コロナの哲学 はじまり

なかなか収束しなかったあの「パニック」。非日常が日常となった。あの時私たちは何を考えていたのだろうか。と、カッコつけたことをドロウは口にした。

ドロウは事あるたびに毎回名言こいたものを言う。なぜ、こんな事を言うのか。ドロウの友人であるデロゴは、そんな事を考えながら、寛大にそのセリフを受け止めた。理由までは考えられなかった。

キン コーン カーン コーン。チャイムが鳴り響く。ドロウは無言。

早く席につかないと!古びた鉄と床が擦れる鈍音、靴と床が反発し合う音、焦り声、そのような何気ない音を聞きながら、ドロウとデロゴは席についた。

ガラガラ、ドアの開く音。いつも通り。ノソノソと歩いてくるオッサン。いつも通り。教壇まで歩いてきて立ち止まると、あれ、ちがう。いつも通りじゃない。デロゴはそう考える。つづけて、

何が違うのだろうか。いつも口元を覆うようにあったカバーがないことか。ディスタンスがないということか?「教室」という狭い空間に生徒が密に押し込められていることか? いや、ちがう。これはかつてはタブーだったけど、いまや普通に「戻った」。

デロゴは頭の思考回路をフル回転させた。

ドロウがいったことお、そういえばっ。確かに俺らは何を考えていたのだろう。デロゴはクサすぎるあのドロウのセルフを、あながち考えるべき論題かもしれないとして再考すべきものかもしれない、と思った。これは自身も驚く事であった。

けど、デロゴにとって恐ろしいのは、目の前で起こっている現象が、あまりにも普通すぎる事だ。あんなに「パニック」だったのに、今では何もなかったかのように世界が動いている。笑い話にすらなっている。

なぜ皆んな気づかないんだ。いや、自分がおかしいのか?そんなわけない。

なぜ?俺たち生徒は、何も口もとに覆うものを付けてないのに、なぜ先生だけ、つけているの?

これから「————を始める。」と先生が口にしたとたん、俺はとてつもない恐怖に襲われた。

何を始めるんだ?聞き取れなかった!「コ・・」だったか。「コロナ」を始める??

なぜ俺以外は何もないかのように平然としていられるんだ。俺は叫んだ。心の勇気をふるり絞って。皆んな!目を覚まっ、、

「せ!」を言おうとした瞬間、デロゴの意識はなくなった。そのあとデロゴが、これからどのような運命を迎えることなど、彼は知る由もなかった。しかし、これは旅の幕開けでもあった。



 

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