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【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#005 ミア・ゴスの覚醒が刻まれた『Pearl パール』

【六本木ホラーショーケース】

六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。


今回ご紹介するのは、『Pearl パール』です。

(C)2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

『Pearl パール』

2022 | 監督:タイ・ウェスト

オフィシャルサイト

2022年、豊作だった夏のホラー映画公開ラッシュの中でもひと際鮮烈な印象を残しスマッシュヒットを飛ばした『X エックス』はご覧になられましたか?
『Pearl パール』は『X エックス』の続編であり、前日譚にあたる作品です。
『X エックス』で、若者たちが訪れた田舎の農場に住み、彼らを恐怖のどん底に落とした最高齢サイコパスがパールでした。
彼女が如何にしてあのような狂気をまとうことになったのかを解き明かすことになります。

『X エックス』は、1979年のテキサスが舞台となっており、『悪魔のいけにえ』を筆頭とした70年代のスラッシャー映画にオマージュが捧げられていました。
ただただ完コピを目指したわけではなく、殺人鬼が高齢の老夫婦であることでエイジズムの問題が浮き上がってきたりと、巧みな設計で現代映画としての強度も持ち合わせた作品でした。
今回『Pearl パール』では遡ること60年、1910年代が舞台となっています。
そして、モチーフとなるのは『オズの魔法使』に代表される往年のハリウッドミュージカルの世界観です。
パールが銀幕で活躍する女優を夢見ているという設定は、前作『X エックス』でも垣間見られ、マキシーンとも符合します。
舞台となった1910年代はスペイン風邪が流行していた時期でもあり、人々がマスクをして生活しているという描写もあります。
そんな中で、承認欲求を爆発させながら暴走するパールの姿は、現代に生きる我々に刺さりすぎる状況とも言えます。
こちらのシリーズは、A24初の三部作と発表されています。

『X エックス』『Pearl パール』に続いて、3作目『MaXXXine(原題)』でも主演を張り続けるのが、ミア・ゴスです。
『X エックス』では、逃げ惑うマキシーンとそれを追うパールを、特殊メイクを駆使してどちらも演じていたミア・ゴスですが、今作では狂いゆくパールを繊細かつ大胆に演じています。
壮絶に堕ちてゆく様を表して“女性版ジョーカー”との声もあります。
個人的には、アカデミー賞で主演女優賞を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のミシェル・ヨーや同賞を争った『TAR/ター』のケイト・ブランシェットとも並ぶ素晴らしい演技だと感じました。
それはこれまでのキャリアすべてをかけて役と向き合い、見たことのない域まで到達した役との融合が物語っています。
今作でミア・ゴスは、監督のタイ・ウェストと共に脚本にもクレジットされています。
それだけ思いが乗った作品であるという事でしょうか?
『X エックス』以後の世界を描く『MaXXXine(原題)』ではどのような姿を見せてくれるのか、今から待ち遠しい限りです。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】

『天はすべて許し給う』
1955 | 監督:ダグラス・サーク

『Pearl パール』では、ルックとしてはテクニカラーで撮られた『オズの魔法使』や『メリー・ポピンズ』といった作品をレファレンスとしていますが、物語の骨格や状況設定はダグラス・サーク監督が描いていたメロドラマを取り入れていると監督も明言しています。
戦争を背景とした暗闇の時代に、社会の倫理と己の情念との板挟みになりながらもがく様を悲劇的にも美しく描いているダグラス・サークの一連の作品は後年にも多大な影響を及ぼしています。
特にこの代表作である『天はすべて許し給う』は、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『不安と魂』やトッド・ヘインズ『エデンより彼方に』によるオマージュでも知られています。
これらの世界観をホラーへと反転させたタイ・ウェストのセンスに脱帽です。
動画配信では中々見ることの出来ない作品ではありますが、DVDソフトにはなっていますので、TSUTAYA店舗で是非探してみて下さい。

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