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ブラック企業から転職したらブラック企業だったけど、割と楽しい#6

ファット(fat)
脂肪の多いこと。また、脂肪。「ローファットミルク」

デジタル大辞泉 / 松村明監修 小学館

ファットマン杉浦曰く、私には気合が足りないのだそうだ。
何事も為せば成る。為さねば成らぬ。本当に何かを為したいのなら手段を選ぶ余地はない。結果を得るためにはすべてを尽くし、努力で補えなければ誰かを頼り、足りないパーツはあらゆる手段を使って埋める。実のところそれは行動次第でどうとでもなる。だからその気合をもってすればあらゆる事が叶うというのに、私は勝ち方やら上手くやろうとするあまりにそれを見失ってしまっているというのだ。

それはその通りかもしれない。その通りでないことを証明できないのだから、その通りなのだろうか。しかしまたその通りであることも証明できない。私は彼ほど信心深くないから、きっと迷える気合いの足りない子羊のように見えるのだろう。

この時ファットマン杉浦は、後に急な脳梗塞を発症し、退職を余儀なくされる。
彼にとってこの結果は思い描いたものだったのだろうか。彼の欲しかった結果はこういうものだったのだろうか。
彼の気合は充分だったのだろうか。

ファットマン杉浦は幸せそうに目の前で焼かれた肉を頬張る。牧場でまるまる太った子羊たちの欠片が、まるまる太った人間の腹に収まっていく。世界では今も多くの子供たちが飢えている現状もあるというが、目の前の幸せな連鎖を見るとそんなことは忘れてしまう。
私はビールのジョッキを傾ける。

「つまるところ安代くんには、あー気合が足りんね。そんなことでは勤まらんとよ。普通の会社員ならまだしも、君はもっと上を目指すけんね。」
彼の訛りは私の地元では耳慣れない。出身はずっと西の方だということは知っているのだが、他に比較対象がいないのでそれが正しいのかどうかはわからない。現代における標準語というのは、かつて東京のどこかの地域で話されていた言葉を標準語として定めたことがルーツらしい。普通とか標準の基準なんてそんなものだ。上とか下とかはまた別の基準があるのだろう。

ファットマン杉浦との会合を終えて、私達はそれぞれ帰路に着く。
ふと、本屋が目に入り立ち寄る。著名なスポーツ選手の名言が書かれた日めくりカレンダーを買う。
気合いの足りない私に、気合を教えてくれますように。どうかその気合いで夢が叶いますように。

to be continued

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