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人材選抜におけるジレンマ(選抜方法の選び方(1)

これまで、いろいろと人材選抜について取りあげて説明してきましたが、今回から3回に分けて、人材選抜行う際の「ジレンマ」について考えていきたいと思います。(Mr.モグ)

どちらのテストを使うべきか(上位群と下位群の選抜比較)

ある会社の人材を、営業成績の良い「上位群」と、そうでもない「下位群」に分け、彼らを採用した際のテストの結果を分析したところ、次の図のようになったとしましょう。

テストAテストBグラフ


すなわち、テストAの得点を分析したところ、「特定のライン(採用ライン)」より高いものは「上位群」では75%含まれ、「下位群」でも55%含まれていました。

(すなわち、下位群でも55%含まれていたということは、上位群と下位群の見極めに、テストAは有効に働いていなかったということです)

他方、テストBでは、「特定のライン(採用ライン)」より高いものは「上位群」では95%含まれ、「下位群」では35%しか含まれていませんでした。

この結果からみると、テストBの方がより顕著に「上位群」と「下位群」を判別できることがわかります。

(もちろん、テストAでも、ある程度の判別は、できているのですが、テストBの方が、より判別の精度が高いということになるのです。)

この結果から、テストBの方が、「予測的妥当性」の高いテストであるということになります。
他方で、テストBでも「上位層」のうち5%の人は(上手く選別できずに)不合格となってしまうので、本来なら採用すべき人を逃がしてしまう可能性もあるわけです。

実際の選抜においては、テストABの両方を行うと、さらに選抜の精度が高まることが予想されますが、両方のテストを実施するとコストがかさむことから、テストBを用いて、判別の「特定ライン」を「採用ライン(採用の合否ライン)」とすることで、その組織にあった人材を、選抜することになります。


どちらのテストを使うべきか(採用人数による分析)

さらに、次のようなケースを考えてみましょう。
10人の学生(A~J)3種類のテスト(テスト1~3)を受けて入社しました。そして、10人の採用後の営業成績は表のようになっていました。このとき、どのようにテストを用いればよいのでしょうか。

テスト123の2人選抜

分析1) 10人から2人を採用する場合

説明をわかりやすくするために、まずは、2人を採用する場合を考えてみます。それぞれのテストの上位2人(図では黄色部分)を示してみました。

これによると、テスト1では点数の上位のBとIを採用することになり、採用者(BとI)の営業成績は35.5(=(36+35)/2)となります。

他方、テスト2ではDとJを採用することになり、採用者(DとJ)の営業成績は30(=(28+32)/2)となり、

テスト3ではAとHを採用することになり、採用者(AとH)の営業成績は27(=(34+20)/2)となることがわかります。

逆に採用されない人の(予想)営業成績は、
テスト1では、27.3(採用されたB,I以外の不採用者A,C,D,E,F,G,H,Jの8人の平均)となり、
テスト2では28.6(採用されたD,J以外の不採用者A,B,C,E,F,G,H,Iの8人の平均))、
テスト3では29.4(採用されたA,H以外の不採用者B,C,D,E,F,G,I,Jの8人の平均))であることが、表からもわかります。

さらに、「採用者と不採用者の差(平均)」は、テスト1が(8.2=35.5-27.3)一番高く、次いでテスト2、テスト3となることから、この順に選抜の効果が高いことがわかります。

分析2) 10人から6人を採用する場合

では、(10人の受験者から)6人を採用するときは、どうなるのでしょうか。

テスト123の6人選抜


同様に確認していくと、テスト1では点数上位のA,B,C,E,I,Jの6人を採用することになり、採用者の平均の営業成績は33.2 (=(34+36+27+35+35+32)/6)となります。

他方、テスト2ではA,C,D,G,H,Jの6人を採用することになり、採用者の平均の営業成績は28.0 (=(34+27+28+27+20+32)/6)となり、

テスト3
でも(テスト2と同じく)A,C,D,G,H,Jの6人を採用することになり、採用者の平均の営業成績は28.0となることがわかります。

逆に採用されない人の(予想)営業成績は、テスト1では、22.5となり、テスト2、テスト3ではともに30.3であることから、表にあるように、「採用者と不採用者の差(平均)」は、テスト1が(10.7)一番高いことは変わりませんが、テスト2とテスト3は同じレベルの選抜の効果であることがわかります。

これらのことから、テスト1~3のなかでは、テスト1を使うことが、一番効率が良い(選抜により、採用後の営業成績が高いと思われるものを採用することができる)ことになります。

これは、各テストと営業成績との相関によって、数量的に把握することができます。
テスト1と営業成績との相関は0.72であり、同様にテスト2と営業成績との相関は0.17テスト3と営業成績との相関はマイナス0.21となり、この数値からもテスト1が営業成績との相関が一番高いことが分かるのです。

選抜効果による人材選抜のジレンマ

しかし、現実の社会では、このように成果とテストの相関を明確に測定することが難しいのです。

このことは次のように、テスト1受験者10人と、その営業成績との相関0.72と高いことは散布図(上図)を見てもわかりますが、実際の社会では、(採用された者の営業成績データしか得られないから10人全員の営業成績は不明であり)採用された6人営業成績のしか分からず、採用された6人と、その営業成績との相関0.23と低い値になってしまうのです。

営業成績とテストの結果(選抜効果)


この現象は、「選抜効果」と言われており、例えば大学の入学試験の成績入学後の学業成績との相関を調査した研究でもその相関は0.0~0.3といったように低い値を示していると報告されています※。
このようなことも影響して、「選抜の際の基準となる成果」(この例では営業成績に相当するもの)を明確にすることの難しさが存在するのです。
(すなわち、相関が低いからと言って、入学試験を行うことが無駄(役に立たない)という結論にはならないのです。)

※平野光昭 - 名古屋大学教育学部紀要「国立大学の入試に関する常識と非常識」− 教育心理学科, 1993

まとめ

実際の選抜においては、いろいろな選抜テストのなかで、どの方法を用いるのが良いのか検討することが重要になります。
そのためには、採用や試験の目標を達成したことを示す評価指標データを集め、そのデータと選抜テストの相関も考慮しつつ、慎重に考える必要があるのです。
さらに、これまで説明してきたように、選抜方法には多様な方法があり、多肢選択式試験、記述式試験、人物試験それぞれにおいても、各種の測定誤差が存在していることを承知した上で、より適切な選抜方法を選び出すことが求められるのです。

今回も最後まで、お読みいただきありがとうございます。次回は実際の能力と試験成績の関係を深掘りしていきたいと思います。(Mr.モグ)

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