クレームブリュレ
卵黄をたっぷり使った甘い甘いクリームをじっくり蒸し焼きにして、仕上げに砂糖をまぶしたら、蓋をするようにパリッと焼き上げる。
一見かしこまった佇まいでありながら、食べた人の心をとろけさせる不思議な力を持っているクレームブリュレは、誰かと深く語らう時間に、傍らに置いておくのに相応しいスイーツだと思う。
スプーンの先で、こんがり香ばしく焼かれた表面を決して強くはない力で少しずつ砕き割る。
ようやく割れたならそれだけでほんのり穏やかな気持ちが芽生え、その下に隠れているクリームも出来るだけ崩さないように、ゆっくりとスプーンを潜り組ませる。
それを口に運べばたちまち、甘さとほろ苦さと、クリームの柔らかさとキャラメリゼのパリパリした食感の全てが合わさって、至福の一口を味わうとともに、緊張の糸が緩んでいくような心地がするのだ。
相手も私も、ともにクレームブリュレをつついて口へ運んだら、それだけで心の荷解きがされていく。
口の中で溶ける甘いクリームがまた表情をも溶かして、気付けば話もどんどん弾んで、あっという間に時間が過ぎていく。
(時には、味わい過ぎてしばし無言になることもあるけれど・・)
スイーツと会話を充分楽しみながら、お開きになる頃には、またすぐお茶しましょうね、と次の約束を交わしているのだ。
気の知れた友人が相手でも、ゆっくりじっくり話をするのは何だか緊張してしまう。だから、前持って予定をしている時にはスイーツを用意して、甘いお菓子が持つ力を借りている。
心の殻を破るとまではいかなくとも、キャラメリゼを破る感覚は何だか気持ちがほぐれるのかも知れない。
クレームブリュレはそんな不思議な力を持っている。
これまでも幾度かお世話になったけれど、わたしがもう少し大人になれるまで、まだまだお世話になりそうだ。
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