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【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#001 『ボーンズ アンド オール』から香り立つ“匂い”に誘われて

【六本木ホラーショーケース】
六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。


今回ご紹介するのは、『ボーンズ アンド オール』です。

(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights rerved.

『ボーンズ アンド オール』

2022 | 監督:ルカ・グァダニーノ

オフィシャルサイト

『君の名前で僕を呼んで』で世界中を虜にした監督ルカ・グァダニーノと主演ティモシー・シャラメのタッグが帰ってきました。
原作はカミーユ・デアンジェリスの同名小説。
ルカ・グァダニーノ監督は『君の名前で僕を呼んで』以後にホラーの傑作『サスペリア』のリメイクと青春ドラマシリーズ『僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE』を手掛けていますが、まさにその二作が合わさったような題材です。
人を喰べるという衝動を抑えきれない若者の逃避行が描かれます。


純愛ホラーと表現されていますが、想像以上にホラーの部分に容赦がありません。
はじめに伝えておきますが、その辺りが苦手な方はある程度覚悟を持ってご鑑賞ください。
ただホラーというジャンルのお約束としてのゴア描写ではなく、逃れようのない“性”だったり欲望の発露として描かれているため、より真実味のある表現であり嫌悪感も感じさせます。

一方、純愛の部分は青春の逃避行という要素も加わって、カラッとした印象。
イタリアという出自がもたらすものなのでしょうか、ルカ・グァダニーノの青春モノは常にこのドライさがあると感じます。
更にアメリカ中を転々とするロードムービーとしてのスケール感も風通しを良くする要因となっているでしょう。
ここに生々しいカニバリズムがぶち込まれるので、一層異物としての禍々しさが際立ちます。

『君の名前で僕を呼んで』では、主人公のティモシー・シャラメを暖かな眼差しで見守る父親を演じていたマイケル・スタールバーグが、なんとも気味の悪い役で再び登場!
今回もティモシーに人生の先輩として助言を与えているのですが、前作との落差に頭がクラクラしてきます。
そして、その傍らにいる男を演じるのが、デヴィッド・ゴードン・グリーン。そう、あの『ハロウィン』シリーズをリメイクしている映画監督です。
(ちなみにデヴィッド・ゴードン・グリーンの次回作は『エクソシスト』のリメイクだとか・・・!?)
ルカ・グァダニーノとは共にホラークラシックのリメイクに挑んだ同志とでも言いましょうか。
どのような繋がりでの出演かは分かりませんが、彼らを含めた一連のシーンは長くはありませんがとても印象深いパートになっています。

人を喰べる“彼ら”は、一般人には分からない特有の匂いで互いを認識できると表現されています。
それらを学び、理解し、受け入れていこうとする少女マレンに寄り添う形で、映画は展開されます。
マレンを演じるテイラー・ラッセルは、今作で第79回ヴェネチア国際映画祭の新人俳優賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。
マイノリティの孤独と特別な繋がりを見出す喜びを見事に演じています。
アメリカでヒットしたデスゲームスリラー『エスケープ・ルーム』シリーズにも主演しており、今後の活躍が期待される俳優といえるでしょう。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】


『ボーダー 二つの世界』
2018 | 監督:アリ・アッバシ

無垢な恋愛とホラーの融合は『ぼくのエリ 200歳の少女』を思い起こさせますが、同じ原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説を映画化した『ボーダー 二つの世界』を今回はオススメ。
『ボーンズ アンド オール』も『ボーダー 二つの世界』も、匂いによって互いの存在を認識します。
『ボーンズ アンド オール』の彼らは、見かけは普通の人と変わらず社会にとけ込んでいる一方、『ボーダー 二つの世界』では見た目がかなり特徴的で、そこは大きな違いのように感じます。
どちらの作品も男女が自分たちが住み良い世界を目指しますが、その違いがどのような結末にたどり着くのか?
ぜひ、見比べて頂きたい作品です。

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