リー・カーティスやエレン・バースティンなどのオリジナルキャストを再登板させ、説得力としています。
続編ということでしたら、これらの方法は可能ですが、前日譚となるとなかなかそうも行きません。
『エスター ファースト・キル』ではかなりアクロバティックな方法で主演のイザベル・ファーマンを呼び戻していますが、これは作品固有の特殊性が成せた技です。
では、『オーメン:ザ・ファースト』はどうなのか?
残念ながらキャストの続投はありません。
(ただしグレゴリー・ペックがチラリと映る嬉しいサプライズも)
しかし、間違いなくあの『オーメン』の精神を継承しています。
『オーメン』といえば、ダミアンに関わった人たちのバリエーション豊かな死に様が有名ですが、前日譚でもかなり忠実になぞっています。
これはオリジナルを知っていたらニヤリと出来る仕掛けですが、より構造やテーマの部分でもコミットしています。
悪魔の子は政界という海原に生まれるという伝承のもと、駐在大使の息子として育ったダミアンは、その後のシリーズなどでも社会的なポジションにおける優位性を掴もうとします。
本作では教会という社会組織が舞台となり、その権力の在り方や行方も描かれております。
これらの共通項は改めて『オーメン』という作品が伝えたメッセージを認識させてくれます。
加えて、作品世界や実世界での時間経過というものが近年の恐怖を描く際のキーワードになっているように思えます。
先に挙げた『ハロウィン』や『エクソシスト』もそうですが、一大ブームを起こした『死霊館』シリーズはまさにその筆頭ではないでしょうか。
スピンオフを含めたユニバースを形成する際に、かなり過去に遡ったエピソードを描くことで、脈々と続く邪悪な存在を浮かび上がらせています。
A24がタイ・ウェスト監督×ミア・ゴスで送る三部作『X エックス』『Pearl パール』『MaXXXine(原題)』では、描かれる時代設定に合わせてホラーとしてのサブジャンルまで入れ替えて、メタ的にホラージャンルの歴史を感じさせる仕掛けを施しています。
『ラストナイト・イン・ソーホー』では、一作の中で過去と現在を重ね合わせ、変わらず存在する悪しきモノを告発するような作品です。
『オーメン』へと直結するこの前日譚は、オリジナルの世界観を補強すると共に、現代から見つめ直した恐怖の正体を探る試みにもなっています。
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
『マザーズ』
2016 | 監督:アリ・アッバシ
『ボーダー 二つの世界』や『聖地には蜘蛛が巣を張る』で知られるアリ・アッバシ監督の長編デビュー作です。
とある夫婦の代理出産を引き受けたことで、自らの中で育つ“何か”に怯えるというホラースリラーとなっています。
このテーマは、『オーメン:ザ・ファースト』が前日譚として新たに加えた要素にも繋がる恐怖を描いています。
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